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第5章 サディウス王国編
ミア・アルサラーマ
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「被罪科者4名は正義神様、裁定神様の裁定を以って有罪を確定とし、世界副神様のご判断を以って東の鉱山牢へ拘留、派閥の長たるヴィゼン枢機卿の罪科確認後、改めて刑を審議いたす」
「これにて閉廷。皆ご苦労であった。正義神様、裁定神様、世界副神様。お出ましとご助力を感謝いたしまする」
『うむ。上に命じられたからで許される罪ではないこと、努、忘れるでないぞ』
「はっ」
「はっ。これにて、閉廷!」
正義神の言葉に肯定を返し後に宰相が閉廷を告げると彼の神は気が済んだのか、己の役目は終わったと判断したのか姿を消した。
騎士達や貴族達も長時間拘束を覚悟していた審判が、神々のお陰で速やかに終わった為にホッとしつつ銘々帰り支度を始め、被罪科者達も来た時同様、兵士と騎士に囲まれて東の鉱山牢へと送致される為に引き立てられて行った。
『フィリアよ。首魁を捕らえたならば、また私達を人界に召喚せよ。その審判、立ち会わねば気がすまぬ!』
「かしこまりました」
残っていた裁定神もそれだけ言って、フィリアの答えを聞くと管理界へと戻って行く。
『勇者達よ。ガルディアナの支柱を戻すのは最後でよい。しばし放っておいて流れを良くする為に訪れると申しておった他所の国へ先に行ってやるがよい』
「いいんですか?」
モニターへ映し出されたままの世界副神が言ってきたことに確認めいた文節をスガルが投げる。
『構わぬ。これだけのことをしても危機的状況であれば我々は手を差し伸べざるを得ないのだと思われてもな。地理的に言っても他の国を優先して周辺に今以上の影響が出ることはあるまい。最悪の場合は、クストディオとヘイユーディアの間にあるランデュイフト三山近くへ新たな聖脈穴を構築する』
きっぱりと言い切った世界副神に席を立ちかけていた騎士や貴族達は、ギョッとして動きを止めてしまった。
それはつまり、ガルディアナ聖王国と創世教本神殿のある土地を神々が見捨てたということか、と。
「待った。気持ちは分からなくもねぇが、それをやるとあの土地に溜まってる障力がどこにも流れなくなっちまう。魔王降誕スポットを増やすことになるかもしれねぇのは賛成しかねるぜ」
「そうだね。もし魔族達がそれに気づいたら今のガルディアナ聖王国がある土地を奪って魔王が降誕した時、安全に迎えて育成できる国を作っちゃおうなんて動きもその先に起こりそうな気がするしね」
ブルーの言葉にスガルが同意して世界副神と本格的なやり取りを始めると帰りかけた者達は皆、顔色を変えて座り直してしまった。
こんな気にするな、なんて言われても絶対無理な話し合いを聞かずに帰れる筈もない。
そんな彼等に意識を向けることなくブルーは続ける。
「この星で魔王降誕時しか魔族達がデカイ顔しねぇのは、古参連中が割りかし平和主義で種族として決まった国を持たず、独自ルールの中で個々人が好き勝手してるからっていう連中の気質みたいな部分が大きい。だが比較的新しい世代は、星間移住を即決する連中がいたり、上位の言うことは一応聞くが魔王の影響抜きにして好戦的だったりとか、これまで俺達がデータ上で確認できてた種族特性と比べても実態が変わってきてるんじゃねぇかって印象がある。スガルの言ったようなことを実行しない保証は出来ないぜ?」
そう言えば、封印されていた魔王が1600年ぶりに復活したと言うのに魔族達はまるで動く気配がなかった。
すぐに討伐されてしまったから魔物の凶暴化などはさして起こらずに沈静化してしまったけれど、魔族達は、その種族特性から封印を解かれた段階で気がついてもおかしくないのに加勢に現れた者は1人もいなかった。
