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第1章 到達確率0.00001%の未来
前置きしてはみたものの
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「えーっと? 蓮兄は、能力発現してすぐ、ずっとそれを狙ってた組織に、家族の安全を盾に取られて拉致られそうになったんだと。そんで、そいつらに捕まる寸前で逃げ出してー、そのまんま家出してー、13年間逃げ続けてたらしいから協会登録とか無理なんじゃね?」
「……誰にも言ってねぇのに、何で全部知ってんだよぉ……」
光る本を眺めながら言った祀刕の言葉に病室の床へ寝転がったまま蓮夜が唸る。
「俺は、そもそも論外。〈英雄〉でも〈戦士〉でもねぇ上に、厳密に言や、この世界の人間でもねぇ。協会側も登録しようがねぇだろ」
この世界の人間ではない。
ハッキリそう口にした祀刕に、病室内に居た者達と廊下に居た者達の反応は真っ二つに分かれた。
何言ってんだ、この子? と言った理解し難い者を見る目を向ける者達。
そして、祀刕の母親がした発言からもそのことを認識していた者達と今まで目の前で見てきた、とても〈戦士〉能力で収まり切らない彼の力から、その正体を知りたい、と思う者達とに。
「お前は俺のことを話してもねぇことまで知ってるのに、俺はお前のことを全然知らない。それってフェアじゃねぇよな? 教えてくれ。お前は一体何者なんだ? これからは俺が居るって言ってくれた、あの言葉とお前が何者なのかってのは、関係あるのか?」
「ああ」
蓮夜の問いに、ごく短い答えを返した祀刕は、光る本を手放してまた中空へと浮かべると空けた左手に複雑な形をした棒を1本出現させた。
それを握り、クルッ、と左回りに回転させると彼が身につけていた病院の緊急処置服が、白のブレザーと白のシャツ、水色のネクタイと紺のスラックス、黒の革靴へと一瞬にして変わってしまった。
「祀刕君! それは “守護者” 高等学校の〈戦士〉科、それも特別推薦入学枠で入った生徒しか着られない制服の筈だ。何故、キミが⁈」
「俺は確かに希叶 祀刕だけど、この世界の希叶 祀刕じゃねぇ。Cクラスの妖魔人3体の同時攻撃受けた拍子に、この世界の希叶 祀刕と入れ替わっちまった、別の世界の希叶 祀刕。それが俺だ。その証拠に俺は〈戦士〉じゃねぇ。〈勇者〉だ。〈能力値一覧表・開示〉!」
病室の入口から顔を覗かせた藤峰が発した問いに答えた祀刕が唱えた指示名に従って空中に現れた四角には、まるで何かのゲーム画面のキャラクター能力表のように祀刕の持つ力が列記されていた。
その表の1番最初に書かれている名前の項目には “希叶 祀刕(平行世界転移中)” の記載。
そして次に記載された「称号欄」に「勇者」の文字が。
その説明欄には「幻想遺伝子由来の能力発現による勇者ではなく、管理界神任命の直属勇者。天界の序列は第2位」とハッキリ記されていた。
パチン、と祀刕の指が鳴らされて現れていたステータス表示が消える。
「……え? 待って。さーくん? どう言う事なの? 入れ替わった? 意味が……」
藤峰に続いて病室内へと入って来た伍耶が、戸惑いながら問いかけた瞬間だった。
室内へと鳴り響く、早く激しい音の群れ。
緊急警報や危険警告音を思わせるそれに併せて祀刕の目の前へと開かれていくたくさんの四角。
1つは拠点の地図。
大きな赤い丸1つと引き出し線によって、その位置が示され “【警告】索敵防空圏内にCクラス妖魔人を確認” の文字が、その引き出し線の上に現れていた。
その大きな赤い丸の周囲には、小さな赤い丸が幾つか現れていて、それぞれにF~Dクラスの妖魔人数体が表示されていた。
「チッ」
舌打ちした祀刕が、1番手元に近い位置にあった四角へ右手を思い切り叩きつけた。
それによって地図に重なる形で現れた赤い四角の中へ描かれたのは「出撃」の2文字。
「話しは後だ! …っ、俊さん! 手ぇ貸せ!」
「えっ⁈ 何⁈ な……」
床から立ち上がった祀刕に説明ゼロで腰を抱えられた藤峰は、最後まで言葉を紡ぐことすら出来ないまま祀刕が左手に持った複雑な形をした棒が右回りに振られるのと同時に姿を消した。
