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第8章 クストディオ皇国編

地下への扉

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 スガル達が、騒ぎのあった場所から中央広場に戻ると丁度、艦からブルーが半透明の板に乗って降りて来る所だった。
 その側には、捕縛結界から出してもらうことが出来たらしい神殿長の姿がある。

「ルマラックのこと、結界から出すことにしたの? アニキ」
「まぁな。所謂、司法取引ってヤツさ。敵性存在表示からも完全に外れてるしな」
「儂と皇弟殿下が揃っとる方が、神殿側も姫様や勇者達の要求を拒否しにくかろうて」
「確かにな。アンタまだ、創世教で地位剥奪された訳じゃねぇもんな」
「うむ」
「では、聖銃士様。いよいよルリム陛下達の救出と聖脈穴の修復に向かえますのね?」

 敵性存在から外れた、と言う事とこれからの動きに協力するつもりがあるらしい言動を見てフィリアが確認するようにブルーへと問いかける。

「ああ。スガルがヤツの本体をぶった斬ってくれたお陰でこの国にあった干渉波は軒並み消えたし、皇弟と騎士団のお陰で皇王と狂信者どもの動きも封じることが出来てる。頃合いだろうと思ってな」
「そうだね。正直言って、障力で満たされた聖脈穴に入れられてる人達は、障気中毒になってる危険性もあるからここまで事が進んだなら、なるべく早く出してあげたいよね」
「ああ」
「では、参ろうかの。皇弟殿下、御足労をお願い致してもよろしいですかのう?」
「皇弟の地位は既に捨てた。私はただの反皇王軍司令官だ。国賊テデュウスによって謂れなき罪を被せられ、皇王の地位を追われたルリム皇王陛下と心ある民達を監禁の憂き目より解放致す為、私達こそ、貴方のご助力を願いたい」
「承りました。儂もこの騒動が終われば神殿長の職は辞する心算でございますゆえ。心中、お察し申し上げまする」
「おじぃちゃんっ、辞めちゃうですかっ⁈」

 フェルディエンツと神殿長のやり取りに、今聞いてはいけないと思いつつもエルリーリアは、その問いを口にしてしまっていた。
 特別礼拝で、それこそ何かに取り憑かれていたかのようだった様子は面影すらなく、彼は無言のまま静かに笑ってエルリーリアの頭を撫でた。

「参りましょう」

 言葉よりも明確にエルリーリアへの答えが含まれていた所作を見詰めていたフィリアが顔を上げて、凛とそう言い放った。
それを合図にして、予めそうと決めていた訳でもないのに先頭にフェルディエンツと神殿長が並び立ち、その後ろにスガルとアルジェリクト。
 次にフィリアが続き、その後ろにブルーとアストレイ。
2人の後に戻ってきたサナンジェを加えた黒薔薇女豹の面々とエルリッヒが整然と並び、神殿への道を歩き始めた。
 最初は、その様子を恐々と窓の向こうや建物の陰から見ていた人々も1人、また1人と姿を現し。

「女神姫様! この国を元の国に戻してください!」
「平和で、豊かだった私達の国に!」
「聖勇者様っ! あの頭のおかしい連中、叩き出してください!」
「聖銃士様っ! 教会に奪われた夫を助けてください!」
「娘を! 治療の金がなくてっ、奉仕してただけだった筈の娘を、おかしくしちまった奴等を何とかしてください!」

 口々に訴えかける人々で神殿までの道は縁取られてゆく。
だが、フェルディエンツを始めとして一行は、誰1人としてそれに返答することなく無言のまま歩を進めていく。
 彼等の言うことに応えてやりたいのは山々だが、聖脈穴の中がどうなっているのか分からない現状では、気軽な空約束は余計に彼等を苦しめる結果になりかねないことを誰もが分かっていた。
 一行は、辿り着いた神殿の大きく開かれたままな正門と礼拝堂の大扉を潜ったが、街の人々は、神殿前で足を止めてそこに集まり、変わらず訴えかけをしていたが、中にまではついてこなかった。
 朝の特別礼拝での騒ぎは神殿の外にいた人々にも一定の忌避感を植え付けたようだ。
 祭壇前の身廊を右へと曲がって右袖廊へ向かうと壁に設えられた扉から一旦、別棟へと入り、そこから地下へと続く階段が伸びていた。
 迷うことなく降りていくフェルディエンツと神殿長に他の者も続く。
 やがて見えてきた階段下の扉は、しっかりと鍵まで閉じられていたけれど神殿長が居たことで魔法を使うまでもなく中へと入ることが出来た。

「ここで治療に使っている魔導具が、壊れているか変な形で使われているのではないかというお話がございましたわよね?」

 思い出したように言ったフィリアの声に神殿長が首を横に振る。

「ジャハルナラーの転生体を名乗るヴィゼン枢機卿が、まだマズリオと名乗ってこの神殿に司教として在籍しておった時、修繕できたとかで、また使えるようになったのじゃ。恐らくは、その時に機能を改竄されたのじゃろう。魔導具を動かす者や対象となる怪我人や病人が居らねば意味はないと思うが、見て行くかね?」

 確かに先を急がねばならないことも確かだったけれど、おかしくなった街の人達を助けることが出来るのであれば、魔導具の確認は必須な気がした。

「聖脈穴に捕らわれている方々に、その魔導具は使われてはおりませんのね?」
「儂の知る範囲では、そうなるの」
「お姫さん、魔導具の確認は後にしようぜ? 使われてるか使われてないかは下行きゃ分かるこったし、使われてないならないで、聖脈穴を修復してる時に俺が見ときゃいい」
「分かりましたわ。参りましょう」

 神殿長の返答とブルーの提案を受けて決定したフィリアの言葉に従って、再び歩き出した一行は、祈りの間と呼ばれているそこにある祭壇の裏へと周り、床に設えられている地下へ降りる階段がある扉へ向かう。

「ん?」

 フェルディエンツが訝しげな声を上げたのは、その床にある地下への扉が既に開いていたからだった。

「ブルー」
「了解」

 名を呼ばれたブルーが即座にスガルの側へ行き、フェルディエンツと神殿長の前にアストレイとリジェンダが移動した。

「行くのね?」
「ここの守りはアタイらに任しときなっ」
「頼んだよ」

 それだけ2人に答えたスガルは、収納から光剣を出して認証を解除し、ブルーも左右の手に銃を握る。
 スガルが慎重に階段を降り始め、半歩後ろに続く形でブルーが続いた。
 2人の姿が見えなくなると全員を覆う形でアストレイが結界を展開し、床の扉方向へ視覚透過した盾をリジェンダが構えた。

「この場所を知っとるものは限られとる。少し離れとった方がいいかもしれんぞ?」
「そうですわね。皆様。一旦、後ろの壁まで下がりましょう。もし敵が居て逃げてきたなら勇者様方のお邪魔になってしまうかもしれませんわ」
「そうしようか。下がるよ、皆」

 神殿長の提案とフィリアの承諾を受けて発せられたラリリアの指示に全員が従う形で、アストレイの張った結界ごとゆっくり一同が祈りの間の壁面まで移動した。
 何が起こっているのかまだ分からず、特に戦闘音を響かせてくることもない床の入口を全員が固唾を飲んで見詰めていた。




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