短編集

神村結美

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Ep.02『呪い』は愛のキューピッド 後編

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その日の夕食時に、リュシアン殿下の話題が出た。

「リュシアン殿下が本日もお見舞いに来てくださったそうだな」

「えぇ、毎日、色々なお話をしてくださいますわ」

「そうか。彼は今でもリゼットを気にかけてくれているのか。すごく懐いていたからなぁ。フォルデノワの祝賀会で隣国に滞在した時は、1週間ずっとリュシアン殿下の後をついてまわっていたな」

「そうねぇ、懐かしいわ。最後の日なんて、泣き喚いてリュシアン殿下から離れませんでしたものねぇ」

「……お父様、お母様。それは、何のお話ですの? 私は昔、リュシアン殿下にお会いしたことがあるのですか?」

「覚えてないか。まぁ、無理はない。リゼットが3歳の頃だったか? 初めて隣国の王城を訪問した日、少し目を離した隙にリゼットが居なくなってしまったんだよ。庭園が入り組んだ造りで、見つけるのに時間がかかってしまってな」

「見つけた時には、男の子と一緒だったのだけれど、私達に気づいたら、男の子の手を引いて走ってきたのよね。心配していたのに、リゼットったらすごい笑顔で、手に持ってた綺麗な小さな花束の話ばかりするのですもの」

「そうだったな。花束はどうしたのか尋ねたら、王子様が元気になるようにくれたと言って、隣の男の子に同意を求めていてな、それがリュシアン殿下だったんだ。それから毎日の様にリュシアン殿下に遊んでもらっていたんだがーー」

両親は思い出を懐かしむように、幼き日のその1週間の出来事を話してくれた。



……ちょっと待って欲しい。
リュシアン殿下は今日、初恋の女の子との思い出を聞かせてくれた。
そして、今、両親が話してくれている内容がデジャヴ……というか、先程リュシアン殿下から聞いた話と同じなのは、私の気のせいだろうか?


思い出そうと頑張ってみたけど、残念ながら、私の記憶には、3歳の頃の出来事は存在していないようだ。5歳からの呪いの発作がキツすぎて、それに関わる部分の記憶はハッキリしているが、それ以前の日常的な記憶はほぼ思い出せない。

両親から聞いた話が本当なら、リュシアン殿下の初恋の相手は……もしかして、私?

初恋の話をするリュシアン殿下が、とても愛おしそうな顔で話していたのを思い出してしまい、思わず顔が赤くなった。



初恋の子の現在の話は出なかった。気になった私は、翌日、リュシアン殿下がいつも通り花束を抱え、お見舞いに来てくれた時に思い切って聞いてみた。

「あの、リュシアン殿下。昨日聞いた初恋のお話ですけれど、その……お相手の方は、今どうされてるのですか?」

「え? ……急にどうしたんだい?」

「実は、昨夜両親から、私が3歳頃に隣国に行った時の話を聞いたのですが、もしかして……」

「……そうか。バレてしまったんだな。貴女が思っている通りだよ。俺の初恋の相手は貴女だ。迷子になって泣くのを我慢していた貴女に出逢い、そこに咲いていた花で小さな花束を作ってプレゼントしたら、途端に嬉しそうな笑顔になった。その笑顔がすごく可愛くて印象的だったんだ。皆、王子である俺に媚を売りながら裏では何を考えてるのかわからない笑顔ばかりだからな。あんなに無邪気な笑顔を向けられた事はなかったし、その笑顔に一目惚れしたんだ。貴女と過ごす1週間もとても楽しくて、ずっと忘れられなかった。あの時から、貴女が好きだ」

少し照れた様にはにかむリュシアン殿下の瞳は真剣で、私は目が逸らせなかった。

「貴女が王命で王太子と婚約している事は知っていた。叶わない恋だとわかっていても忘れられなくて……少しでも貴女のそばで過ごしたくて、留学を許してもらった。卒業と同時にケジメをつけて、国に戻ったら父上が決めた令嬢と婚約する事を条件に。……だから、俺はダミアンと婚約解消したと聞いた時は正直喜んでしまった。貴女が傷ついているのに最低だと思う。すまない……。隣国の王太子の婚約者である貴女には俺は気持ちを伝える事すら許されない。思ってもみなかったチャンスが巡ってきて……。その、もちろん貴女が落ち着いてから気持ちを伝えるつもりだった……」

