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Ep.03 婚約破棄
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「アメリア・オルコック。アルフレッド・エッジワースの名の下に貴様との婚約を破棄する!」
ドレスや燕尾服を身に纏い、着飾った令嬢令息が歓談している中、そんな声が高らかに響いた。
学園の卒業パーティーの場に似つかわしくない宣言に、その場に居た者達は一斉に、ピタリと歓談を止め、発言した人物、この国、エッジワース国の第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下に注目した。
高等学園の卒業式が終わり、今は卒業パーティーが学園のホールで開催されていた。
高等学園は、14歳から18歳の四年制となり、国民全員が通う様に義務付けられている。読み書きや基本的な知識や作法を学ぶ普通科、貴族の令嬢達が通う淑女科、商売について学ぶ商業科、騎士を目指す騎士科、領主になる者達が通う経営科、文官を目指す文科、魔術師を目指す魔法科、国の運営に携わるものや将来有望な高位貴族達が通う特進科など様々な学科が存在し、卒業式は各学科毎に執り行われる。
学科毎に建物は違うため、通常は他の学科の人との交流は少ない。年に何回か学園規模でのイベントが開催され、他の学科の人の交流をもつ事が出来る。卒業パーティーは、学園規模のイベントの一つだ。
そんなお祝いの場にて突然響き渡った宣言に、会場に居た者たちは何事かと、これから何が起こるのかと、声の発信源近くに続々と集まってくる。人々に囲まれる形で、第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下と、その婚約者であるアメリア・オルコック嬢が対峙している。
アメリア・オルコック嬢は、特進科に通う公爵令嬢である。第一王子の婚約者ということもあり、将来の王妃に相応しく、凛とした態度を崩さず、優雅で上品である。突然の宣言にも動揺することなく、発言した人物に正面から向き合っている。
対して、第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下の隣には、庇護欲を唆る様な可愛らしい女性が寄り添っていた。淑女科に在籍する令嬢である。また、彼らの後ろには、アルフレッド殿下の側近候補の令息達4名が並んでいた。
何も言わずに表情も崩さないアメリア嬢を見て、再度アルフレッド殿下は声を荒げた。
「身分を笠に、か弱い女性を虐めるお前の様な罪人は王妃に相応しくない! アメリア、貴様との婚約は破棄する!」
アルフレッド殿下が横にいる令嬢を守る様に肩を抱きながらその発言をしたため、周りの生徒達は騒めき、各々がコソコソと会話を始めた。
ついに言ってやった! とドヤ顔を決めるアルフレッド殿下に、アメリア嬢は冷静に返した。
「アルフレッド殿下、あなたは今ご自分が何をされているのか理解されているのですか?」
「当たり前だ! エイミーに酷い虐めをしただろう! 教科書を破ったり、ドレスに飲み物をかけたり、階段からも突き落としたのだろう! この性悪女がっ!」
怒りを露わに王子らしくない言動をするアルフレッド殿下に周りは驚いている。しかし、アメリア嬢は依然、凛とした態度を崩さず、口元を扇子で隠し、堂々と答える。
「何をおっしゃってるのかわかりませんが、エイミーさん、でしたかしら? 私はその方を虐めるなど、しておりませんわ」
「ふざけるな! こちらは証人がいるんだぞ」
「証人ですって? やってもいない事を証言される方を証人とされましても、困りますわ」
アメリア嬢は、手を頬に当て、軽く首を傾げた。
