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最終章 ガルディアナ聖王国編
忘却への怨嗟
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連続でブルーの銃から叩き込まれるのは、光と聖の属性弾だった。
どんどんと不定形の闇が撃ち崩されて小さくなっていくのに合わせて、金の光を発したままなフィリアの手に握られた神力鎖もその締め付け具合を変えて行く。
エルリッヒも小さくなっていくのだから本来ならば少なくしていいのではないかと思われる重力魔法と土魔法、蛇牙の魔法による拘束陣の数を増やしていく。
「………」
減らすどころか、風属性と光属性の陣から雷系の拘束魔法を作り出して追加した。
1度ジャハルナラーに煮え湯を飲まされているからか、対応を甘くするつもりなど微塵もないことがよく分かる。
スガルが空に出来ていた一際大きな次元の亀裂を締め終わって上空から降りて来る。
漏れ出ていた妖魔の最後の1体を仕留めたアストレイが聖属性を帯びた鏃の先をジャハルナラーへと向け直した。
「やけに大人しいね」
「魂の記憶に施されてた封印が解けちまった元神にプラスで世界主神の力持たれて拘束されたんじゃ、力の差が歴然過ぎて抵抗するだけ無駄だろうしな。妖精堕ちしかかってる神にしてみりゃよ?」
傍まできたスガルの言葉に淡々と攻撃を継続しながらブルーが答える。
やがて、纏わり付いていた闇が消え去った時、そこに現れたのは、ぺらんとした漆黒の貫頭衣を纏った3歳くらいの少年の姿だった。
神力鎖によってグルグル巻きにされている上、俯せで転がっている為、その表情は窺い知ることは出来ない。
だが、フィリアも4人の勇者達もその場の神々も誰1人としてその姿に惑わされて警戒を解くような愚は犯さなかった。
「やっと本体さんとお会い出来ましたわね? ジャハルナラー」
コツコツとヒールの踵を鳴らしながら近寄ったフィリアがそう声をかけ、俯せで転がったままなジャハルナラーの頭が動いて彼女を見上げる。
その顔と瞳は、憎悪と殺意に満ち溢れて歪んでいた。
[私の為に死ね!]
地面から黒い尖岩が一気に生えてきてフィリアを貫こうとした。
けれど、その半分はフィリアの右側に現れたスガルに斬り払われ、もう半分は左側に立ったブルーに撃ち砕かれて粉々になった。
一瞬だけ鼻の頭に皺を寄せたエルリッヒが、聖属性魔法陣を使用して、拘束を更に上乗せする。
「神で居続けることが、そんなに大事ですの? 妖精堕ちするのがそんなに御嫌でしたら、私のように人道を往けばよいではありませんか。こうして、何かの拍子に記憶が戻れば同時に神としての記憶も力もある程度は戻り、振るうことも可能なのですから人道や獣道を巡ろうと神としての在り方を失いたくないと言うなら構わぬ筈ではありませんか」
[神の坐に戻れる訳ではない!]
5つの魔法陣による拘束の効果もあって起き上がることも出来ないのだろう。
転がったままでジャハルナラーは続ける。
[神である私が人道や獣道に入り、他世界の神々に支配されるなどあってはならないことだ!]
「神は支配者ではありません」
[私の上に立つと言うなら同じことだ! 自分の好きに世界を支配している主神の決めた自分ルールにこれ以上従うのも真っ平だ! 私は私の自由に生きる!]
「アンタの言う自由にセット販売されてる責任は何?」
フィリアとジャハルナラーの問答にそう言って参戦したのはエルリッヒだった。
フィリアの左側、ブルーの隣に立ってジャハルナラーを見下ろす。
「アンタがその自由とやらを求めたから、自分ルールとやらを元にアンタの世界の主神は何某かの形でアンタを追放したんだろ? 言い方変えりゃ、アンタを自由にした。その責任を今、こうして関係ないこの世界と俺達が払わされてんだぞ。自分が求めた自由ならその責任も自分で取れよ……例えその結果ってのが、妖精堕ちだったとしてもな」
「そもそも追放されて元の信者達に忘れ去られちゃうアナタにも問題なぁい?」
フィリアの右側、スガルの隣へ足を運んだアストレイもまた矢を番えたまま、そんな台詞を口にした。
「神に対する信仰と親愛、感謝の心があれば、人はその神を何百年経とうが何千年経とうが忘れはしないわ」
「ええ。私とエルリッヒさんが前世で過ごした場所でも侵略から別の宗教を押し付けられた人々が、芸術や物語を通して自分達の神や信仰を取り戻した例が幾つもあります。神が人々に無限の愛を注ぎ、強制でも盲信でもない愛を人々が信仰として返す、この信頼があればこそ、神は永遠で居られるのです。神の坐を権力の証と考え、固執するのはおやめなさい!」
[煩い!]
道理を説くように語りかけたことは、ジャハルナラーの葛藤材料にすらならかったようで、彼は最後の力を振り絞るようにして神力鎖と魔法陣の拘束を無理矢理跳ね返そうと闇色の力を解放した。
[人間達を恐怖のドン底に落とす魔王ですら300年も覚えてて貰えない! それが人間だ! 妖精族や魔族だって神や魔王を利用してるだけで信じてなんかいやしない! 世界が変わっても神のやることは変わらない程激務なのに感謝も信仰もしてくれるのなんか一握りのヤツだけだ! 下手すれば神の存在すら信じてないヤツだっている! そんなヤツらなんか愛される資格なんかない! 支配されて糧として搾り取られる為に生かされてりゃいいんだ! 皆、皆……滅びればいいんだー!!!]