そのことがもう既に魔族という種族そのものが変わりつつある予兆なのではないだろうか。
そんな気さえしてくる。
「ではこういたしませんこと? 可能な限り支柱は元の場所へ戻すことを前提にガルディアナ聖王国と創世教本神殿へ圧力をかけまくりつつ現状は放置な方向で。アルニーブ様のご判断もしっかりあちらへ伝達し、その動き次第では実行もやむなし、ということで」
「でも、スガルちゃん達の懸念は勿論だし、もし魔族達が自分達の国を滅んだガルディアナの跡地に作る可能性があるってなったら、多分、クストディオ皇国もヘイユーディア公国も1番の脅威にさらされるんだから反対してくると思うわよ?」
総括するような形でフィリアが口にしたことへ、アストレイが政治的な観点から当然の指摘をしてもフィリアの面には笑みがあった。
「それは彼の土地が、その2国と国境を接しているからですわ。ならば……」
ぱん、と両手を打ち鳴らしたフィリアは、明るい笑顔と共に言い放つ。
「いっそ大陸から切り離していまえばよいと思いませんこと? 世界副神様っ! 海を隔てたら2国も文句は言いませんわよ! 移動場所も北の果てに近いとこまで追いやってしまえば、一気に凍える地となって、神々に見捨てられた土地感溢れるいい感じの状況になると思いますの!」
『流石はフィリア! 容赦ない選択肢を考えさせたら賢いね!』
「ああ、そこまで離すならアリかもしれないわねぇ?」
己の意に沿う形で出されたフィリアの提案に満足そうな声音で世界副神が合いの手を入れ、アストレイまでもがそれに納得の彩を見せた。
「待て待て待て待て待て!」
泡を食ったような顔になったのは、この国の者ばかりではなく、スガルとブルーもだった。
「そんな雑な決定で天変地異クラスの陸地変動を軽々しく決定すんな、そこー!! ンなことしたら地震や津波で半端ない影響が方々に出まくる上に世界の海産に与える打撃が危機的状況一足飛びで超えちまうだろうがー⁈」
(なんと! それはいただけん!)
(聖銃士殿! 頑張れ! 頑張ってくれ!)
(魔族に国なんぞ作られたら洒落にならん……!)
バラバラで動かれていてすら持て余している種族だと言うのに徒党を組まれたり、組織立って国として動き出されたら目も当てられないと心の中で皆がブルーを応援した。
「あのさー? そこまでのことするってなったらフォロスレイネだって黙ってないだろうし、あの土地に住んでる民間人とか、たまたまそこに居ただけの関係ない人とかも巻き添い食って可哀想だよー?」
(いいぞ聖勇者様! もっと言ってくれ!)
(よもや天界から遣わされた勇者達が我らが縋れる最後の良心となろうとはっ……!)
彼等は天界から遣わされた勇者であるとの触れ込みだったので、本来ならばフィリアやアストレイ同様、賛同する側の立場だろうに人々の為を第1に考えて世界副神相手に否を唱えてくれることへ心の底から感謝しつつ彼等は思う。
頼むからこんな重要な決定を我が国の司法の間でせんでくれ! 後の世で何言われるか分からん! と。
「序でに言わせてもらうなら “査察” 。もうすぐだってこないだ言ってたよな?」
切り札のようにその単語をブルーが口にすると流石に世界副神の身が、ビクッと揺れた。
「『あそこ』の女大魔人に、どう言い訳するつもりだ? 世界副神様よぅ?」
この国の者達には、何のことか分からなかったけれどその指摘は確かに世界副神の意識に刺さったらしく、一気に勢いがなくなった。
『フィリア……?』
「終わってからやれば良いのですわ!」
『流石はフィリア! 世界主神が選んだだけのことはあるな!』
「まあ! お褒めいただき光栄ですわ!」
伺うように名を呼ばれたフィリアが、朗らかな笑みと共にした提案に世界副神は手放しで喜んで拍手を送った。
「世界主神の半身と世界副神が、ダメな方向に結託すんなー!!」
「もー……僕達をフィリア姫の保護につけた理由、完全に忘れちゃってるよねー。あれ。」
