上 下
241 / 258
最終章 ガルディアナ聖王国編

16分 その1

しおりを挟む
『告。神力による惑星への干渉、全消失を確認。異界神ジャハルナラー消滅作用収束中。反作用拡散まで120ctaセクトアール(約16分)。予想被害状況を算出……終了。ガルディアナ聖王国、クストディオ皇国、ヘイユーディア皇国、イーキュリア王国最北部、ドレアドム大陸西部、ガルマザール大陸東部、ランデュイフト3山第1山、壊滅。ウルマスティア傭兵国、イーキュリア王国北部、シャルライン王国北部、ファルマンゼルダ王国北東部、ランデュイフト3山第2山、第3山、アルバマルト連峰第6山、全壊。イーキュリア王国南部、シャルライン皇国南部、ファルマンゼルタ王国南西部、ツェンバルティア皇国、アルバマルト連峰第5山、第4山、半壊。コルクァンレルマ帝国北部、ルベルタ王国、サンザマルタ王国、マーベラーズ帝国王城及び鉱山領都バルカンザイム領主館外、グラド=ハンチェス公王国北部、エレンザクティア迷宮王国北部、ライツフェルト王国北部、オレガリオ大陸全域、アルバマルト連峰第3山、45%損壊。コルクァンレルマ帝国南部、ライツフェルト王国南部、グラド=ハンチェス公王国南部、エレンザクティア迷宮王国南部、アルトゥレ王国王城外、アルバマルト連峰第2山、第1山、32%損壊。タタンチェイン女后国、パナミュウム皇国ミリザレス領サンサラーディ冒険者ギルド外、バタール王国、及びラルマデリア大陸北部、26%損壊。尚、小島及び群島への被害は発生する衝撃波と津波による被害に限定。高所への避難を推奨』

 アヘーシュモー・ダウェーワーが告げるアナウンスが、機械兵を通して世界の人々へと被害予想を告げる。
 ディエスト大陸に於いて国として影響を予告されなかったのは、サディウス王国ただ1国だけであった。

「ええいっ! たかが16分程度で何が出来るというのだ!」

 風魔法による飛翔魔法擬きで王都中を駆け巡っていた第1王子ムスキアヌスは、左腕の小脇に機械兵を一機抱えたまま、それでも幻楼の精霊と光の精霊、風精霊へと魔力を分け与えて希求する。

「ルリエル! アードリック! レデュース! 国境警備に繋げ!」
[ウン! ワカッタ!]

 3精霊は2つ返事でムスキアヌスの求めを受け入れて、周辺4ヶ国との国境門に常駐する警備兵の責任者、その側にいる同胞達へと呼びかけてボンヤリした像を空中に描き出した。

「国境警備の兵達よ! 私は第1王子のムスキアヌスである!」
『殿下⁈』
『殿下! ファルマンゼルタから避難民が国境門に殺到してくるのが見えます!』
『コルクァンレルマ側も同様です!』
「16分で何処まで収容出来るか分からぬが、辿りついたならば門塀内にある貴族待合室に誘導せよ! 国内にすぐ入れる訳には行かぬが、そこまでならば私が許す! 責任は私が取るゆえ、皆、即時対応せよ!」
『はっ!』
『有り難うございます!』

 どこか嬉しげに返答した警備兵達のボンヤリとした姿が消え去るとムスキアヌスは、唇を噛んで北東の方角へ目を向けた。

(フィリア姫……)

 彼女が真に女神として覚醒したことは、小脇の代物が教えてくれた。
正直言ってそんなことは、どうでもよかった。
ただ、そうなることで当たり前のように彼女へとかかる負担が増えてしまったのだろうことだけが気がかりだった。
 彼女の性格を考えれば、ここで手を抜くようなことはすまい。
後先考えず、無理していることも厭わず全力で事に当たるのだろうことも推測出来る。
それでも。

(無事でいてくれ。己が犠牲になればよいなどとは、間違っても考えてくれるなよ……)