とても申し訳なさそうな、落ち込んだ顔のリュシアン殿下を見て、私の心は複雑だった。

リュシアン殿下の留学理由が、まさか私に関係していたとは完全に想定外で驚きだった。

確かに、ダミアン殿下への10年の想いが砕け散ってしまった婚約解消を喜んだと言われたら、なんて酷いことを言う人なのかと思う。

でも、リュシアン殿下は私が3歳の頃から、13年もの間、私の事を想ってくれていた。しかも、隣国の王太子であるリュシアン殿下が、他の国の王太子の婚約者に気持ちを告げるなんて、下手したら国交問題となってしまう。だから、気持ちを告げることさえも出来ずに、長い間想い続けてくれていたというのを知ってしまうと、何とも言えない。


「今すぐでなくて良い。リゼット嬢の気持ちが落ち着いたら、俺との結婚についても考えて貰えないだろうか? 一緒にフォルデノワに来て欲しい。
……でも、もし、10年以上も初恋を引きずってる男なんて気持ち悪すぎると思うなら」

「そんな! 気持ち悪いだなんて、そんなことは思いません。でも、突然すぎて……。少しだけ考える時間を貰えますか?」

「あぁ。俺は、今年で学園を終えたら国に帰る予定だから、それまでに返事をもらえれば嬉しい。……元々、望みはなかったんだ。もし、少しでも俺のことを見てくれるならば嬉しいが、ずっと見ていたからこそ、貴女がダミアンを愛していたのは、わかっている。だから、考えるのは、その気持ちが落ち着いてからで良いんだ」


リュシアン殿下は、私の呪いの事は知らない。
後数ヶ月で学園を卒業するのだから、本当なら、早く答えをもらいたいと思うはずなのに、私の事を気遣ってくれている。その優しさに心が温かくなった。

私の中ではダミアン殿下に対する気持ちに既に決着はついている。返答期限は彼が自国に戻るまで。それまでに結論を出さなければならない。


私の事を非常に心配してくれている両親に、早速、リュシアン殿下から告白されたことを伝えた。

「まぁ! リュシアン殿下が? それで、リゼットはどうしたいの?」

「正直に言って、まだ整理がついておりませんわ。先程言われたばかりですもの……」

「そうよねぇ」

「そうか。ともかく、お前がリュシアン殿下を愛せるかどうかが重要なんだ」

「あら、あなた。リゼットは、のよ? 本当に結婚を考えられない相手なら、その場で断っているわよ。だから、望みはあるのではないかしら?」

「そうだな。それに、即決する必要はない。他にも候補となる相手がいるかもしれない。それも含めて、じっくりと考えてみなさい」

「はい」


お母様の言葉が耳に残った。ベッドに入り、眠気が訪れるまでの間、それを思い返していた。

確かに、求婚されれば誰に対しても考える時間をもらうか、と言われれば、そんな事はないと思う。

例えば、同じクラスのソートン公爵子息やルクトワ侯爵子息から求婚されたらと考えてみるが、あまり悩まずにお断りしているだろう。ソートン公爵子息はたくさんの女性と仲が良く、一途ではなさそうだし、ルクトワ侯爵子息は、ある時の発言を聞いて価値観が合わないと思ったから、その場でお断りしていると思う。


では、リュシアン殿下は、どうなのか。
まず、昔から好きでいてくれた事について、気持ち悪いと感じなかった。むしろ、一途に想ってくれたことを嬉しいと思った。リュシアン殿下との会話は楽しく、彼に嫌悪感も抱いた事などない。

そこからは自問自答を繰り返した。

リュシアン殿下をどう思う?
ーー素敵な人だと思う。

もし、リュシアン殿下に触れられたら嫌だと思う?
ーーおそらく思わない。

もし、リュシアン殿下が国に帰ってしまって会えなくなったら?
ーー今なら、寂しいと感じる気がする。

もし、リュシアン殿下が、ダミアン殿下の様に他の令嬢と歩いていたり、キスしている場面を見たら?
ーーそんなのは想像したくない! 嫌だ!


