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最終章 ガルディアナ聖王国編

幕開け

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 きっと少し前の自分なら「俺を誰だと思っている? 地に平伏すしか能の無い雑魚に用はない」とか言って一頻り煽ってから戦闘に突入していただろうな、と思う。
 予めブルーによって神聖魔法に弱いことは知らされているのだから尚の事だ。

「けど今回は、ここで終わりじゃないかんね。いらない余裕ぶちかますよりは、とっとと終わらさないと!」

 ブルーに容量を増やしてもらった収納へと手を突っ込んで仕舞ってある飛翔魔法の陣に触れると、それをコピーして収納から取り出し、すぐ目の前こ空間にペーストすると即座に発動させた。

「さぁて、アニキが考えてくれた俺の新しい戦い方、試させてもらうぜ!」

 上空へ飛び立った妖魔を追いかけて発動させた飛翔魔法で追い縋る。
速度はこちらが上だ。
 自慢じゃないが、ジェットコースター怖いとか格好悪い! みたいな理由で1人遊園地連続コースター搭乗体験を前世で繰り返し、緩急上下に回転錐揉みと金が続く限り慣れ親しんだ自分に死角はない! と本気で思っていたので振り切られない自信があった。

「後は、この世界の神聖魔法と俺の作った聖属性魔法、両方使ってみてどれが何処まで効くか試してみないとな!」

 再び収納へと右手を突っ込み、人差し指の先で神聖魔法「神聖飛槍セイルジャベリン」の陣をコピーして、収納から手を抜くと同時に必要がないのを分かっていながら叫ぶ。

「ペースト、フィフス!」

 エルリッヒの言葉と右腕を左から右へ真横に動かして行くことによって、全く同じ神聖飛槍セイルジャベリンの魔法陣が、ずらっと5つ並んだ。
 高速飛行中でも自身を基点として構築している所為で陣が後方へと置いていかれることもない。

「そんでもって! コピペ、フィフス!」

 今度は作り上げた5枚の陣を対象に5回繰り返すコピーペーストを行えば、神聖飛槍セイルジャベリンの魔法陣が一気に25枚に増えた。
 前方を飛びながらチラチラとエルリッヒの方を窺い見ていた妖魔は、偶々ではあったもののそれをモロに見てしまい、驚愕の表情を浮かべた次の瞬間、必死の形相で限界まで加速した。

「あ! このヤロっ、逃すか!」

 本当は、もっと数を増やしてから放つつもりだったけれど、逃げられては元も子もないので、取り敢えず1つ目の魔法はこれでいいことにして縦に5枚、横に5枚の正四角形状態に並んだ陣を一斉に発動させた。

自動追尾ホーミングON! 全魔法陣、一斉掃射!」

 放たれた神聖魔法で出来た純白の十字槍が、妖魔に向けて放たれた。
 本来の軌道は魔法陣の正面なのを知っているのだろう。
 妖魔は飛ぶ軌道に変化をつけて、それを全て避けてしまおうとしたけれど、ブルーとエルリッヒによって魔改造された神聖飛槍セイルジャベリンの魔法陣にはON・OFF可能な自動追尾性能が追加記述されていて、彼はしっかりそれをONにしてから放った為、避ける妖魔の動きに合わせて純白の十字槍は綺麗にその後をついて行った。
 逆に真っ直ぐ全力で逃げた方がスピードに乗って逃げられるのでないかと思えるのは、開いているその距離がどんどん縮まっていくからだろうか。
 やがて縦横無尽に逃げ続けるのも限界を迎え、狙った訳ではないけれど幾つか前に避けた槍と今避けた槍、そしてこれから飛んで来る槍の軌道。
それらが妖魔を支点に点対称の軌跡を描いたことで逃げ場を失い、4本の槍がその身を貫いた。

[グギャッ!]

 そこで動きが止まってしまえば、残る21本の槍が次々と突き刺さって行くことは自明の理で。
 槍の形を成している神聖魔法の力が妖魔の身を跡形もなく聖なる力で焼き尽くした。

れ?」

 音としては「あ」よりも限りなく「は」に近い発音で疑問の声を上げるエルリッヒの目の前で塵となって消えた妖魔に信じられないものを見たかのように彼は瞬きを繰り返した。

「え? マジ? ちょ、嘘だろ? まだ1個しか試してないのに!」

 愕然としながら文句じみたことを口走る、その脳裏にブルーの声が蘇る。
『妖魔の外皮って基本、神聖魔法に弱ぇし。そこ補おうとか考えたら闇属性の魔石がしこたま必要になるしな』

「や、待ってアニキ。これ弱ぇってレベルじゃないよ! 激弱じゃん! ……確かに鎧には絶対的に向いてないけど」

 そこだけは納得してしまった彼の耳に微かな剣戟音が背後から聞こえてきた。
何だろう? と振り返った目に映ったのは、いつの間にやら亀裂から上半身を丸ごとこちらに出してしまっているジャハルナラー、その巨大な手がフィリアに向かって伸びていた。
 黒薔薇女豹の面々は全て地に伏し、ピクリとも動かず、フィリア自身も崩折れたような格好で座り込んでいた。
 音は、伸びているジャハルナラーの指をスガルが光剣で弾き飛ばしたからのようだった。

「やっべ! もう向こう始まってる!」

 それに気がついて浮かんでいた空間から彼らの方に向かって飛翔を再開するのとブルーがマシンガンみたいな調子で弾をぶっ放すのが重なった。

「うおっ、何あれ? 何の属性⁈」

 ジャハルナラーの身体に着弾した時点で、青味がかったグレーメタリックの球体に土星の輪が斜めに交差する形でクルクル回っていた。
 ブルーが銃の形状を変え、今度は亀裂周辺の空間に向けて弾を発射する。
すると一旦、魔法陣として亀裂周辺に現れたそれは黄色味がかったホワイトメタリックの球体に縦横斜め4本の輪を纏っていて、輪が回転を始めると同時にジャハルナラーの身体にくっついていたグレーメタリックの球体と強い磁力で引き合ったかのような動きをして、その上身を張り付け状態に固定した。
 上半身しかこちらに出て来れていないとは言え、見た感じ全力で抗っているように見えたけれど、それを捩じ伏せるだけの威力を持つ攻撃が、彼らには可能なのだ。
 これが、1時間で魔王を制圧出来る勇者。
 神より上位の存在から神殺しを容認される存在。
 無意識に喉が嚥下の動きをする。
興奮と尊敬で身体が震える。
 捕えられたジャハルナラーが、それでも抵抗を諦めていないかのように頭上から赤黒い光の線をフィリアへ向けて放つ。

「させるかッ!」
「やらせないわよッ!」

 魔法反射の盾を構築する魔法陣を収納からコピペして放つと同時にアストレイの声が聞こえて、フィリアと倒れている黒薔薇女豹に守護の半球が作り出された。
 フィリア達は、当然のように無傷で守られ、反射された赤黒い光は明後日の方向へと消えて行った。
 どちらからともなくアストレイと視線が合って、互いに口角が上がった。

「スガルちゃん、ブルーゼイ、お待たせ! こっちの守りは任せて頂戴♡」
「ジャハルナラー! てめぇに最大級の感謝・・を込めて、この世界から叩き出してやるよッ!」

 フィリア達の側に降り立ったアストレイ、ブルーとスガルの間に陣取ったエルリッヒ。




 …── ジャハルナラーとの最後の戦いがここに、幕を開けた。



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