 彼女を庇って1度は死んでしまった己のこの行為に関してだけは、国内でも賛否が分かれた。
だが、否定派の者達もそれを糾弾したい訳ではなく、自分のことを心配してくれて「何で他の方法で助けなかったんだ」という論調だったけれど。
 きっと彼等と出会って変わる前の自分に対する意識だったなら「女神姫を助けて死んだなら上出来だ」が全評価になっただろうことが自分でも理解できるからこその面映ゆさもあるけれど、この出来事があったからこそ分かることもある。
 誰かを助けて己が犠牲になることは、美談にはなるのかもしれないけれど、当事者達は誰も幸せになんかなれないのだと。
 勿論、共にいる勇者達がそんなことはさせないと信じてはいるけれど、そこに自分が居ることが出来ないのだけは、ちょっとだけ悔しかった。

『告。反作用拡散まで90ctaセクトアール(約10分30秒)』
「おっと、いかん! 間に合う内にやることをやらねば!」

 左腕に抱えた物から聞こえた声にそう独りごちてムスキアヌスは、精霊の友を引き連れてまたいづこかへと飛んで行った。





「16分は厳しいですね、殿下」
「言うな、グルヴェイグ。この平丸いののお陰で王城とバルカンザイムの領館には被害がないこととガルディアナ寄りの方が被害の度合いが大きくなるのだと分かっただけでも対応を早く決められる」

 ぽすぽす、と隣に浮かびながらついてくる機械兵を軽く叩きながら言うギルベルトにグルヴェイグも頷いた。

「 “ぎんがのかなた” とやらからやってきた元魔王が味方に回ってくれたのは、僥倖でしたな」
「全くだ。師匠達にも感謝だな。以前の我々なら知識も技術もなく、城や陛下を守れないばかりか、此奴の言うこともやることも頭から信じることが出来ずに国ごと崩壊していただろう」

 国のあちらこちらに現れたこの平丸いものが兵の助けとなってくれて、数多の国民が守られたのだとしても300年振りに現れた魔王の印象が強い者達は、おいそれと「これ」を味方と認識してくれはしなかった。
 国と民にそれを説き伏せたのはギルベルトとグルヴェイグだ。

「今はありとあらゆるものと手を取り合い、この危機を乗り越えなければならぬ時! 滅びたくなければ排斥よりも協力を選ぶしかありませんぞ⁈」
「我々の味方と思うのがそんなに抵抗のあることならば、此奴らは勇者達の味方と思っておけばよい。敵に敵対するものは、利害の一致がある間は味方だ。貴族でそれを分からぬ者など居るまい」

 そんなゴリ押しにも似た危機論理を振りかざしてここまで来た。

「此奴の告げてくることを聞く限りでは、フィリア姫も勇者達も無茶に無茶を重ねまくっておるのだ。私達が多少無茶をしても世界主神エルメシア様も目溢ししてくれよう」
「叱られそうなら名実ともに女神となられたフィリア姫様に執り成しをお願い致しましょう」
「はははははっ! それは良いな! 名案だ。さ、避難所が見えてきた。急ぎ、結界を張って次へ行くぞ、グルヴェイグ」
「はっ!」

 16分。
決して長くはないだろう時をそれでも諦めることなく彼等は前を……未来を見据えて動き続けていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

天空国家の規格外王子は今日も地上を巡り行く

有馬 迅
ファンタジー
 神代古龍との単独戦闘中に転移魔法で知らない土地へと飛ばされてしまった青年は、転移先の地上大陸で生きる人々にとって伝説とされている天空に浮かぶ地、天空国家の第三王子だった。  とにかく自国の近くまで何とか自力で帰ろうと奮闘する彼に襲い来る数々の奇問難問ハニートラップ。 果たして彼は自国へ帰りつくことが出来るのだろうか。 ※R15は保険です(主に暴力表現、グロ用です。エロは多少ありますが本番はタグ通り全力回避方向です) ※ストック尽きたので毎週水曜日更新になります(毎日更新は前作で懲りた)→暫くの間、文字数少なめの不定期更新になります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...