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エピローグ

王女の帰還

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 アルトゥレ王国の王都アルザ。
その空に銀色の艦…アルザスターが現れた時、街は歓喜と熱狂に包まれた。
名実共に女神と認識されるようになった自国の名物王女の凱旋である。
盛り上がるなというのも中々に難しい話しだったのかもしれないが。

「ほらみろ、だから言ったじゃねぇか。王城近くまで光学迷彩装置クローキングデバイスを解くべきじゃねぇって」
「うわぁ。皆、この艦追いかけて、お城に向かって全力で走ってるー。絶対これ万歳祭りの流れだよー?」
「おかしいですわねぇ。ウチの国民は私の仕出かすことなどもう慣れっこだろうと思っていたのですけれど」
「これまでと規模が違うだろが。知らねぇぞぉ? 絶対ぇこれから祝賀謁見まみれになるからな?」

 心底不思議そうな声を出すフィリアにスガルとブルーが、この光景こそ見慣れた物過ぎて至るであろう1番可能性の高い未来を口にする。

「祝賀謁見⁈」
「そ、ひたすら『おめでとうごさいます』『お慶び申し上げます』を順繰りに言われるだけの嵐の中で『有り難う』を返しまくるだけの苦行タイムのことさ。頑張れぇ?」

 物凄くどうでも良さげな音程で激励を投げたブルーは、城の前庭に近い位置の城壁外にあたる場所で艦を止めた。

「ついたぞー。アストレイ、エルリッヒ。お前さん達も一緒に行って顔出しとけよ? 特にアストレイは、この星帰って来るってなった時、高確率でこの城経由になるからな?」
「あら、どうして?」

 ブルーの言葉に不思議そうな顔をしたアストレイが聞き返す。
流石に2人がここまで送ってくれるなんてことはないだろうが、一旦、他国であるアルトゥレ王国の、それも王城経由になる理由が咄嗟には思いつけなかった。

「銀河連邦政府が繋がってんのは、神界繋がりからここの管理界に直接って形で、残念ながらこの星自体じゃねぇんだよ」
「ここ、加盟惑星じゃないからね」

 ブルーの台詞に相槌を打ちながら一段高くなっている自席から飛び降りて来たスガルを先頭に全員でコントロールルームを出た。

「お前がこの星に帰る為に船の操縦技術と整備技術を身につけて、これから貰う給料全部注ぎ込んで、星間超光速航法ワープ機能のついてる自分専用の船でも手に入れねぇ限り、帰りのルート選択は問答無用で管理界経由一択だ。となると基本、イーキュリアに直より、それを言い訳にしてお姫さんに会いたい世界主神エルメシア様が高確率でこの国へ降りろって言い出す筈だぜぇ?」

 管理界へ帰って行った時の様子を見る限り、外れなさそうなブルーの予想にアストレイは、ガックリと肩を落とした。

「そうね、そう思っとくのが無難ね」
「ま、あれっスよ。飛翔魔法と転移魔法ありゃ、馬車よか格段に早く帰れるんスから。女神孝行とでも思って!」
「……アンタ、向こうに居つく気満々ね。完全に言葉の響きが他人事だわ」
「そらそっスよ。俺、この星に未練ないし? これまで3転生分、鬱々した生き方してたんだからガッツリ取り返さないとね!」
「アストレイさんは、3ヶ月勇者訓練校アカデミーで基礎入れて貰うことになってるから、その間は2人一緒に居れると思うよ?」
「俺は? 俺は?」
「お前はまだ未確定な部分が多いが、恐らく三年は勇者訓練校アカデミー通いながら勇者派遣隊ウチの魔法研究所にも出入りしてあれこれやらされることになると思うぜ?」
「あーうん。使ってるトコ見せたら絶対卒業まで待ってくんないよねー……」

 これからのことを話しながら外へ行く為の通路を歩いていると途中、リビングフロアから続いている分岐の角に黒薔薇女豹の5人が待っていた。

「これで全員だね。じゃあ行こう」

 合流した5人を交えて再びスガルを先頭に歩き出すとフィリアの左斜め後ろにラリリアがついた。

「姫様。ちょっと相談があるんだけどいいかい?」
「何でしょう?」
「いやね? アタシら実際あんま役に立ってない気がしてさ? 報酬、辞退しようかと思って…」
「でしたらこのまま暫くの間、私の専属護衛の継続をお願いしてもよろしいかしら?」
「えっ⁈ でも、城には騎士とか衛兵とかどっちゃり居るだろう?」
「ラリリア。受けときな。この提案はお前さん達の為でもあるんだぜ?」

 驚いたように聞き返したラリリアへ答えたのは、フィリアではなくブルーだった。

「どういうことだい?」
「ガルディアナで私と一緒に居た時、ドレンバルド師団長と仰る方が、黒薔薇女豹の皆様のことを『神聖乙女隊ホーリーメイデン』とお呼びになられたのを覚えていらっしゃいまして?」
「ああ。姫様と2人で何だそりゃって話してたヤツだろう?」
「はい。エルメシアと神力の受け渡しをした時に分かったのですけれど、創世教の聖典にその名前がありまして、昔、女性勇者に付き従って魔王を討伐した女性騎士達のことをそんな称号で讃えたのだそうですの」
「待っとくれよ。アタシら騎士じゃ……」
「その方達も称号を与えられたその時まで、騎士ではなかったようですわ」
「………」

 たいして力になれていなかった自覚があるだけにパーティの皆で話し合い、全員一致で報酬を受け取らないことを決めたのに何だか正反対の処遇を受けてしまいそうで、5人はそれぞれパーティ仲間の顔色を伺うように困り切った表情で目線を交わし合った。

「まぁ、要するにお姫さんが危惧してるのは、アンタ達を取り込んで神々との繋がりを自国に得ようなんて連中は、残念ながらゼロじゃねぇってんで? そういうアホに捕まるより一旦、アルトゥレ王国の庇護下に入って、ほとぼり冷めんの待てって話しなのさ。因みに俺達も報酬受け取ってくんねぇと困る事情があるんで、金と武器はそのまま渡すかんな?」
「このままフィリア姫の護衛になるなら武器持っててくれた方が安心だしね」

 最もらしい理屈を並べるブルーと、にこやかに彼とフィリアの意見を後押ししたスガルは、それだけ言って半透明の板へと歩を進めた。

「ラリリアちゃん、貴女達年上のコ達はまだいいけど、ユリアーヤちゃんとエルリーリアちゃんに関しては相手が国となったら逃げきれなくなる可能性も出てくるわ。特にエルリーリアちゃんは、ボロクソになった創世教にしてみれば、フィリアちゃんの次に欲しい人材の筈よ。その辺りも気にしてあげてちょうだいね?」
「いいじゃん、一旦、女神姫サマんとこ行って、それからゆっくり考えれば? 危険度だって実際に肌で感じないと分かんない部分あるだろうしさ?」

 アストレイが具体的な心配事項を上げ、エルリッヒが構えないで気楽に考えれば? と提案じみたことを口にしてスガル達の後を追う。

「皆様。答えは今すぐでなくてもいいですわ。ですが、今は一緒に入城していただかなくては困りますわよ? さあ、参りましょう」

 促しながら4人の勇者を追うフィリアに黒薔薇女豹の5人は、それぞれ考え込むように天井や床へ目をやって。

「取り敢えず行くよ。待たせるのも悪い」
「そうさね」

 ラリリアとリジェンダの言葉を合図に板上へと歩を進め、一行はアルトゥレの地に降りて行った。




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