「あくまでも認めないつもりか! もういい! それ以上ーー」
結論を口にしようとしたアルフレッド殿下の声は、アメリア嬢の発言により遮られた。
「そもそもですけれど、なぜ、私がその様な事をその方にするのでしょうか? 私はその方と面識はございませんわよ」
「なぜ、だと? エイミーへの嫉妬だろう!」
「まぁ、嫉妬ですの? 私が? 面識のない方に?」
「お前の婚約者であった私がエイミーと仲が良いという噂を聞いて嫉妬したんだろう」
「どうして、その噂を聞いて嫉妬するんですの?」
「私の愛情がお前にではなくエイミーに向けられていると気づいて、エイミーに嫉妬したんだろう!」
その発言を聞いたアメリア嬢は、堪えきれず笑ってしまった。いきなり笑い始めたアメリア嬢に一瞬不意ををつかれたが、すぐに反論しようとしたところ、そこに第三者の声が響き渡った。
「そこまでだ!」
ホール内に居た者達は、一斉にそちらに目を向ける。現れたのは、この国の国王陛下、王妃殿下、そして、王弟殿下の3名である。
「お前達は、この祝いの場で、一体何をしているのだ」
国王陛下がアルフレッド殿下の集団とアメリア嬢を交互に見て、呆れ顔で問うた。アルフレッド殿下が国王陛下の問いに答えようとするが、それも遮られた。
「説明はいらん。既に聞いておる。全く嘆かわしい」
国王陛下は、アメリア嬢に向けて告げる。
「アメリア嬢。この度は、誠に申し訳ない事をした」
「なっ! 父上! なぜ父上がこの様な罪人に謝罪など……」
「黙らんか! 馬鹿者が」
「この愚息の愚行、謝って許されるものでないのは承知しておる。重ね重ね、本当に申し訳ない。皆のもの! アメリア嬢には一切非がない事は私が証明する」
「国王陛下。私にも至らぬ点があったんだと思いますわ。この様な残念な結果になってしまい、力及ばず申し訳ございません」
「いや、アメリア嬢は良くやってくれた。この結果を導いたのは、アルフレッド自身だ」
とても残念そうな表情を浮かべた国王陛下は、表情を為政者のそれに戻すと、よく通る声で言った。
「第一王子アルフレッド・エッジワースと公爵令嬢アメリア・オルコックの婚約は、この場をもって、なかったこととする。さらに、アルフレッド・エッジワースの王位継承権は剥奪。第二王子を王太子とするかは第二王子の学園卒業時に判断する。公の場でこの様な騒ぎを起こした者たちの処分は追って通達する」
「なっ!」
「えっ?」
「そんな……」
「嘘だろ……」
アルフレッドとエイミーと呼ばれた令嬢、そして、彼らの周りに居た側近候補達は驚きに声をあげた。
「父上っ! 一体どういうことですか!」
国王陛下は冷めた目でアルフレッドを見ると、真実を告げた。
「お前達の学園での態度や話は全て報告されておる。エイミー・ソリー男爵令嬢を虐めたという話だが、全て自作自演で、アメリア嬢は一切関わっておらん」
「そんなっ! 嘘です。エイミーが嘘をつくはずは……」
「信じなくてもそれが真実だ。関係者全員に監視をつけておったからな。そもそも少し調べればわかるものを一人の意見を鵜呑みにしおって。お前が本日のこの卒業パーティーで婚約破棄を宣言するという計画を立てていた事も知っておるわ。アルフレッド、この学園での生活を通して、お前を試しておったのだ。王太子のひいては王の資質があるかどうかを。結果、一人の令嬢の戯言に騙されるお前は、王家には必要ない。それと、お前がその令嬢を婚約者にしたいと発言していたとも報告を受けておるが、お前達全員と関係を持つ様な令嬢を王家に迎える事を許すわけがなかろう。それでも望むというのなら、ソリー男爵家に婿入りでもするか?」
