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第6章 惑星フォロスレイネ査察編

査察 中間報告

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「そんな感じでお嬢ちゃんと新勇者ちゃんは、殆ど不服を申し立てることなく終わったとさ」

 送られてきた報告書片手にそう言ったガラに仕事机で膨大な書類に囲まれながらキャルが笑った。

「だーろーなー。“原初の記載” に神質だのそれに近いモンなんかを刻まれてるヤツは、どう転んでも受け入れるだろうよ。自分の根本、大元にあたるトコへ仕事根性刻まれてんだ。不服に思う訳ねぇわな」
「だが、今回はそれ関連で別の問題も浮上した。寧ろ楽観視できんのは、そちらだろう」

 適当な所へ屈んだままなガラと違い、椅子へと腰掛けてちゃっかりお茶まで嗜んでいるエルズは手にしたカップの中身へと視線を落としながらそう切り出した。

「異脅親和性戦略か」
「今生で何に生まれ変わってようが、“原初の記載”がある部分を覗いたり察知できるだけの力があれば目標に設定しやすい。そこを引っ張って連れて来れりゃ、旨味もある。確かに問題だわな」
「そうであることを知ってさえいれば、抵抗することが可能なのはSUNが実証済みだ……あいつの場合、やり過ぎの感はあるが」
「いやいやいや、やり過ぎもクソも “やられた” って理解した瞬間にテメェを連れ去ったトコの連中、星ごと燃やし尽くして自分だけとっとと元の世界へ帰って来るってどうなのさ?」

 エルズがした実例者の話しにその件を思い出したキャルが、己の補佐官である彼女の怒鳴りに顔色1つ変えず「太陽オレをこの3人の承諾もなく勝手に盤面移動させやがった上に同じような質を持ってるヤツ、また掻っ攫ってくる危険性が高い連中が星中に居るようなとこだったんだぜ? そんなのを野放しにしろと? せきにん取れっつーなら取ってやるよ。その覚悟で星ごとってきたんだからな」などと悪びれもせず言い放った、彼等にとっても記憶に新しい出来事を評してそう言った。

「またカルマ増やしやがって馬鹿が。あいつSUN抱えてもう1万5千年乗ってる筈だろ? 解放されやめる気ねぇのか?」
「本人曰く『例え任期が伸びようがコイツらだけは絶対ぇ滅ぼす』と一瞬で決めて即、実行して帰って来たそうだ」
「自力で帰って来れる手段があるヤツならではの選択肢だな」

 普通はそんなことをすれば確実に自分も逝くことになるので選択肢にすら含めない人間が多いのだけれど。

「そういう意味では、お嬢ちゃんもSUNの同類項だぞ。帰る気はねぇようだが、今後は自力で帰れる手段を作ろうと思えば作れる位階を手に入れることになる。今はまだそれを作れるだけの知識がないのと、例の聖銃士の坊っちゃんが全力ブッパした時に転移魔法失敗したのの影響で、新しいものを実行するより躊躇が優先になってるだけだ。この手の人間は決断したら即実行。特に責任取るのが自分だけとなったら決断までの時間が短いのも特徴だ。傍にでもいない限り止めるのは難しいぞ」

 ガラのしたカテゴリー区分に対する共通評価でキャルも嫌そうな表情の中に思案げな様子を覗かせた。

「亜神化したら、上に上がるまでは人界で、お目付役いるかもなー……あのお嬢さん止められる神材じんざいいたっけ? あそこの管理界?」
「覚えがないな」

 実例として彼女を止めることができたのは、スガルとブルーの2人だけなので、あの管理界にその神材じんざいを期待するだけ無理があるのかもしれなかった。

「まぁ、聖脈が戻りさえすりゃ、あそこはまだ人界と管理界の距離が近いとこだからやりようはあるだろうよ」
「そういや、一応、大陸の北側切り離すのは却下しといたけど、守るかねぇ? あのお嬢ちゃん。異星の生体機械もあの辺に不時着した筈だしな」
「ヤツが協力の申し出を受け入れればまた打てる手も増えるかねぇ? 取り敢えず後2ヶ国分、聖脈処理が終わるまでは静観ってとこだわな。最後は流石に観てないとダメだろうけど」
「………」

 ずっとこの世界のことにかまけていられる程、自分達にいとまがないのも勿論だが、人の世の歴史に収まる範囲であるのなら干渉しないのも必要なことだと解っているのだから、それが最善策とこの場の結論だけは3人で一致していた。





 時空神エネルサが作ってくれた次元の扉を使って人界のザティウス王国とマーベラーズ帝国の中間辺りへ戻ってきた戦略巡航艦アルザスターは中空へ停止したまま、すぐに光学迷彩装置クローキングデバイスを使用して周辺の景色へと混じり込んだ。
 艦内では、やっと帰って来れたとばかり4人が一斉に大きく息をついている。

「あー…もう、どうなるかと思ったわぁ。まさか査察っていうので艦ごと攫われるなんて思ってなかったものぉ」
「あいつらいつも唐突なんだよ」
「そーそー。僕ら査察に巻き込まれるのもうこれで7度目なんだけどー。いっつもそうなんだー」
「7度目……常連と言われても仕方ない気のする頻度ですわね」
「次元移動させてる手段が分かんねぇから阻止ブロック無効化キャンセルもできやしねぇんだよ。面倒臭ぇ」
「していいことなの? それ……」

 神々よりも偉いのだろう立場に居ることが察せられる者達の呼び出しに対して阻止や無効化を検討するブルーに思わずアストレイが疑問を投げかけた。

「だって、査察自体本来は管理界か神仏界が対象なんだよ? あの3人にとって世界なんか遊戯ゲームの盤面みたいなもんなんだ。その盤面の1区画でしかない人界のことになんて干渉してくることすら稀になのに管理界や神仏界になんて100%いない僕らをその世界の人界で見つけたからって必ず巻き込むっておかしいじゃない。多少は巻き込むタイミングを見てくれてはいるみたいだけどさ。こう毎度毎度だと拒否くらいしたくもなるよ」
「本来なら関わることもそうないだろうが、お前さんもお姫さんも今回のことで完全に目ぇつけられたと思うから俺らと同じような目に遭う覚悟くらいはしとけよ?」

 スガルとブルーが順に言い募ることへ、アストレイの眉根が真ん中へと寄り、大きく右へと首を傾けながら腕を組む。

「おっかしぃわねええぇぇぇ。どこで道間違えたのかしら? アタシ」
「そうだねぇ。フィリア姫以上にアストレイさんは謎だよねぇ」
「あいつらのこった。この旅終わったタイミングで、その辺りも説明されるだろうとは思うけどな」

 査察結果の通達で記載されていた口振りからして、勇者派遣隊への要請という名の強制指示は、もう通っていると見るべきだとスガルもブルーも理解出来ていた。
だって、色々な意味でいつものことだから。

「さぁ、皆さま。先のことより今のこと。先ずは目の前のことから片付けて参りましょう!」
「そうねぇ。考えても仕方ないことばっかり気にしててもしょうがないものね」
「ええ」
「それじゃ改めて、マーベラーズ帝国の聖脈穴がある鉱山領都に向かおうか。ブルー、五舷原速前進! 目標、バルカンザイム!」
「了解!」

 スガルの指示を受け、アルザスターは再び青空の下、目的地に向かって進み始めた。





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