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第8章 クストディオ皇国編
正直者
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「詳しいお話しをさせていただく前に現在の状況説明をさせてくださいませ」
そう前置きして街の上空に着いてからのことを話し始めたフィリアは、世界主神からの託宣として夢の話しもしっかりと交えて、先日の皇王と神殿で会って話したことまでを説明した。
正直言って、フェルディエンツがフィリアの前で皇弟として名乗らなかったのは、英断としか思えないような愚挙の連続でアルジェリクトは内心で冷汗をかいていた。
フェルディエンツにしてみてもそれは同じで、特に兄がやらかした明らかな敵対行動 ── フィリアに指摘されなければ間違いなく口にしていただろう数々 ── は、お前ホントに前皇王に罪着せる気あるか? と突っ込まれても反論出来ないような代物だった。
「私達といたしましては、倶生神に尋ねるまでもなく黒と判断しておりますので申し訳ございませんが、いずれ神々の処断からは逃れ得ぬものと御覚悟くださいませ」
「構いません。何より皇王がジャハルナラー教団と密接な関係にあるのは、私共も承知しておりますし、神々から処断されるより先に皇王の座から引きずり落とす心算でございますので」
心中にて「あのクソ兄貴」と吐血せんばかりの呪詛を唱えながらフェルディエンツは答えた。
「では、具体的な策についてなのですけれど……聖銃士様?」
「はいよ。神殿内にいるジャハルナラー教団の連中は、俺達がほぼ捕まえてるんで問題ないんだが、さっきみたいに自爆前提で突っ込んでくるような狂信者と皇王を始めとする貴族内の捕縛は進んでない状況だ。まだ連中がヴィゼン派程度だった頃にそこに所属してることをキャッチして地図魔法上に表示する魔道具は出来上がってて、実用試験も終わってるんで、先ずは街中に散らばる教団員を捕まえることから始める。恐らくその過程で、旧創世教派と解放派から接触があるだろうと踏んでるんで、この団員捕縛の段階からアンタ達には出張って貰うことになると思う」
簡単に近々で始めることを説明して1度言葉を切ったブルーにフェルディエンツとアルジェリクトが頷く。
「俺の読みでは、皇王になってるっつーのに文句言う為だったら、やたらとフットワークが軽くなるアンタの兄貴が、そろそろ中央広場の騎士団に何で俺らを攻撃しねぇんだってイチャモンつけに来…」
そこまでブルーが口にした瞬間、コントロールルームからのコール音が室内に鳴り響いた。
「期待を裏切らないねぇ」
いっそ笑みすら零しながらブルーがコンソールグラスを操作する。
「こちらブルーゼイ。何があった? エルリッヒ」
『アニキの読み大当たりだよ。何か、御輿みてぇのに乗って皇王が中央広場まで来て騎士達に叫んでるー』
「今押したパネルの右隣に黄色パネルあるの分かるか?」
『うん。押すの?』
「頼む」
程なくして、エルリッヒがパネルを押したのだろう。
フリールームの入口側にモニターが1枚現れて、広場の様子を映し出した。
『弟と騎士団長が居らねば動けないなどあり得ぬだろう⁈ そなた達は皇国騎士団! 余の配下だぞ!』
『申し訳ございませんが、陛下はまだ騎士団総括の任命式を終えておられませんので、我々は現在、前皇王陛下の配下なままなのです。ですので、直接の命令権はございません。今回は、我々の総括を前陛下から代理委任されておられたフェルディエンツ様が出陣されると御判断されたので、我々はここに居るに過ぎません』
『余の命令で来たのではないと申すか⁈』
『はい』
皇王の座に在る少年の言葉を鰾膠もない一言で肯定したのは、第1師団の師団長だが、側にいる第2師団の師団長も同意見である上、騎士達もそのつもりで随伴してきているので、どこからも制止や訂正は入らなかった。
『弟は何処におる!!』
癇癪を起こして怒鳴り上げた皇王に第1師団長は、肩の高さまで持ち上げた右手の人差し指を上空へと向けた。
当然ながらそこには、勇者やフィリア姫の乗っているだろう銀色の塊が浮かんでいて。
『皇王たる余に見上げさせるとは何事だ!』
『え? そこ?』
御輿の上に立ち上がり、上空に向けて悪態をついた少年に、第1師団長が素で突っ込んだ。
『降りて来い! フェルディエンツ! フィリア! 勇者共!』
「……………見なかったことにしましょう。我々は、国の命運を決める重大な会談の最中なのですから」
艦を指差し、御輿の上でガスガスと地団駄踏む皇王をサラッとスルーすることを提案したのは、アルジェリクトだった。