国王陛下は、アルフレッドとその側近候補達に視線を合わせて、そう言った。信じられない! といった表情を浮かべるアルフレッドは、エイミーの肩を掴み、嘘だよな?! と、問い詰めているが、エイミーの顔は真っ青だ。側近候補達も苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「とにかく、この祝いの場で騒動を起こしたお前達には退場してもらう。別室で好きなだけ話すが良い」
国王陛下の合図によって、アルフレッド、エイミー、そして、側近候補だった令息4人は衛兵によって、ホールから連れ出され、改めて卒業パーティーの開会宣言が行われた。
彼らが連れていかれる様子を目で追っていたアメリア嬢に声が掛けられた。
「アメリア・オルコック嬢」
振り返るとクラーク・エッジワース王弟殿下が居た。国王陛下の少し歳が離れた弟となる。まだ23歳で有能な美丈夫だ。
「ごきげんよう。クラーク殿下」
「この度は、甥が申し訳ない事をした」
「クラーク殿下、頭をお上げください。今回の事は事前に分かっていた事ですもの。それに、アルフレッド殿下とはただの政略としての婚約でしたし、本日で白紙に戻りましたわ。ですから、私は気にしておりませんわ」
「そうか。それなら良かった。……アメリア嬢、私と一曲踊っていただけないだろうか?」
「えぇ、喜んで」
クラーク殿下の手を取り、ダンスフロアに移動し、楽団の音楽に合わせて踊り始めた。クラーク殿下の視線を感じて顔を上げると、強い意志を瞳に宿したクラーク殿下と目が合った。
「アメリア嬢、私はアルフレッドとの婚約が白紙に戻ってくれて、喜びが隠せない。あの約束の後に、アルフレッドとの婚約が結ばれてしまって、ずっとやりきれない気持ちだった。何年か経って、貴女がいずれ王妃となるならば、陰で支えていこうと決意はした。しかし、学園に入ったアルフレッドの愚行を耳にして……。許せなかった。それなら、諦める必要はないと思い直したんだ。あの約束を果たさせて欲しい。貴女の事をずっと愛している。私が貴女を幸せにしたい。だから、私と結婚してくれないか?」
告げられたプロポーズに、アメリア嬢の頬はほんのり赤く色付いた。
「ラーク様。私は、アルフレッド殿下との婚約が結ばれてから、オルコック公爵家の娘として、国へ忠義を尽くすことを優先してまいりました。王妃となるなら、私の恋心など封印しなければと、気持ちに蓋をしましたの。それでも、この国の事を考える時、貴方がいるこの国を豊かにしたいと、いつも思ってしまいましたわ。あの約束を忘れた事は一度もありません。大切な思い出ですもの。辛くなった時には、いつもそれを思い出して乗り越えてきましたわ。私もラーク様をお慕いしております」
「それでは、受けてくれるかい?」
「もちろんですわ。謹んでお受け致します」
「ありがとう。では、このダンスが終わったら、早速、陛下達に許可をもらいにいこうか」
「えぇ」
先ほどまでとは全く異なり、幸せそうな笑顔が浮かぶアメリア嬢。2人は微笑み合いながら、ダンスを終えると、早速国王陛下とオルコック公爵の元に話に行った。アルフレッドとの婚約無効の手続きと合わせて、クラーク・エッジワース王弟殿下とアメリア・オルコック公爵令嬢の婚約が結ばれた。
後日、卒業パーティーで騒ぎを起こした面々の処分が言い渡された。公の場で1人の令嬢に冤罪を擦りつけ、婚約破棄を言い渡した事は、数日の内に国中で話題となっていた。アルフレッドは王位継承権を剥奪され、王妃の実家である伯爵家に養子に出され、伯爵家嫡男の領地経営の補佐をする様にと叔父から扱かれて、一から学ばされる事となった。側近候補達は全員廃嫡されて平民となり、ソリー男爵家はエイミーのしでかしている事を知った上で何もしなかったため、取り潰しとなった。エイミーは嘘をついて王族を誑かした偽証罪により、罪人が送られる修道院に入った。
事前に計画が国王陛下の知るところであり、敢えてそれを利用する形にもしていたため、温情として、極刑を言い渡される事はなかった。
