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第7章 マーベラーズ帝国編

うにょんうにょん みよんみよん

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 目の前に展開する景色にフィリアとアストレイは素直に「気持ち悪い」と感じていた。
これまで聖脈穴まで直通で空いている通路がなかった場合、土精霊に協力を頼んで一時的に移動してもらうことで道を作っていたのだけれど、今回の場所が鉱山であることからその方法は見送られていた。
 何故なら土精霊協力の元に移動した土中の環境は、完全に元に戻るのではなく周囲に影響がない程度に穴埋めされている、というのに状況が限りなく酷似する為、鉱石や鉱脈、鉱床の位置が変わってしまったり予定の産出量が見込めなくなってしまう可能性が懸念されたからだ。
ではどうするのだ、となった時に代替え手段として講じられたのが現在のこの景色 ── 進んで行く周囲だけ空間が歪んで磁性流体化しているかのような動きで土中の物が全て3人を避けていく ── なのだが、動きが粘性の高いスライムみたいで指示器がなければ視覚も方向感覚もあったもんじゃなく。

「なんか、アタシ、気持ち悪くなってきたんだけど? ……自分が進んでるのか実は立ち止まってるのか、後ろに引き戻されてるのか良く分かんなくなってて……」
「私も、光っているものを見ている訳でもないのに目がチカチカ致しますわ……」
「あー…空間魔法系って、慣れてないと酔うような視覚効果が多いからねー。視覚だけ次元切り替えられると楽なんだけど慣れてないと無理だよねー?」
「少なくとも言われてパッと出来るとは思えない話しね」
「どうやればそれが実現するかすら分かりませんわ……」

 それぞれに頭や胸元を押さえて喋る2人に、これは想像以上にダメージが大きそうだと判断したスガルは即座に艦へ残っているブルーに念話を飛ばした。

「ブルー、やっぱり2人ともダメだったみたい。一旦2人には転移で艦に戻ってもらって僕だけで聖脈穴の近くまで移動した方がいいんじゃないかなぁ?」
『あー…そうだな。三半規管イカレて空間識失調になる前に一旦戻った方がいいな』
「艦の座標ちょうだい? いつもの調子で飛ぶとおかしなとこに出そう」
『こっちで引っ張ろうか?』
「ああ、2人にはその方が楽かも。ちょっと話してみるね?」
『ああ』

 簡単な相談を艦に居るブルーと交わして立ち止まったスガルは、2人へと向き直った。

「あのね? 今、ブルーと話したんだけど、このままの状態でいると2人とも認識障害起こしちゃうから、一旦、艦に戻ってて? 聖脈穴の前まで僕が進んでから呼ぶから」
「でもそれだとアタシ、完全に役立たずで終わる感じなんだけど?」

 飛び抜けた活躍がしたい訳ではないけれど、特段役にも立てていない気がしたアストレイが思わず言い募る。

「無理しなきゃいけない時と無理しても意味ない時は区別した方がいいよ? 他の時に頑張ってくれればいいから」
「……そうね。引き際は間違えちゃダメよね。ごめんなさいね、スガルちゃん」

 スガルの言葉に頷いて、本音を言えば辛かったのだろうアストレイは手にしていた指示器をスガルへと差し出し、彼はそれを受け取った。

「ん。いいよ。ブルーに艦から引っ張ってもらうから待ってね」
「ええ」
「申し訳ございません、聖勇者様。到着までよろしくお願いいたします」

 フィリアが頭を下げるけれど、それすら微妙に左右へ揺れているのを見て小さく苦笑ったスガルは、繋げたままだった念話で再びブルーへ言葉を投げる。

「ブルー。そっちの準備整ったら引っ張ったげて?」
『了解』

 ごく短い答えを返してすぐスガルの傍から2人の姿が消えた。

『スガルは続行すんのな?』
「うん。このまま聖脈穴の前まで行っちゃうから。着いたら連絡するけどそっちで座標取れる?」
『ああ。スガルと入れ替えでもいいし、近いトコへ出してもいいだろ。それより、可能な限り中の状態確認してくれよ? 鉱山道と直接繋がってた訳じゃねぇし生命反応があるんでもないから大丈夫だとは思うが、掃除が必要ならやっとかねぇとヤバいだろうからな』

 ブルーの懸念は、これまで割合と人里近い所にあった所為なのかフラットな形状をした空間が多かった聖脈穴が、鉱山地下という空間に存在していて同形状で存在しているのか外側からは確認が取れなかった点と現状では障力で満たされているだろう聖脈穴の中に鉱山道同様、魔物が入り込んでいないかを案じてのものだった。

「一応、確認する意味もあったけど、やっぱり僕が先に来るべきだったかもねー?」
『まー……しょうがねぇよな。空間魔法ってのは慣れてねぇ人間には受ける感覚が特殊に感じるもんだからな。機械文明偏重星出身のお姫さんは勿論、アストレイも時空間魔法がほぼ廃れてるこの星の人間だ。水の中くらいならそんなに違和感なかったのかもしんねぇけど、いきなり土ん中はキツかったかもな』
「だねー。じゃ、僕、指示器見ながら潜っちゃうねー?」
『おう、頼まぁ』

 2人の間では想定済みの出来事であったようで、進行には問題なく対処が行われていた。


後にその時の出来事を振り返ったフィリアは語る。

「例えていうなら土が全部、粘土かスライムみたいになって、自分の数cm前の空間で “うにょんうにょん” 前で広がって “みよんみよん” 後ろへ動いて勝手に閉じて行きますの。何とも言えない感覚に襲われて気持ち悪くなったのを覚えおりますわ」

 スガルやブルーの言う通り、それを知らない人間には擬音でしか表現しようのない不思議な動きをする空間であったらしいと記録には残されていた。





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