御輿を担いでいる者達には申し訳ないが、これから敵対するだけの癇癪小僧の御機嫌取りより目の前の優先度激高な案件に集中したかった。
「うわぁ。俺、あっち残ってなくて良かったー。あの人、話し通じないから好きじゃないんだよねー」
「それ、ここで口にしちまっていいのかい?」
「あはっ。キレーなおねーさんに声かけて貰えるキッカケになったから、今だけほんのちょっとアイツのこと好きになった」
「理由」
ラリリアのした問いかけにヘラヘラ笑いながら答えたエクセリオンのセリフに今度はユリアーヤが単語のみで突っ込んだ。
「ま、文句言ってるだけみてぇだし、騎士団にも取り合う気ねぇみてぇだし、こっちは様子見だな。エルリッヒ。下の状況に変化があったらまた教えてくれ」
『了解、アニキ』
ブルーとエルリッヒとのやり取りが終わると同時に広場を映すモニターも消え失せた。
「兄が、お見苦しい所を……誠に申し訳なく……」
「先程、話した時も思いましたけれど、我が国へいらした頃からまるで変わりませんのね、あの方」
「……変わる気が……ないので……」
「それが見限る理由の1つですか?」
「確かにそれもあります。父と母も今ならまだ助けられるかも、とか他にも色々……ですが、正直に申し上げますと、この街へ来て、民の変わりようを目の当たりにしたのが決意した1番の理由です。我が国の民は、こんな非友好的な者達ではありません。観光客も巡礼客も多いので、気さくで明るくて皆、親切で……花壇や街路樹にだって精霊が居るのを見れたりしていたのに……こんな風に人や街や国が変わってしまうことが耐えられない。父が皇王であった時にはこんなことなどなかったのに、ジャハルナラー教団が神殿の上層部に食い込み、貴族達を取り込み、兄を旗頭にして国を乗っ取られたからこんなにも変わってしまったのだと言うなら……奴等を排すことで少しでも元に戻ってくれるならば、戻って欲しい。そんな理由なのです」
正直に言う、と前言しただけあってフェルディエンツの言葉は明け透けで、目に見える形で比較対象が存在することもその判断に拍車をかけているように感じられた。
「フェルディエンツ様。まだ間に合うと信じて私達と共に動きましょう。貴方と貴方の見た民の姿を私も信じます」
フィリアが1つ頷いてから口にした言葉にフェルディエンツは、嬉しそうに笑みながら「はい」と短く答えて右手を差し出した。
フィリアもそれに応えて右手を出して両者が握手を交わしたことで、会談場所は作戦室へと状況を移行させた。
そう前置きして街の上空に着いてからのことを話し始めたフィリアは、世界主神からの託宣として夢の話しもしっかりと交えて、先日の皇王と神殿で会って話したことまでを説明した。
正直言って、フェルディエンツがフィリアの前で皇弟として名乗らなかったのは、英断としか思えないような愚挙の連続でアルジェリクトは内心で冷汗をかいていた。
フェルディエンツにしてみてもそれは同じで、特に兄がやらかした明らかな敵対行動 ── フィリアに指摘されなければ間違いなく口にしていただろう数々 ── は、お前ホントに前皇王に罪着せる気あるか? と突っ込まれても反論出来ないような代物だった。
「私達といたしましては、倶生神に尋ねるまでもなく黒と判断しておりますので申し訳ございませんが、いずれ神々の処断からは逃れ得ぬものと御覚悟くださいませ」
「構いません。何より皇王がジャハルナラー教団と密接な関係にあるのは、私共も承知しておりますし、神々から処断されるより先に皇王の座から引きずり落とす心算でございますので」
心中にて「あのクソ兄貴」と吐血せんばかりの呪詛を唱えながらフェルディエンツは答えた。
「では、具体的な策についてなのですけれど……聖銃士様?」
「はいよ。神殿内にいるジャハルナラー教団の連中は、俺達がほぼ捕まえてるんで問題ないんだが、さっきみたいに自爆前提で突っ込んでくるような狂信者と皇王を始めとする貴族内の捕縛は進んでない状況だ。まだ連中がヴィゼン派程度だった頃にそこに所属してることをキャッチして地図魔法上に表示する魔道具は出来上がってて、実用試験も終わってるんで、先ずは街中に散らばる教団員を捕まえることから始める。恐らくその過程で、旧創世教派と解放派から接触があるだろうと踏んでるんで、この団員捕縛の段階からアンタ達には出張って貰うことになると思う」
簡単に近々で始めることを説明して1度言葉を切ったブルーにフェルディエンツとアルジェリクトが頷く。
「俺の読みでは、皇王になってるっつーのに文句言う為だったら、やたらとフットワークが軽くなるアンタの兄貴が、そろそろ中央広場の騎士団に何で俺らを攻撃しねぇんだってイチャモンつけに来…」