私はリュシアン殿下を好き? 結婚したいと思う?
ーーわからない。好ましいとは思っているのは確か。他の令嬢と一緒に居るのは見たくない。これは、嫉妬? そんな感情を抱くなんて、もう好きってこと? 。でも、ハッキリと自信を持って言いきれない……。


もしかしたら、展開が早すぎて、まだ気持ちが追いついてないだけかもしれない。頭だけで考えても、納得できるほどのスッキリとした答えは出ない。恋愛は感情を伴うものだから。また明日、リュシアン殿下と話をしたら、より自分の気持ちが見えてくるかもしれないと考えるのをそこでやめた。


しかし、リュシアン殿下は訪ねてこなかった。
私が考えさせて欲しいと言ったから?
それとも何か用事があったから来れないのか……。

ここ1週間とちょっと、毎日お見舞いに来てくれていたから、自然と今日も来てくれると思ってしまっていた。リュシアン殿下に会えなかったことを少し寂しく思ったけれど、元々約束をしていた訳ではない。明日は来てくれるかもしれないと思考を切り替えた。


けれど、その後もリュシアン殿下は来なかった。最後に会ってから、もう5日が経過している。その間、私はリュシアン殿下の事ばかり考えてしまっていた。


そして翌日、リュシアン殿下はやってきた。

「リゼット嬢。お見舞いに来れずに済まない。公務でフォルデノワに戻っていたんだ」

リュシアン殿下はどうやら自国から呼び出され、すぐに戻ってくるつもりが、途中のトラブルにより数日かかってしまったようだった。その説明を聞き、彼が意図的に訪問を避けていた訳ではないと知って安堵した。


久しぶりにリュシアン殿下に会えて、まず感じたのは、嬉しさだった。笑顔を向けられて心臓がギュッとなり、さりげない仕草にドキッとした。それらの変化に戸惑いながらも、リュシアン殿下とお話をするのは楽しかった。

「リゼット嬢、気分転換に街に一緒に出かけないか? 流行りのケーキを食べに行こう」

なんとリュシアン殿下からお誘いを受けた。いつもはお見舞いという形での訪問により、我が家でお話しをするだけだった。リュシアン殿下から誘われたのが嬉しくて、その提案には、一も二もなく答えた。

「お誘いありがとうございます。ぜひご一緒させてくださいませ」



数日後、商家の娘に見える様にシンプルなブラウスと膝下丈の水色のスカートに帽子を被り、リュシアン殿下の来訪を心待ちにした。彼も下級貴族に見える装いと振る舞いをしていた。


街では、私の興味を惹くものを一緒に眺めたり、お店の人達とも話をしたりして、街を散策した。
大通りは人で賑わっていたため、彼はさり気なく私の手を取り、繋いで歩いた。

「人が多いから、逸れないように。……それに、平民は手を繋いで歩くのは普通だそうだ」

平然とそう言ったリュシアン殿下の耳は少し赤くなっていた。街中で男性と手を繋ぐ事なんて経験がなく、繋いだ手に何度も意識が行ってしまい、ドキドキした。とても楽しい1日を過ごし、馬車に着いて、手を離された時には、もっと繋いでいたかったと思ってしまった。


帰りの馬車では、今度開催される王家主催の舞踏会の話をした。リュシアン殿下から、ぜひ一曲踊って欲しいと請われたが、私もリュシアン殿下と踊りたいと思い、了承した。

そこで、ふと、私は既にリュシアン殿下が好きになってきているのかもしれないと思った。まだ婚約解消して、リュシアン殿下と仲良くなって2週間程度しか経っていない。だから、リュシアン殿下に恋愛感情を持ち、自信を持って好きとは言えないかもしれないけれど、今、リュシアン殿下の事をもっと知りたいと思っている。それに、愛し、愛されるなら彼が良いと思った。

