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第7章 マーベラーズ帝国編
戦闘開始
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窓の外は既に夜が明けてしまったかのような光に溢れていた。
しかしそれは太陽が齎す真昼の明るさとは異なり、人工的な代物だ。
その証拠に光点が幾つも存在していて、それ故に多方向から差す光に従ってその反対方向へと幾筋かの影を作り出していた。
多重に張られた結界の中、不安そうにベッドの上から窓の外へ視線を投げるシルビアーヌを励ますようにフィリアは彼女の手を握った。
それに気がついて彼女の視線がフィリアへと向いて、淡い笑みが浮かべられた。
大丈夫。
そんな意味を込めて笑顔を返しながら力強く頷くと彼女も小さく頷き返してくれた。
小さく響いてくる剣戟の音に混じって敵が発したものなのか、それとも味方のものなのかも分からない怒号と呻き声が聞こえるようになるとシルビアーヌは、きつく目を閉じて両手でギュッとフィリアの手を握りながら小さく震え出していた。
ああ、始まったなぁ程度にしか思っていなかったフィリアは、これが普通の可愛い御令嬢の姿だよね、なんて物凄く他人事チックに考えながらこの場に誰か男性が居たら守りたいと思ってもらえるのはシルビアーヌの方だろうな、なんて漠然とした感想を抱いていた。
(だって可愛いもの。普通に抱きしめて心配いらないよってして安心させてあげたくなるもの。私が男なら)
うん。
やっぱり自分ってそういう意味でも恋愛に向いてないのだろう。
そろそろ諦めて喪女貫徹を意識して生きてもいいかもしれない。
微妙に黄昏だしたそんな時、寝室の入口にあたる扉から3度ほどノックの音が聞こえた。
ビクッと身体を跳ねさせたシルヴィアーヌと2人、寝室の扉を凝視しているとまたノックの音がして。
「お嬢さまぁ~……乳母やでございますよぉ~……ここを開けてくださいませなぁ~」
か細い女性の声でそんな言葉が聞こえたが、傍に居たシルヴィアーヌは余計に震えを大きくして、フィリアに向かって幾度も幾度も首を横に振った。
「ば、ばぁやは、先月、お母さまと、同じ、流行り病で、お亡くなりに……私、葬儀にも、出て……」
「⁈」
途切れ途切れで恐怖の中、必死に訴えてくるシルヴィアーヌにフィリアの顔にも驚愕が浮かぶ。
思わず簡易地図を確認したけれど、近くに何かの存在を示す光点は存在していなかった。
(どういうこと⁈ 存在そのものが感知されてないみたい……)
そうだ。
例え戦闘中であろうとも自分達がいる部屋の前に何か変化が現れていてそれを見逃す程、スガルもブルーも抜けてはいない筈だ。
けれど、2人からは何の連絡もない。
そんな中、再び響くノックの音。
「お嬢さまぁ~。乳母やは帰ってまいりましたよぉ~」
(幽霊、ということですの? いえ、この世界でそんなものには、お目にかかったことが……いえ、でもアンデットという意味なら……ちゃんと親しい人の参列もあった葬儀を行なっていて、魂が迷うことってあるのかしら? 敵でも味方でも中立でもない、声はするのに存在が確認できない……だめ、分からない)
サディウス王国の公爵夫妻の例だってある。
偽物ならブッ飛ばしてしまえばいいだけの話しだが、本物だったら何か理由があって現れているのかもしれないのだから。
(そうなると下手に聖属性魔法で浄化もできない。そもそも地図魔法で存在が確認できないなんて…⁈…)
半ば混乱してきたフィリアの頭に、ふと乙女ゲー疑惑その2として現れたダイアログボックスが脳裏を過った。
あの時も自分には見えていた選択肢が勇者3人には見えていなかった。
(あの時、聖銃士様、どうやって皆にあれが見えるようにしてた……?)