ブルーの突っ込みと、やや諦め気味に呟かれたスガルの台詞に、この国の者達は「ミア・アルサラーマ、ガルディアナ!」と心の中で唱えた言葉を完全に一致させ、揃って遥か彼方を見遣るような遠い目をしていた。
「これにて閉廷。皆ご苦労であった。正義神様、裁定神様、世界副神様。お出ましとご助力を感謝いたしまする」
『うむ。上に命じられたからで許される罪ではないこと、努、忘れるでないぞ』
「はっ」
「はっ。これにて、閉廷!」
正義神の言葉に肯定を返し後に宰相が閉廷を告げると彼の神は気が済んだのか、己の役目は終わったと判断したのか姿を消した。
騎士達や貴族達も長時間拘束を覚悟していた審判が、神々のお陰で速やかに終わった為にホッとしつつ銘々帰り支度を始め、被罪科者達も来た時同様、兵士と騎士に囲まれて東の鉱山牢へと送致される為に引き立てられて行った。
『フィリアよ。首魁を捕らえたならば、また私達を人界に召喚せよ。その審判、立ち会わねば気がすまぬ!』
「かしこまりました」
残っていた裁定神もそれだけ言って、フィリアの答えを聞くと管理界へと戻って行く。
『勇者達よ。ガルディアナの支柱を戻すのは最後でよい。しばし放っておいて流れを良くする為に訪れると申しておった他所の国へ先に行ってやるがよい』
「いいんですか?」
モニターへ映し出されたままの世界副神が言ってきたことに確認めいた文節をスガルが投げる。
『構わぬ。これだけのことをしても危機的状況であれば我々は手を差し伸べざるを得ないのだと思われてもな。地理的に言っても他の国を優先して周辺に今以上の影響が出ることはあるまい。最悪の場合は、クストディオとヘイユーディアの間にあるランデュイフト三山近くへ新たな聖脈穴を構築する』
きっぱりと言い切った世界副神に席を立ちかけていた騎士や貴族達は、ギョッとして動きを止めてしまった。
それはつまり、ガルディアナ聖王国と創世教本神殿のある土地を神々が見捨てたということか、と。
「待った。気持ちは分からなくもねぇが、それをやるとあの土地に溜まってる障力がどこにも流れなくなっちまう。魔王降誕スポットを増やすことになるかもしれねぇのは賛成しかねるぜ」
「そうだね。もし魔族達がそれに気づいたら今のガルディアナ聖王国がある土地を奪って魔王が降誕した時、安全に迎えて育成できる国を作っちゃおうなんて動きもその先に起こりそうな気がするしね」
ブルーの言葉にスガルが同意して世界副神と本格的なやり取りを始めると帰りかけた者達は皆、顔色を変えて座り直してしまった。
こんな気にするな、なんて言われても絶対無理な話し合いを聞かずに帰れる筈もない。
そんな彼等に意識を向けることなくブルーは続ける。
「この星で魔王降誕時しか魔族達がデカイ顔しねぇのは、古参連中が割りかし平和主義で種族として決まった国を持たず、独自ルールの中で個々人が好き勝手してるからっていう連中の気質みたいな部分が大きい。だが比較的新しい世代は、星間移住を即決する連中がいたり、上位の言うことは一応聞くが魔王の影響抜きにして好戦的だったりとか、これまで俺達がデータ上で確認できてた種族特性と比べても実態が変わってきてるんじゃねぇかって印象がある。スガルの言ったようなことを実行しない保証は出来ないぜ?」
そう言えば、封印されていた魔王が1600年ぶりに復活したと言うのに魔族達はまるで動く気配がなかった。
すぐに討伐されてしまったから魔物の凶暴化などはさして起こらずに沈静化してしまったけれど、魔族達は、その種族特性から封印を解かれた段階で気がついてもおかしくないのに加勢に現れた者は1人もいなかった。
そのことがもう既に魔族という種族そのものが変わりつつある予兆なのではないだろうか。
そんな気さえしてくる。
「ではこういたしませんこと? 可能な限り支柱は元の場所へ戻すことを前提にガルディアナ聖王国と創世教本神殿へ圧力をかけまくりつつ現状は放置な方向で。アルニーブ様のご判断もしっかりあちらへ伝達し、その動き次第では実行もやむなし、ということで」