2年後、無事に第二王子が王太子となった。
同年、クラーク王弟殿下も臣籍降下して公爵位を賜り、アメリア嬢との結婚式をあげ、皆から祝福された。
ドレスや燕尾服を身に纏い、着飾った令嬢令息が歓談している中、そんな声が高らかに響いた。
学園の卒業パーティーの場に似つかわしくない宣言に、その場に居た者達は一斉に、ピタリと歓談を止め、発言した人物、この国、エッジワース国の第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下に注目した。
高等学園の卒業式が終わり、今は卒業パーティーが学園のホールで開催されていた。
高等学園は、14歳から18歳の四年制となり、国民全員が通う様に義務付けられている。読み書きや基本的な知識や作法を学ぶ普通科、貴族の令嬢達が通う淑女科、商売について学ぶ商業科、騎士を目指す騎士科、領主になる者達が通う経営科、文官を目指す文科、魔術師を目指す魔法科、国の運営に携わるものや将来有望な高位貴族達が通う特進科など様々な学科が存在し、卒業式は各学科毎に執り行われる。
学科毎に建物は違うため、通常は他の学科の人との交流は少ない。年に何回か学園規模でのイベントが開催され、他の学科の人の交流をもつ事が出来る。卒業パーティーは、学園規模のイベントの一つだ。
そんなお祝いの場にて突然響き渡った宣言に、会場に居た者たちは何事かと、これから何が起こるのかと、声の発信源近くに続々と集まってくる。人々に囲まれる形で、第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下と、その婚約者であるアメリア・オルコック嬢が対峙している。
アメリア・オルコック嬢は、特進科に通う公爵令嬢である。第一王子の婚約者ということもあり、将来の王妃に相応しく、凛とした態度を崩さず、優雅で上品である。突然の宣言にも動揺することなく、発言した人物に正面から向き合っている。
対して、第一王子であるアルフレッド・エッジワース殿下の隣には、庇護欲を唆る様な可愛らしい女性が寄り添っていた。淑女科に在籍する令嬢である。また、彼らの後ろには、アルフレッド殿下の側近候補の令息達4名が並んでいた。
何も言わずに表情も崩さないアメリア嬢を見て、再度アルフレッド殿下は声を荒げた。
「身分を笠に、か弱い女性を虐めるお前の様な罪人は王妃に相応しくない! アメリア、貴様との婚約は破棄する!」
アルフレッド殿下が横にいる令嬢を守る様に肩を抱きながらその発言をしたため、周りの生徒達は騒めき、各々がコソコソと会話を始めた。
ついに言ってやった! とドヤ顔を決めるアルフレッド殿下に、アメリア嬢は冷静に返した。
「アルフレッド殿下、あなたは今ご自分が何をされているのか理解されているのですか?」
「当たり前だ! エイミーに酷い虐めをしただろう! 教科書を破ったり、ドレスに飲み物をかけたり、階段からも突き落としたのだろう! この性悪女がっ!」
怒りを露わに王子らしくない言動をするアルフレッド殿下に周りは驚いている。しかし、アメリア嬢は依然、凛とした態度を崩さず、口元を扇子で隠し、堂々と答える。
「何をおっしゃってるのかわかりませんが、エイミーさん、でしたかしら? 私はその方を虐めるなど、しておりませんわ」
「ふざけるな! こちらは証人がいるんだぞ」
「証人ですって? やってもいない事を証言される方を証人とされましても、困りますわ」
アメリア嬢は、手を頬に当て、軽く首を傾げた。
「あくまでも認めないつもりか! もういい! それ以上ーー」
結論を口にしようとしたアルフレッド殿下の声は、アメリア嬢の発言により遮られた。
「そもそもですけれど、なぜ、私がその様な事をその方にするのでしょうか? 私はその方と面識はございませんわよ」