そうだ。
コンソールパネルから自分が指差していた空間に対して解析をかけていた。
最終的にそれは12次元という所にあったことが確認されていたのだから、あの解析は次元に対して行われていたものだったのだろう。
(あの時みたいにこの声や存在が、私達にだけ分かるようにされていて、実は別次元に存在しているものなら簡易地図に表示されていなくても不思議じゃないのかも……?)
ではどうする?
神力で調べて対処するのは、構わないのだがぶっちゃけやり方が分からないので、転移魔法の時と同じように失敗しない保証がない。
今回の場合は自分1人ではなく、シルヴィアーヌが傍にいるし、もしちゃんとした理由で乳母が出てきているならば邪魔をしてしまう可能性も否定できない。
散々ぱら迷いに迷って、結局、フィリアが出した結論はスガルかブルーに確認してもらう、という無難な代物だった。
(別に無難でダメってことはないわよね。戦闘中に申し訳ないのは確かにあるけど、私が分からないだけで、実はこれが敵の作戦だったりするかもしれない訳だし!)
ブルーだって戦闘前に言っていたではないか。
基本、この防衛戦は出し抜かれたらアウトだと。
なら慎重に行くべきだ。
「お嬢さまぁ~……ここをお開けくださいませ~」
三度ノックの音がした所で深呼吸したフィリアは意を決して耳朶の通信機へ語りかけた。
「こちらシルヴィアーヌ居室、フィリアですわ。聖銃士様、大至急応答願います!」
『どうした⁈』
即座に彼から応答があったことにホッとして、状況を知らせる為に話し出す。
「居室内、寝室扉前に先月、子爵夫人と同じ病で亡くなられたというシルヴィの乳母と名乗っておられる方がやってきて、ここを開けてくれと仰られておりますの。ですが、簡易地図には存在自体が表示されておりませんし、これが敵の作戦か何かなのか、それとも別次元にいらっしゃる乳母の方がシルヴィに何か伝えたいことがあって声だけが聞こえている状態なのか、私には判断がつきませんの。ですので、可能であればどう対処するのがよろしいのか、ご指示をくださいませんこと?」
『僕が行って確かめようか?』
フィリアからの状況報告を聞いて、すぐそう切り出したのはスガルだった。
『ごめんなさい、スガルちゃん。そっち終わってからでいいからアタシ達のとこも頼めるかしら? 領主さまのトコには、亡くなった奥様と長男が来てるんだけど、アタシの呼びかけには2人とも反応してくれなくて、どうすればいいのか分からないのよ』
どうやらアストレイの所にも似たような現象が起こっているらしく、彼も自分同様、判断に迷ったのだろう。
その声には困惑が強く感じられた。
「幽霊って、こんな同時多発的に関係者ばかりが現れるってこと、ございますの?」
『聞いたこたぁねぇが、例え扉開けたとこで結界まで開く訳じゃねぇ。これが何かの作戦なんだとしても敵の狙いが見えねぇな』
『そうなのよね。それで領主さまが部屋飛び出してって言うならまだ利用し甲斐もあるんでしょうけど、すっかり怯えちゃってて……』
「シルヴィもですわ。父娘ですわね」
『とにかく、確認しないと何とも言えないし、今自由に動けるの僕だけみたいだから』
『すまねぇな、スガル。調べることあったら声かけてくれ』
『了解。先にフィリア姫とシルヴィアーヌさんのことに向かうね』
「よろしくお願いいたしますわ」
恐らくは戦闘中の警備兵達にも今の会話は聞こえてしまっているだろうが、誰1人会話に加わってこなかった所を見ると全員、それどころではないのだろうと思えて溜息をついてしまった。
「戦い以外にも、何か、起こって、おりますの……?」
「大丈夫よ、シルヴィ。今、聖勇者様がこちらに来てくださるそうだから。私達は、このまま待ちましょう」
「……はいっ」
フィリアの言葉に頷きながらも扉の方を見ないようにして、震え続ける彼女とは真逆で、扉の方を注視しながら考える。