溢れ出し、暴発や暴走とも取れる赤黒い闇が叫びと共に世界から光を消し去り、世界中を暗闇へと陥れていた。
どんどんと不定形の闇が撃ち崩されて小さくなっていくのに合わせて、金の光を発したままなフィリアの手に握られた神力鎖もその締め付け具合を変えて行く。
エルリッヒも小さくなっていくのだから本来ならば少なくしていいのではないかと思われる重力魔法と土魔法、蛇牙の魔法による拘束陣の数を増やしていく。
「………」
減らすどころか、風属性と光属性の陣から雷系の拘束魔法を作り出して追加した。
1度ジャハルナラーに煮え湯を飲まされているからか、対応を甘くするつもりなど微塵もないことがよく分かる。
スガルが空に出来ていた一際大きな次元の亀裂を締め終わって上空から降りて来る。
漏れ出ていた妖魔の最後の1体を仕留めたアストレイが聖属性を帯びた鏃の先をジャハルナラーへと向け直した。
「やけに大人しいね」
「魂の記憶に施されてた封印が解けちまった元神にプラスで世界主神の力持たれて拘束されたんじゃ、力の差が歴然過ぎて抵抗するだけ無駄だろうしな。妖精堕ちしかかってる神にしてみりゃよ?」
傍まできたスガルの言葉に淡々と攻撃を継続しながらブルーが答える。
やがて、纏わり付いていた闇が消え去った時、そこに現れたのは、ぺらんとした漆黒の貫頭衣を纏った3歳くらいの少年の姿だった。
神力鎖によってグルグル巻きにされている上、俯せで転がっている為、その表情は窺い知ることは出来ない。
だが、フィリアも4人の勇者達もその場の神々も誰1人としてその姿に惑わされて警戒を解くような愚は犯さなかった。
「やっと本体さんとお会い出来ましたわね? ジャハルナラー」
コツコツとヒールの踵を鳴らしながら近寄ったフィリアがそう声をかけ、俯せで転がったままなジャハルナラーの頭が動いて彼女を見上げる。
その顔と瞳は、憎悪と殺意に満ち溢れて歪んでいた。
[私の為に死ね!]
地面から黒い尖岩が一気に生えてきてフィリアを貫こうとした。
けれど、その半分はフィリアの右側に現れたスガルに斬り払われ、もう半分は左側に立ったブルーに撃ち砕かれて粉々になった。
一瞬だけ鼻の頭に皺を寄せたエルリッヒが、聖属性魔法陣を使用して、拘束を更に上乗せする。
「神で居続けることが、そんなに大事ですの? 妖精堕ちするのがそんなに御嫌でしたら、私のように人道を往けばよいではありませんか。こうして、何かの拍子に記憶が戻れば同時に神としての記憶も力もある程度は戻り、振るうことも可能なのですから人道や獣道を巡ろうと神としての在り方を失いたくないと言うなら構わぬ筈ではありませんか」
[神の坐に戻れる訳ではない!]
5つの魔法陣による拘束の効果もあって起き上がることも出来ないのだろう。
転がったままでジャハルナラーは続ける。
[神である私が人道や獣道に入り、他世界の神々に支配されるなどあってはならないことだ!]
「神は支配者ではありません」
[私の上に立つと言うなら同じことだ! 自分の好きに世界を支配している主神の決めた自分ルールにこれ以上従うのも真っ平だ! 私は私の自由に生きる!]
「アンタの言う自由にセット販売されてる責任は何?」
フィリアとジャハルナラーの問答にそう言って参戦したのはエルリッヒだった。
フィリアの左側、ブルーの隣に立ってジャハルナラーを見下ろす。
「アンタがその自由とやらを求めたから、自分ルールとやらを元にアンタの世界の主神は何某かの形でアンタを追放したんだろ? 言い方変えりゃ、アンタを自由にした。その責任を今、こうして関係ないこの世界と俺達が払わされてんだぞ。自分が求めた自由ならその責任も自分で取れよ……例えその結果ってのが、妖精堕ちだったとしてもな」
「そもそも追放されて元の信者達に忘れ去られちゃうアナタにも問題なぁい?」
フィリアの右側、スガルの隣へ足を運んだアストレイもまた矢を番えたまま、そんな台詞を口にした。
「神に対する信仰と親愛、感謝の心があれば、人はその神を何百年経とうが何千年経とうが忘れはしないわ」
「ええ。私とエルリッヒさんが前世で過ごした場所でも侵略から別の宗教を押し付けられた人々が、芸術や物語を通して自分達の神や信仰を取り戻した例が幾つもあります。神が人々に無限の愛を注ぎ、強制でも盲信でもない愛を人々が信仰として返す、この信頼があればこそ、神は永遠で居られるのです。神の坐を権力の証と考え、固執するのはおやめなさい!」
[煩い!]
道理を説くように語りかけたことは、ジャハルナラーの葛藤材料にすらならかったようで、彼は最後の力を振り絞るようにして神力鎖と魔法陣の拘束を無理矢理跳ね返そうと闇色の力を解放した。
[人間達を恐怖のドン底に落とす魔王ですら300年も覚えてて貰えない! それが人間だ! 妖精族や魔族だって神や魔王を利用してるだけで信じてなんかいやしない! 世界が変わっても神のやることは変わらない程激務なのに感謝も信仰もしてくれるのなんか一握りのヤツだけだ! 下手すれば神の存在すら信じてないヤツだっている! そんなヤツらなんか愛される資格なんかない! 支配されて糧として搾り取られる為に生かされてりゃいいんだ! 皆、皆……滅びればいいんだー!!!]
溢れ出し、暴発や暴走とも取れる赤黒い闇が叫びと共に世界から光を消し去り、世界中を暗闇へと陥れていた。
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