次いで消えていく、喧ましい連続音と四角の群れ、光る本。
その場には、何が何だか分からない状態で残された者達だけが、ただ立ち尽くしていた。
「……誰にも言ってねぇのに、何で全部知ってんだよぉ……」
光る本を眺めながら言った祀刕の言葉に病室の床へ寝転がったまま蓮夜が唸る。
「俺は、そもそも論外。〈英雄〉でも〈戦士〉でもねぇ上に、厳密に言や、この世界の人間でもねぇ。協会側も登録しようがねぇだろ」
この世界の人間ではない。
ハッキリそう口にした祀刕に、病室内に居た者達と廊下に居た者達の反応は真っ二つに分かれた。
何言ってんだ、この子? と言った理解し難い者を見る目を向ける者達。
そして、祀刕の母親がした発言からもそのことを認識していた者達と今まで目の前で見てきた、とても〈戦士〉能力で収まり切らない彼の力から、その正体を知りたい、と思う者達とに。
「お前は俺のことを話してもねぇことまで知ってるのに、俺はお前のことを全然知らない。それってフェアじゃねぇよな? 教えてくれ。お前は一体何者なんだ? これからは俺が居るって言ってくれた、あの言葉とお前が何者なのかってのは、関係あるのか?」
「ああ」
蓮夜の問いに、ごく短い答えを返した祀刕は、光る本を手放してまた中空へと浮かべると空けた左手に複雑な形をした棒を1本出現させた。
それを握り、クルッ、と左回りに回転させると彼が身につけていた病院の緊急処置服が、白のブレザーと白のシャツ、水色のネクタイと紺のスラックス、黒の革靴へと一瞬にして変わってしまった。
「祀刕君! それは “守護者” 高等学校の〈戦士〉科、それも特別推薦入学枠で入った生徒しか着られない制服の筈だ。何故、キミが⁈」
「俺は確かに希叶 祀刕だけど、この世界の希叶 祀刕じゃねぇ。Cクラスの妖魔人3体の同時攻撃受けた拍子に、この世界の希叶 祀刕と入れ替わっちまった、別の世界の希叶 祀刕。それが俺だ。その証拠に俺は〈戦士〉じゃねぇ。〈勇者〉だ。〈能力値一覧表・開示〉!」
病室の入口から顔を覗かせた藤峰が発した問いに答えた祀刕が唱えた指示名に従って空中に現れた四角には、まるで何かのゲーム画面のキャラクター能力表のように祀刕の持つ力が列記されていた。
その表の1番最初に書かれている名前の項目には “希叶 祀刕(平行世界転移中)” の記載。
そして次に記載された「称号欄」に「勇者」の文字が。
その説明欄には「幻想遺伝子由来の能力発現による勇者ではなく、管理界神任命の直属勇者。天界の序列は第2位」とハッキリ記されていた。
パチン、と祀刕の指が鳴らされて現れていたステータス表示が消える。
「……え? 待って。さーくん? どう言う事なの? 入れ替わった? 意味が……」
藤峰に続いて病室内へと入って来た伍耶が、戸惑いながら問いかけた瞬間だった。
室内へと鳴り響く、早く激しい音の群れ。
緊急警報や危険警告音を思わせるそれに併せて祀刕の目の前へと開かれていくたくさんの四角。
1つは拠点の地図。
大きな赤い丸1つと引き出し線によって、その位置が示され “【警告】索敵防空圏内にCクラス妖魔人を確認” の文字が、その引き出し線の上に現れていた。
その大きな赤い丸の周囲には、小さな赤い丸が幾つか現れていて、それぞれにF~Dクラスの妖魔人数体が表示されていた。
「チッ」
舌打ちした祀刕が、1番手元に近い位置にあった四角へ右手を思い切り叩きつけた。
それによって地図に重なる形で現れた赤い四角の中へ描かれたのは「出撃」の2文字。
「話しは後だ! …っ、俊さん! 手ぇ貸せ!」
「えっ⁈ 何⁈ な……」
床から立ち上がった祀刕に説明ゼロで腰を抱えられた藤峰は、最後まで言葉を紡ぐことすら出来ないまま祀刕が左手に持った複雑な形をした棒が右回りに振られるのと同時に姿を消した。
次いで消えていく、喧ましい連続音と四角の群れ、光る本。
その場には、何が何だか分からない状態で残された者達だけが、ただ立ち尽くしていた。
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