「なぜ、だと? エイミーへの嫉妬だろう!」
「まぁ、嫉妬ですの? 私が? 面識のない方に?」
「お前の婚約者であった私がエイミーと仲が良いという噂を聞いて嫉妬したんだろう」
「どうして、その噂を聞いて嫉妬するんですの?」
「私の愛情がお前にではなくエイミーに向けられていると気づいて、エイミーに嫉妬したんだろう!」
その発言を聞いたアメリア嬢は、堪えきれず笑ってしまった。いきなり笑い始めたアメリア嬢に一瞬不意ををつかれたが、すぐに反論しようとしたところ、そこに第三者の声が響き渡った。
「そこまでだ!」
ホール内に居た者達は、一斉にそちらに目を向ける。現れたのは、この国の国王陛下、王妃殿下、そして、王弟殿下の3名である。
「お前達は、この祝いの場で、一体何をしているのだ」
国王陛下がアルフレッド殿下の集団とアメリア嬢を交互に見て、呆れ顔で問うた。アルフレッド殿下が国王陛下の問いに答えようとするが、それも遮られた。
「説明はいらん。既に聞いておる。全く嘆かわしい」
国王陛下は、アメリア嬢に向けて告げる。
「アメリア嬢。この度は、誠に申し訳ない事をした」
「なっ! 父上! なぜ父上がこの様な罪人に謝罪など……」
「黙らんか! 馬鹿者が」
「この愚息の愚行、謝って許されるものでないのは承知しておる。重ね重ね、本当に申し訳ない。皆のもの! アメリア嬢には一切非がない事は私が証明する」
「国王陛下。私にも至らぬ点があったんだと思いますわ。この様な残念な結果になってしまい、力及ばず申し訳ございません」
「いや、アメリア嬢は良くやってくれた。この結果を導いたのは、アルフレッド自身だ」
とても残念そうな表情を浮かべた国王陛下は、表情を為政者のそれに戻すと、よく通る声で言った。
「第一王子アルフレッド・エッジワースと公爵令嬢アメリア・オルコックの婚約は、この場をもって、なかったこととする。さらに、アルフレッド・エッジワースの王位継承権は剥奪。第二王子を王太子とするかは第二王子の学園卒業時に判断する。公の場でこの様な騒ぎを起こした者たちの処分は追って通達する」
「なっ!」
「えっ?」
「そんな……」
「嘘だろ……」
アルフレッドとエイミーと呼ばれた令嬢、そして、彼らの周りに居た側近候補達は驚きに声をあげた。
「父上っ! 一体どういうことですか!」
国王陛下は冷めた目でアルフレッドを見ると、真実を告げた。
「お前達の学園での態度や話は全て報告されておる。エイミー・ソリー男爵令嬢を虐めたという話だが、全て自作自演で、アメリア嬢は一切関わっておらん」
「そんなっ! 嘘です。エイミーが嘘をつくはずは……」
「信じなくてもそれが真実だ。関係者全員に監視をつけておったからな。そもそも少し調べればわかるものを一人の意見を鵜呑みにしおって。お前が本日のこの卒業パーティーで婚約破棄を宣言するという計画を立てていた事も知っておるわ。アルフレッド、この学園での生活を通して、お前を試しておったのだ。王太子のひいては王の資質があるかどうかを。結果、一人の令嬢の戯言に騙されるお前は、王家には必要ない。それと、お前がその令嬢を婚約者にしたいと発言していたとも報告を受けておるが、お前達全員と関係を持つ様な令嬢を王家に迎える事を許すわけがなかろう。それでも望むというのなら、ソリー男爵家に婿入りでもするか?」
国王陛下は、アルフレッドとその側近候補達に視線を合わせて、そう言った。信じられない! といった表情を浮かべるアルフレッドは、エイミーの肩を掴み、嘘だよな?! と、問い詰めているが、エイミーの顔は真っ青だ。側近候補達も苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「とにかく、この祝いの場で騒動を起こしたお前達には退場してもらう。別室で好きなだけ話すが良い」