まだハッキリと形にはなっていないけれど、今の自分の思いをリュシアン殿下に伝えると、彼は幸せを隠しきれない笑みを浮かべた。それを見て、私も嬉しくなった。

私の隣に移動すると、そっと私の手を取り、ゆっくりと指先に口づけた。その色気を含む動作で、私の顔はカーッと熱を持ったが、ちょうどその時、馬車がモーリアック邸に到着した。

名残惜しくも夜は更けてきており、リュシアン殿下も戻らなければならない時間だったため、その後すぐに帰られてしまった。

「今日の続きは、明日話そう」

明日もまた会える。それだけで嬉しくて口角も上がって、舞い上がりそうな気分だった。好きなのかもしれないと自覚しただけで、世界が違って見える。

明日は会う約束をしたから、いつもよりオシャレをしよう。可愛いと思ってもらえるように。



翌日、我が家を訪れたリュシアン殿下は赤い薔薇の花束を抱え、フォルデノワ国の正装を纏っていた。

私はカーテシーで挨拶をすると、リュシアン殿下は跪き、私の手を取り、私に視線を合わせた。

「リゼット・モーリアック嬢。私、リュシアン・エーテ・フォルデノワは、貴女に永遠の愛を誓います。幼い頃からずっと貴女を想い続けてきました。貴女と共に幸せな人生を築き、生涯の伴侶として一緒に歩んでいきたい。どうか私と結婚してくれませんか?」

リュシアン殿下の瞳は熱を帯びていた。
彼からの真摯で誠実な言葉と態度に、私の心臓も高鳴り、喜びが満ち溢れた。私は自分の心の思うままに返答した。

「はい。謹んでお受け致しますわ」

「ありがとう。嬉しくて、今日が一生忘れられない最高の日となった。リゼット嬢、愛してる」

「私もリュシアン殿下をお慕い申し上げます」

その後、両親に時間を取ってもらい、リュシアン殿下と婚約したい旨を伝えた。

彼の帰国に合わせて、私もフォルデノワ国の学園に転入し、卒業までの一年を学園で学びながら、フォルデノワの王子妃としての教育も受けることとなった。

婚約を結ぶ際に、リュシアン様に呪いの事を伝えたが、サラッと『俺は、貴女が3歳の頃から、ずっと貴女しか見えていない。ダミアンのこともあるから、リゼが不安や心配になるのもわかる。だから、国に戻ったら直ぐにでも結婚しよう』と言ってくれた。

婚約に関しては、リュシアン様が隣国の王太子である事もあり、王城の舞踏会にて、2人の婚約が発表されることとなった。

リュシアン様とワルツを踊り、挨拶の間もずっと彼は私の腰に手を添えて、そばから離れなかった。離れたところにいたダミアン殿下と一度目が合ったが、近づいてくることもなく、気にせずにリュシアン様に視線を戻すと、目が合い微笑みあった。その後、ダミアン殿下は顔色を悪くされていたらしいと、リュシアン様の従者が後から教えてくれた。

一通り挨拶も終え、熱気を冷ますように、2人で庭に出た。白・黄色・ピンク・赤の色取り取りの薔薇達がライトアップされ、とても幻想的な庭園のベンチに腰掛けた。

「リゼとの婚約発表が出来て、本当に幸せだ。婚約者としての期間は短いけど、早く妻として迎えたい。これから数年間は色々と忙しく、苦労もかけるかもしれない。だが、俺は毎日リゼとの時間を作り、もっと色々な事も話したいと思っている。リゼも何かあれば、遠慮せずに言って欲しい」