(聖勇者様がいらっしゃって、何か分かるとよいのですけれど……)
敵の作戦であったとしても既に亡くなった人物を3人も使った不気味なもの。
それに一体、どんな意味があると言うのか……ついついフィリアは、今夏じゃないのに怪談話しじみた攻撃は勘弁して欲しい、などと思ってしまうのだった。
しかしそれは太陽が齎す真昼の明るさとは異なり、人工的な代物だ。
その証拠に光点が幾つも存在していて、それ故に多方向から差す光に従ってその反対方向へと幾筋かの影を作り出していた。
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それに気がついて彼女の視線がフィリアへと向いて、淡い笑みが浮かべられた。
大丈夫。
そんな意味を込めて笑顔を返しながら力強く頷くと彼女も小さく頷き返してくれた。
小さく響いてくる剣戟の音に混じって敵が発したものなのか、それとも味方のものなのかも分からない怒号と呻き声が聞こえるようになるとシルビアーヌは、きつく目を閉じて両手でギュッとフィリアの手を握りながら小さく震え出していた。
ああ、始まったなぁ程度にしか思っていなかったフィリアは、これが普通の可愛い御令嬢の姿だよね、なんて物凄く他人事チックに考えながらこの場に誰か男性が居たら守りたいと思ってもらえるのはシルビアーヌの方だろうな、なんて漠然とした感想を抱いていた。
(だって可愛いもの。普通に抱きしめて心配いらないよってして安心させてあげたくなるもの。私が男なら)
うん。
やっぱり自分ってそういう意味でも恋愛に向いてないのだろう。
そろそろ諦めて喪女貫徹を意識して生きてもいいかもしれない。
微妙に黄昏だしたそんな時、寝室の入口にあたる扉から3度ほどノックの音が聞こえた。
ビクッと身体を跳ねさせたシルヴィアーヌと2人、寝室の扉を凝視しているとまたノックの音がして。
「お嬢さまぁ~……乳母やでございますよぉ~……ここを開けてくださいませなぁ~」
か細い女性の声でそんな言葉が聞こえたが、傍に居たシルヴィアーヌは余計に震えを大きくして、フィリアに向かって幾度も幾度も首を横に振った。
「ば、ばぁやは、先月、お母さまと、同じ、流行り病で、お亡くなりに……私、葬儀にも、出て……」
「⁈」
途切れ途切れで恐怖の中、必死に訴えてくるシルヴィアーヌにフィリアの顔にも驚愕が浮かぶ。
思わず簡易地図を確認したけれど、近くに何かの存在を示す光点は存在していなかった。
(どういうこと⁈ 存在そのものが感知されてないみたい……)
そうだ。
例え戦闘中であろうとも自分達がいる部屋の前に何か変化が現れていてそれを見逃す程、スガルもブルーも抜けてはいない筈だ。
けれど、2人からは何の連絡もない。
そんな中、再び響くノックの音。
「お嬢さまぁ~。乳母やは帰ってまいりましたよぉ~」
(幽霊、ということですの? いえ、この世界でそんなものには、お目にかかったことが……いえ、でもアンデットという意味なら……ちゃんと親しい人の参列もあった葬儀を行なっていて、魂が迷うことってあるのかしら? 敵でも味方でも中立でもない、声はするのに存在が確認できない……だめ、分からない)
サディウス王国の公爵夫妻の例だってある。
偽物ならブッ飛ばしてしまえばいいだけの話しだが、本物だったら何か理由があって現れているのかもしれないのだから。
(そうなると下手に聖属性魔法で浄化もできない。そもそも地図魔法で存在が確認できないなんて…⁈…)
半ば混乱してきたフィリアの頭に、ふと乙女ゲー疑惑その2として現れたダイアログボックスが脳裏を過った。
あの時も自分には見えていた選択肢が勇者3人には見えていなかった。
(あの時、聖銃士様、どうやって皆にあれが見えるようにしてた……?)