そこまでブルーが口にした瞬間、コントロールルームからのコール音が室内に鳴り響いた。
「期待を裏切らないねぇ」
いっそ笑みすら零しながらブルーがコンソールグラスを操作する。
「こちらブルーゼイ。何があった? エルリッヒ」
『アニキの読み大当たりだよ。何か、御輿みてぇのに乗って皇王が中央広場まで来て騎士達に叫んでるー』
「今押したパネルの右隣に黄色パネルあるの分かるか?」
『うん。押すの?』
「頼む」
程なくして、エルリッヒがパネルを押したのだろう。
フリールームの入口側にモニターが1枚現れて、広場の様子を映し出した。
『弟と騎士団長が居らねば動けないなどあり得ぬだろう⁈ そなた達は皇国騎士団! 余の配下だぞ!』
『申し訳ございませんが、陛下はまだ騎士団総括の任命式を終えておられませんので、我々は現在、前皇王陛下の配下なままなのです。ですので、直接の命令権はございません。今回は、我々の総括を前陛下から代理委任されておられたフェルディエンツ様が出陣されると御判断されたので、我々はここに居るに過ぎません』
『余の命令で来たのではないと申すか⁈』
『はい』
皇王の座に在る少年の言葉を鰾膠もない一言で肯定したのは、第1師団の師団長だが、側にいる第2師団の師団長も同意見である上、騎士達もそのつもりで随伴してきているので、どこからも制止や訂正は入らなかった。
『弟は何処におる!!』
癇癪を起こして怒鳴り上げた皇王に第1師団長は、肩の高さまで持ち上げた右手の人差し指を上空へと向けた。
当然ながらそこには、勇者やフィリア姫の乗っているだろう銀色の塊が浮かんでいて。
『皇王たる余に見上げさせるとは何事だ!』
『え? そこ?』
御輿の上に立ち上がり、上空に向けて悪態をついた少年に、第1師団長が素で突っ込んだ。
『降りて来い! フェルディエンツ! フィリア! 勇者共!』
「……………見なかったことにしましょう。我々は、国の命運を決める重大な会談の最中なのですから」
艦を指差し、御輿の上でガスガスと地団駄踏む皇王をサラッとスルーすることを提案したのは、アルジェリクトだった。
御輿を担いでいる者達には申し訳ないが、これから敵対するだけの癇癪小僧の御機嫌取りより目の前の優先度激高な案件に集中したかった。
「うわぁ。俺、あっち残ってなくて良かったー。あの人、話し通じないから好きじゃないんだよねー」
「それ、ここで口にしちまっていいのかい?」
「あはっ。キレーなおねーさんに声かけて貰えるキッカケになったから、今だけほんのちょっとアイツのこと好きになった」
「理由」
ラリリアのした問いかけにヘラヘラ笑いながら答えたエクセリオンのセリフに今度はユリアーヤが単語のみで突っ込んだ。
「ま、文句言ってるだけみてぇだし、騎士団にも取り合う気ねぇみてぇだし、こっちは様子見だな。エルリッヒ。下の状況に変化があったらまた教えてくれ」
『了解、アニキ』
ブルーとエルリッヒとのやり取りが終わると同時に広場を映すモニターも消え失せた。
「兄が、お見苦しい所を……誠に申し訳なく……」
「先程、話した時も思いましたけれど、我が国へいらした頃からまるで変わりませんのね、あの方」
「……変わる気が……ないので……」
「それが見限る理由の1つですか?」
「確かにそれもあります。父と母も今ならまだ助けられるかも、とか他にも色々……ですが、正直に申し上げますと、この街へ来て、民の変わりようを目の当たりにしたのが決意した1番の理由です。我が国の民は、こんな非友好的な者達ではありません。観光客も巡礼客も多いので、気さくで明るくて皆、親切で……花壇や街路樹にだって精霊が居るのを見れたりしていたのに……こんな風に人や街や国が変わってしまうことが耐えられない。父が皇王であった時にはこんなことなどなかったのに、ジャハルナラー教団が神殿の上層部に食い込み、貴族達を取り込み、兄を旗頭にして国を乗っ取られたからこんなにも変わってしまったのだと言うなら……奴等を排すことで少しでも元に戻ってくれるならば、戻って欲しい。そんな理由なのです」
正直に言う、と前言しただけあってフェルディエンツの言葉は明け透けで、目に見える形で比較対象が存在することもその判断に拍車をかけているように感じられた。
「フェルディエンツ様。まだ間に合うと信じて私達と共に動きましょう。貴方と貴方の見た民の姿を私も信じます」
フィリアが1つ頷いてから口にした言葉にフェルディエンツは、嬉しそうに笑みながら「はい」と短く答えて右手を差し出した。
フィリアもそれに応えて右手を出して両者が握手を交わしたことで、会談場所は作戦室へと状況を移行させた。
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