「でも、スガルちゃん達の懸念は勿論だし、もし魔族達が自分達の国を滅んだガルディアナの跡地に作る可能性があるってなったら、多分、クストディオ皇国もヘイユーディア公国も1番の脅威にさらされるんだから反対してくると思うわよ?」
総括するような形でフィリアが口にしたことへ、アストレイが政治的な観点から当然の指摘をしてもフィリアの面には笑みがあった。
「それは彼の土地が、その2国と国境を接しているからですわ。ならば……」
ぱん、と両手を打ち鳴らしたフィリアは、明るい笑顔と共に言い放つ。
「いっそ大陸から切り離していまえばよいと思いませんこと? 世界副神様っ! 海を隔てたら2国も文句は言いませんわよ! 移動場所も北の果てに近いとこまで追いやってしまえば、一気に凍える地となって、神々に見捨てられた土地感溢れるいい感じの状況になると思いますの!」
『流石はフィリア! 容赦ない選択肢を考えさせたら賢いね!』
「ああ、そこまで離すならアリかもしれないわねぇ?」
己の意に沿う形で出されたフィリアの提案に満足そうな声音で世界副神が合いの手を入れ、アストレイまでもがそれに納得の彩を見せた。
「待て待て待て待て待て!」
泡を食ったような顔になったのは、この国の者ばかりではなく、スガルとブルーもだった。
「そんな雑な決定で天変地異クラスの陸地変動を軽々しく決定すんな、そこー!! ンなことしたら地震や津波で半端ない影響が方々に出まくる上に世界の海産に与える打撃が危機的状況一足飛びで超えちまうだろうがー⁈」
(なんと! それはいただけん!)
(聖銃士殿! 頑張れ! 頑張ってくれ!)
(魔族に国なんぞ作られたら洒落にならん……!)
バラバラで動かれていてすら持て余している種族だと言うのに徒党を組まれたり、組織立って国として動き出されたら目も当てられないと心の中で皆がブルーを応援した。
「あのさー? そこまでのことするってなったらフォロスレイネだって黙ってないだろうし、あの土地に住んでる民間人とか、たまたまそこに居ただけの関係ない人とかも巻き添い食って可哀想だよー?」
(いいぞ聖勇者様! もっと言ってくれ!)
(よもや天界から遣わされた勇者達が我らが縋れる最後の良心となろうとはっ……!)
彼等は天界から遣わされた勇者であるとの触れ込みだったので、本来ならばフィリアやアストレイ同様、賛同する側の立場だろうに人々の為を第1に考えて世界副神相手に否を唱えてくれることへ心の底から感謝しつつ彼等は思う。
頼むからこんな重要な決定を我が国の司法の間でせんでくれ! 後の世で何言われるか分からん! と。
「序でに言わせてもらうなら “査察” 。もうすぐだってこないだ言ってたよな?」
切り札のようにその単語をブルーが口にすると流石に世界副神の身が、ビクッと揺れた。
「『あそこ』の女大魔人に、どう言い訳するつもりだ? 世界副神様よぅ?」
この国の者達には、何のことか分からなかったけれどその指摘は確かに世界副神の意識に刺さったらしく、一気に勢いがなくなった。
『フィリア……?』
「終わってからやれば良いのですわ!」
『流石はフィリア! 世界主神が選んだだけのことはあるな!』
「まあ! お褒めいただき光栄ですわ!」
伺うように名を呼ばれたフィリアが、朗らかな笑みと共にした提案に世界副神は手放しで喜んで拍手を送った。
「世界主神の半身と世界副神が、ダメな方向に結託すんなー!!」
「もー……僕達をフィリア姫の保護につけた理由、完全に忘れちゃってるよねー。あれ。」
ブルーの突っ込みと、やや諦め気味に呟かれたスガルの台詞に、この国の者達は「ミア・アルサラーマ、ガルディアナ!」と心の中で唱えた言葉を完全に一致させ、揃って遥か彼方を見遣るような遠い目をしていた。
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