そうだ。
コンソールパネルから自分が指差していた空間に対して解析をかけていた。
最終的にそれは12次元という所にあったことが確認されていたのだから、あの解析は次元に対して行われていたものだったのだろう。
(あの時みたいにこの声や存在が、私達にだけ分かるようにされていて、実は別次元に存在しているものなら簡易地図に表示されていなくても不思議じゃないのかも……?)
ではどうする?
神力で調べて対処するのは、構わないのだがぶっちゃけやり方が分からないので、転移魔法の時と同じように失敗しない保証がない。
今回の場合は自分1人ではなく、シルヴィアーヌが傍にいるし、もしちゃんとした理由で乳母が出てきているならば邪魔をしてしまう可能性も否定できない。
散々ぱら迷いに迷って、結局、フィリアが出した結論はスガルかブルーに確認してもらう、という無難な代物だった。
(別に無難でダメってことはないわよね。戦闘中に申し訳ないのは確かにあるけど、私が分からないだけで、実はこれが敵の作戦だったりするかもしれない訳だし!)
ブルーだって戦闘前に言っていたではないか。
基本、この防衛戦は出し抜かれたらアウトだと。
なら慎重に行くべきだ。
「お嬢さまぁ~……ここをお開けくださいませ~」
三度ノックの音がした所で深呼吸したフィリアは意を決して耳朶の通信機へ語りかけた。
「こちらシルヴィアーヌ居室、フィリアですわ。聖銃士様、大至急応答願います!」
『どうした⁈』
即座に彼から応答があったことにホッとして、状況を知らせる為に話し出す。
「居室内、寝室扉前に先月、子爵夫人と同じ病で亡くなられたというシルヴィの乳母と名乗っておられる方がやってきて、ここを開けてくれと仰られておりますの。ですが、簡易地図には存在自体が表示されておりませんし、これが敵の作戦か何かなのか、それとも別次元にいらっしゃる乳母の方がシルヴィに何か伝えたいことがあって声だけが聞こえている状態なのか、私には判断がつきませんの。ですので、可能であればどう対処するのがよろしいのか、ご指示をくださいませんこと?」
『僕が行って確かめようか?』
フィリアからの状況報告を聞いて、すぐそう切り出したのはスガルだった。
『ごめんなさい、スガルちゃん。そっち終わってからでいいからアタシ達のとこも頼めるかしら? 領主さまのトコには、亡くなった奥様と長男が来てるんだけど、アタシの呼びかけには2人とも反応してくれなくて、どうすればいいのか分からないのよ』
どうやらアストレイの所にも似たような現象が起こっているらしく、彼も自分同様、判断に迷ったのだろう。
その声には困惑が強く感じられた。
「幽霊って、こんな同時多発的に関係者ばかりが現れるってこと、ございますの?」
『聞いたこたぁねぇが、例え扉開けたとこで結界まで開く訳じゃねぇ。これが何かの作戦なんだとしても敵の狙いが見えねぇな』
『そうなのよね。それで領主さまが部屋飛び出してって言うならまだ利用し甲斐もあるんでしょうけど、すっかり怯えちゃってて……』
「シルヴィもですわ。父娘ですわね」
『とにかく、確認しないと何とも言えないし、今自由に動けるの僕だけみたいだから』
『すまねぇな、スガル。調べることあったら声かけてくれ』
『了解。先にフィリア姫とシルヴィアーヌさんのことに向かうね』
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恐らくは戦闘中の警備兵達にも今の会話は聞こえてしまっているだろうが、誰1人会話に加わってこなかった所を見ると全員、それどころではないのだろうと思えて溜息をついてしまった。
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「大丈夫よ、シルヴィ。今、聖勇者様がこちらに来てくださるそうだから。私達は、このまま待ちましょう」
「……はいっ」
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(聖勇者様がいらっしゃって、何か分かるとよいのですけれど……)
敵の作戦であったとしても既に亡くなった人物を3人も使った不気味なもの。
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