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最終章 ガルディアナ聖王国編
最凶の術式
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忍び寄る夜の闇に赤と紫が織りなすオーロラのような光が斑らに空を染めていた。
アヘーシュモー・ダウェーワーの告げる世界侵食深度のパーセンテージが上がる度、それは広く、濃く、伸びていき、精霊界との連携率が下がるにつれてまるで世界が悲鳴を上げているかのように大地や海から淡い光の粒を舞い上げ、亀裂の中へと吸い込んでいく。
16次元から本体を現さないまま続く世界への搾取に亀裂の向こうへ乗り込もうとしたスガルとブルーを止めたのは、神々だった。
「勝利条件の3人と君達を引き離す為の挑発だ。乗るんじゃない!」
「でも、このままじゃ…」
「焦るな! 条件に変更はない。分かるか? ここまでやってもまだヤツに勝てる要素は増えていないんだ」
例えば、この星を破壊しても。
この星に生きる全ての者を殺戮したとしても。
それでジャハルナラーが目的を遂げることはない。
そんなことはヤツ自身も分かっているだろう。
どこかのタイミングで絶対に16次元から出て来るしかないのだ。
「ヤツが人界攻略より管理界攻略を優先したらどうする気だ?」
「やれるものならやってみるがいい。次に死神の印をつけられるのは、転生体では済まぬだろう。だからこそ勝利条件に両世界の破壊は含まれておらぬのだよ」
「だからと言って、これでは犠牲が大き過ぎますわ!」
フィリアの言うことも尤もだった。
大地も水も、恐らくはトリマプトロンエーテルへの変換がされているのだろう。
ある程度、星から引き剥がされると淡い光の粒となって亀裂へ吸い込まれていってしまう。
「……アニキ。試してみたいことがあんだけど、手ェ貸してくんない?」
「何する気だ?」
「前に見せた〈神聖調和誘導〉。あれの無属性部分を惑星霊に変えて使えないかと思って」
「……今のお前にゃ無理だな。惑星霊と縁無ぇから。けど……確かにあの術式は使えそうだな」
エルリッヒの提案にどこか凄絶さすら含んだ笑みを浮かべたブルーが舌先で下唇を湿らせるように舐めた。
「エルリッヒ! 俺と共同で1発かますぞ! 幻楼の精霊力のとこまで陣を敷け!」
「OK!」
ブルーの言葉に間髪入れず返事をしたエルリッヒは、即座に呪動へ入った。
「天の静謐たる 守護の陣は
暁に舞う火の力
全ての源たる水の力
慈しみ、育む温もりを与えし 緑の力」
何やら始めたらしいエルリッヒを神々が不思議そうな顔で見つめ、1度構築の失敗までを見ているスガル達は、この作りかけの失敗魔法だと思っていた術式をブルーがどうするつもりなのか分からなくて黙したまま事の成り行きを見守った。
「時には柔らかに優しく、
時には激しく強き
運び手たるは風の力
静けき、厳格、礎たるは地の力
全ての腐毒、全ての浄化、
相反するも世の必然たるは蛇牙の力」
ここまで見ていて、呪文にも呪動にも魔法陣の構築にも変更点はなかった。
魔法陣を編んでいるのはエルリッヒだけで、ブルーは、彼のすぐ横で自分達同様、それを真剣な表情で見詰めている。
「鎮静と憂慮、
安穏と恐怖を齎す闇の力
光輝と黎明、
神聖と打破を齎す光の力」
そこまでエルリッヒが唱え終え、陣を引き終わった時、彼の傍にいたブルーが徐にコンソールグラスを目元から外して蒼の光に包まれた。
そこまできて、やっと彼が何をする気なのか分かったスガルが「あ!」と一音発して2人の所へ駆けた。
「幻の楼閣、
現と夢が交わるは幻楼の力」
「我が身の力
精霊の親愛
遍く星々と精霊の御名に於いて
全ての頂きに在るは 星の力」
バチバチと音を立てながら他人の術式に無理矢理介入し、剰え星の力を使って描かれた最後の点。
くるり、と蒼の光が金に変わって魔法陣内に定着した、その瞬間。
「ブッ放せ! エルリッヒ!」
「〈神聖調和誘導〉!」