「あら、それは我儘でも良いのかしら?」

「もちろん。リゼの可愛い我儘なら、いくらでも叶えるつもりだ」

「まぁ! 幾らでも叶えるだなんて、後から後悔なさらない?」

「絶対ない。それに、リゼは無茶な我儘は言わないからな」

「ふふっ、信用してくださるのは嬉しいわ。それなら、卒業後に隣国に向かう前に、一緒に魔女のところに行って欲しいの」

「あぁ、もちろん。それだけで良いのか?」

「えぇ、今はね。何か思いついたら、言うわ」

「楽しみにしてるよ。さて、そろそろ戻ろうか。あまり外に長く居ても体を冷やしてしまう」

「そうね」

リュシアン様が立ち上がり、私に手を差し伸べる。私は自分の手を重ねて立ち上がったが、そのまま腕を引かれて、抱きしめられた。リュシアン様が腕を緩めると、2人の間に少しだけ空間が出来た。

「愛してる」

「私もリュシアン様を愛しておりますわ」

リュシアン様は両手を私の頬に添え、私の顔を少し上に向けさせると、ゆっくりと距離を縮めた。そっと目を閉じたら、唇に柔らかな感触があった。それはほんの一瞬で、目を開けると、蕩けそうな笑顔のリュシアン様が視界に映った。

「リゼ、可愛い……」

もう一度口付けられ、そこから何度も軽く啄まれ、段々と深くなり、最後は舌を絡めあった。危うく酸欠になりかけたところで、リュシアン様が漸く放してくれた。

目は潤み、少し息切れの状態だった私は、酸素を一生懸命取り込んで、呼吸を整えた。その間、屋外でリュシアン様と濃厚なキスを交わしてしまった事に気づき、羞恥のせいでしばらくは顔が火照っていた。でも、何よりも心がすごく満たされた感覚がした。


学園に入学するまでは、婚約者だったダミアン殿下のすぐ隣で、密着するほどの距離にいるだけでもいっぱいいっぱいだった。学園に入ってから、社交場でもエスコートされるようになり、近い距離感でも慣れた。何度かダミアン殿下からキスをされそうになった事はあったが、その時は緊張して顔を逸らしてしまった。初めてで緊張したのもあったけれど、おそらくは、無意識に拒否してしまったのかもしれないと、今になって思う。

ダミアン殿下にアプローチをかける令嬢達へのダミアン殿下の対応を見て、自分たちが心から愛し合っているのかと疑いを持ち始めていたのかもしれない。だから、ダミアン殿下のキスは受け入れられなかったけど、結果としては、それは正しかった。

私ののキス。
初心者にはハードで、羞恥もあったが、喜びや嬉しさ、幸福感に満たされた気持ちが相まって、一生忘れられない思い出となった。


婚約も発表されたため、私は学園に戻り、残り少ないアランブール国での学園生活を楽しんだ。リュシアン様は好意を一切隠さず私に構い、私達の仲睦まじい様子に横槍を入れてくる者はいなかった。



卒業式を終えた数日後、約束通りリュシアン様と共に魔女を訪ねた。

「おや? すでに呪いは解けてるようだね。もう大丈夫。今後、発作も起きる事はなく、死の危険もない。……アンタがこの娘を救ったのかい。あぁ、誠実そうな男じゃないか。良かったねぇ、幸せになるんだよ」

私をひと目見ると、呪いは解けていると魔女は言った。リュシアン様と心から愛し合っている事も証明され、リュシアン様も私の呪いが解けていることを心から喜んでくれた。


呪いが解けた事を両親にも伝えると、2人とも号泣し、リュシアン様に何度もお礼を言っていた。

晴れやかな気持ちと喜びでフォルデノワ国に向かい、事前に調整していた通り、フォルデノワ国に着いてすぐに婚姻の書類が交わされ、書類上の夫婦となった。

結婚式は私の卒業後に予定され、それまでの1年間は、しっかりと準備を進めながら、王子妃のための教育も受けつつ、卒業に向けての勉学にも励み、中々に忙しい日々を過ごした。それでも夫婦の時間をお互いが大切にし、リュシアン様には溺愛され、幸せな毎日が続いた。


私の初恋は残念ながら叶わなかったけれど、『呪い』のおかげで最愛の人と生涯の伴侶となる事ができ、貴族の義務の様な政略結婚とは無縁の、愛がある結婚をして子宝にも恵まれ、今とても幸せに過ごせています。
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