国王陛下の合図によって、アルフレッド、エイミー、そして、側近候補だった令息4人は衛兵によって、ホールから連れ出され、改めて卒業パーティーの開会宣言が行われた。
彼らが連れていかれる様子を目で追っていたアメリア嬢に声が掛けられた。
「アメリア・オルコック嬢」
振り返るとクラーク・エッジワース王弟殿下が居た。国王陛下の少し歳が離れた弟となる。まだ23歳で有能な美丈夫だ。
「ごきげんよう。クラーク殿下」
「この度は、甥が申し訳ない事をした」
「クラーク殿下、頭をお上げください。今回の事は事前に分かっていた事ですもの。それに、アルフレッド殿下とはただの政略としての婚約でしたし、本日で白紙に戻りましたわ。ですから、私は気にしておりませんわ」
「そうか。それなら良かった。……アメリア嬢、私と一曲踊っていただけないだろうか?」
「えぇ、喜んで」
クラーク殿下の手を取り、ダンスフロアに移動し、楽団の音楽に合わせて踊り始めた。クラーク殿下の視線を感じて顔を上げると、強い意志を瞳に宿したクラーク殿下と目が合った。
「アメリア嬢、私はアルフレッドとの婚約が白紙に戻ってくれて、喜びが隠せない。あの約束の後に、アルフレッドとの婚約が結ばれてしまって、ずっとやりきれない気持ちだった。何年か経って、貴女がいずれ王妃となるならば、陰で支えていこうと決意はした。しかし、学園に入ったアルフレッドの愚行を耳にして……。許せなかった。それなら、諦める必要はないと思い直したんだ。あの約束を果たさせて欲しい。貴女の事をずっと愛している。私が貴女を幸せにしたい。だから、私と結婚してくれないか?」
告げられたプロポーズに、アメリア嬢の頬はほんのり赤く色付いた。
「ラーク様。私は、アルフレッド殿下との婚約が結ばれてから、オルコック公爵家の娘として、国へ忠義を尽くすことを優先してまいりました。王妃となるなら、私の恋心など封印しなければと、気持ちに蓋をしましたの。それでも、この国の事を考える時、貴方がいるこの国を豊かにしたいと、いつも思ってしまいましたわ。あの約束を忘れた事は一度もありません。大切な思い出ですもの。辛くなった時には、いつもそれを思い出して乗り越えてきましたわ。私もラーク様をお慕いしております」
「それでは、受けてくれるかい?」
「もちろんですわ。謹んでお受け致します」
「ありがとう。では、このダンスが終わったら、早速、陛下達に許可をもらいにいこうか」
「えぇ」
先ほどまでとは全く異なり、幸せそうな笑顔が浮かぶアメリア嬢。2人は微笑み合いながら、ダンスを終えると、早速国王陛下とオルコック公爵の元に話に行った。アルフレッドとの婚約無効の手続きと合わせて、クラーク・エッジワース王弟殿下とアメリア・オルコック公爵令嬢の婚約が結ばれた。
後日、卒業パーティーで騒ぎを起こした面々の処分が言い渡された。公の場で1人の令嬢に冤罪を擦りつけ、婚約破棄を言い渡した事は、数日の内に国中で話題となっていた。アルフレッドは王位継承権を剥奪され、王妃の実家である伯爵家に養子に出され、伯爵家嫡男の領地経営の補佐をする様にと叔父から扱かれて、一から学ばされる事となった。側近候補達は全員廃嫡されて平民となり、ソリー男爵家はエイミーのしでかしている事を知った上で何もしなかったため、取り潰しとなった。エイミーは嘘をついて王族を誑かした偽証罪により、罪人が送られる修道院に入った。
事前に計画が国王陛下の知るところであり、敢えてそれを利用する形にもしていたため、温情として、極刑を言い渡される事はなかった。
2年後、無事に第二王子が王太子となった。
同年、クラーク王弟殿下も臣籍降下して公爵位を賜り、アメリア嬢との結婚式をあげ、皆から祝福された。
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