ジャハルナラーにとっては、最も恐れるべき形であったろう、星の力が含まれた術式で最凶の法術が召喚勇者によって放たれた。
アヘーシュモー・ダウェーワーの告げる世界侵食深度のパーセンテージが上がる度、それは広く、濃く、伸びていき、精霊界との連携率が下がるにつれてまるで世界が悲鳴を上げているかのように大地や海から淡い光の粒を舞い上げ、亀裂の中へと吸い込んでいく。
16次元から本体を現さないまま続く世界への搾取に亀裂の向こうへ乗り込もうとしたスガルとブルーを止めたのは、神々だった。
「勝利条件の3人と君達を引き離す為の挑発だ。乗るんじゃない!」
「でも、このままじゃ…」
「焦るな! 条件に変更はない。分かるか? ここまでやってもまだヤツに勝てる要素は増えていないんだ」
例えば、この星を破壊しても。
この星に生きる全ての者を殺戮したとしても。
それでジャハルナラーが目的を遂げることはない。
そんなことはヤツ自身も分かっているだろう。
どこかのタイミングで絶対に16次元から出て来るしかないのだ。
「ヤツが人界攻略より管理界攻略を優先したらどうする気だ?」
「やれるものならやってみるがいい。次に死神の印をつけられるのは、転生体では済まぬだろう。だからこそ勝利条件に両世界の破壊は含まれておらぬのだよ」
「だからと言って、これでは犠牲が大き過ぎますわ!」
フィリアの言うことも尤もだった。
大地も水も、恐らくはトリマプトロンエーテルへの変換がされているのだろう。
ある程度、星から引き剥がされると淡い光の粒となって亀裂へ吸い込まれていってしまう。
「……アニキ。試してみたいことがあんだけど、手ェ貸してくんない?」
「何する気だ?」
「前に見せた〈神聖調和誘導〉。あれの無属性部分を惑星霊に変えて使えないかと思って」
「……今のお前にゃ無理だな。惑星霊と縁無ぇから。けど……確かにあの術式は使えそうだな」
エルリッヒの提案にどこか凄絶さすら含んだ笑みを浮かべたブルーが舌先で下唇を湿らせるように舐めた。
「エルリッヒ! 俺と共同で1発かますぞ! 幻楼の精霊力のとこまで陣を敷け!」
「OK!」
ブルーの言葉に間髪入れず返事をしたエルリッヒは、即座に呪動へ入った。
「天の静謐たる 守護の陣は
暁に舞う火の力
全ての源たる水の力
慈しみ、育む温もりを与えし 緑の力」
何やら始めたらしいエルリッヒを神々が不思議そうな顔で見つめ、1度構築の失敗までを見ているスガル達は、この作りかけの失敗魔法だと思っていた術式をブルーがどうするつもりなのか分からなくて黙したまま事の成り行きを見守った。
「時には柔らかに優しく、
時には激しく強き
運び手たるは風の力
静けき、厳格、礎たるは地の力
全ての腐毒、全ての浄化、
相反するも世の必然たるは蛇牙の力」
ここまで見ていて、呪文にも呪動にも魔法陣の構築にも変更点はなかった。
魔法陣を編んでいるのはエルリッヒだけで、ブルーは、彼のすぐ横で自分達同様、それを真剣な表情で見詰めている。
「鎮静と憂慮、
安穏と恐怖を齎す闇の力
光輝と黎明、
神聖と打破を齎す光の力」
そこまでエルリッヒが唱え終え、陣を引き終わった時、彼の傍にいたブルーが徐にコンソールグラスを目元から外して蒼の光に包まれた。
そこまできて、やっと彼が何をする気なのか分かったスガルが「あ!」と一音発して2人の所へ駆けた。
「幻の楼閣、
現と夢が交わるは幻楼の力」
「我が身の力
精霊の親愛
遍く星々と精霊の御名に於いて
全ての頂きに在るは 星の力」
バチバチと音を立てながら他人の術式に無理矢理介入し、剰え星の力を使って描かれた最後の点。
くるり、と蒼の光が金に変わって魔法陣内に定着した、その瞬間。
「ブッ放せ! エルリッヒ!」
「〈神聖調和誘導〉!」
ジャハルナラーにとっては、最も恐れるべき形であったろう、星の力が含まれた術式で最凶の法術が召喚勇者によって放たれた。
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