12 / 12
12
しおりを挟む
リッチモンド公爵令嬢との会話は周りに聞こえないように小声で話していたため、エルネストにも聞こえていなかった。今日は生徒会の仕事がないらしく、クローデットと一緒に馬車で帰っているので、リッチモンド公爵令嬢との約束の件を伝えた。
「へぇ~、今度の休日にキャサリン嬢と野菜クッキーを作るのか。それはまた急な話だね。まぁ、でも問題ないんじゃないかな。リッチモンド家は政敵でもないし、マクシミリアン殿下の従姉妹であっても、あの家は権力は全く求めてないし。それに、あの家の方々はなんていうか、本当自由だよな。クゥも楽しみなんだろ?」
「楽しみよ。そうね、思っていたようなイメージとは全然違う方だわ。でも、仲良くなれそうだと思うの」
「そっか~、クゥと過ごせないのは残念だけど、それなら次の休日は楽しんでね」
「えぇ、ありがとう。作った野菜クッキーは翌日渡すわね?」
「あぁ、ありがとう。翌日はクゥに会いに来るからね」
休日はすぐだった。リッチモンド公爵令嬢は約束の時間通りにアルトー公爵家のタウンハウスに現れたが、お菓子作りをするという目的があるためか、動きやすさが重視されたシンプルで色味の抑えられたドレスを纏っている。
「ごきげんよう。本日はお招きありがとう~」
「ごきげんよう、リッチモンド様。では早速キッチンに案内させていただきますわ」
「私のことはキャサリンで良いわよ~」
「わかりましたわ、キャサリン様。どうぞ私のこともクローデットと」
「えぇ、よろしくね~クローデット様」
キャサリンを連れて、アルトー家の厨房ではなく、別途クローデット用に用意された広めのキッチンに案内する。このキッチンはクローデットの要望通りに設計されているため、オーブンも複数用意されており、この世界では流通していないような様々な調理器具も揃っていてお菓子作りには最適なキッチンとなっている。
「まぁ、素敵なキッチンね~」
「ありがとうございます。私の要望通りに作ってもらったのですわ」
「いいわね~」
「あ、キャサリン様。クッキーには小麦粉なども使いますので、お召し物が汚れないようにこちらを上から着ていただけますか?」
「えぇ、わかったわ~。初めて見るものだけれど、なんていう服かしら?」
「これは割烹着と呼ばれるもので、エプロンの一種ですわ。料理やお菓子作りの際に汚れないように衣服の上に着用するものですが、ドレスにも合うようにフリルをつけたり、可愛く見えるように工夫して作りましたの」
「あら、売り物ではなくクローデット様が考えられたものなのね。機能性と可愛さが両立していてとても素晴らしいわ~」
エプロンではドレスが汚れてしまう可能性があったため、クローデットは前世の記憶を活用して割烹着を作っていた。首元から膝下までと両腕が覆われるため、汚れ防止には最適である。ただ、前世の割烹着は着物の上から着るというイメージが強く、それをドレスの上から羽織ると不恰好になってしまうので、形を少し変えてワンピース風で、スカート部分はふわりと、ゆとりを持たせるように工夫をした。ドレスではなくワンピースの上から着られるタイプなど、幾つかのパターンは製作してある。
手も洗って準備も出来たので、早速お菓子作りにとりかかる。野菜クッキーに必要なものは、薄力粉、砂糖、卵、バター、それに野菜。
差し入れにと考えられていたので、うずまきと市松模様のアイスボックスクッキーを作ることにした。通常の野菜クッキーのレシピも渡す。
作り方の手順をキャサリンに説明しながら、一緒に作っていく。
まずは、紫芋は茹でて皮を剥いて潰してペースト状に、人参は皮を剥いてすりおろす。ボールに室温に戻したバターを入れて、泡立て器でクリーム状になるまで混ぜて、そこに砂糖を加えて混ぜる。さらに卵を3回ほどに分けて入れて混ぜて、それを4つに分ける。2つはプレーンのまま、1つは人参、もう一つは紫芋を入れ、ふるった薄力粉を入れてそれぞれ切るように混ぜ合わせる。にんじんとプレーンの一つは長方形の棒状に、紫芋ともう一つのプレーンは少し伸ばして平たく正方形に成形して、それぞれをラップで包んで冷蔵庫で冷やす。
待ち時間にはキャサリンと雑談をした。
「では、お休みの日は騎士団の見学に行ってるんですか?」
「そうよ~。ご迷惑にならないように月に一度程度かしら。その時に差し入れも持っていくの~」
「どなたかお目当ての騎士様がいるのですか?」
「えぇ! ラギエ副騎士団長よ~! 剣術大会で彼の剣捌きを見てから大ファンなの~。それから騎士団の見学に行くようになったわ。鍛えられた身体もとても魅力的だけど、部下達に飴と鞭を使い分けた指導をされていてすごく素敵な方ですわ~」
「え、ルイスですか?」
「そういえば、クローデット様はラギエ副騎士団長の従姉妹でしたわね。とても羨ましいですわ~。私がラギエ副騎士団長の大ファンということは内緒にしてもらえるかしら? ラギエ副騎士団長は、おそらくそういうのは苦手でしょう~? ご迷惑にはなりたくないから、静かに見学させていただいてるのよ~」
まさかキャサリンの目当てがルイスとは意外である。確かにルイスはモテる。が、モテすぎて、学生の頃からキャーキャー騒ぐ令嬢ばかりで、うるさい令嬢は好きではないと昔から言っていた。ただ外面はよく、そういう令嬢にも当たり障りのないように対応していたはずである。そこに気づいているとは流石だ。
話しているとすぐに時間が経ったので冷蔵庫から生地を取り出して、長方形にしたものは4等分で縦横1cmずつの長方形に切り、繋ぎ目に卵を塗って市松模様となるようにプレーンと人参の生地を重ねる。平たい紫芋とプレーンはさらに伸ばし、こちらも卵を塗って少しずらして重ね合わせる。端からクルクルと巻いて形を整えて再度冷蔵庫へ。
規定時間を冷やした後に5mm程度の厚さに切ってオーブンで焼く。
出来上がりを試食してみたが、見た目も味も問題なかった。キャサリンもとても気に入ってくれたようだ。そしてなぜかクローデットは今度の休日に一緒に騎士団の見学に行くことになってしまった。
「へぇ~、今度の休日にキャサリン嬢と野菜クッキーを作るのか。それはまた急な話だね。まぁ、でも問題ないんじゃないかな。リッチモンド家は政敵でもないし、マクシミリアン殿下の従姉妹であっても、あの家は権力は全く求めてないし。それに、あの家の方々はなんていうか、本当自由だよな。クゥも楽しみなんだろ?」
「楽しみよ。そうね、思っていたようなイメージとは全然違う方だわ。でも、仲良くなれそうだと思うの」
「そっか~、クゥと過ごせないのは残念だけど、それなら次の休日は楽しんでね」
「えぇ、ありがとう。作った野菜クッキーは翌日渡すわね?」
「あぁ、ありがとう。翌日はクゥに会いに来るからね」
休日はすぐだった。リッチモンド公爵令嬢は約束の時間通りにアルトー公爵家のタウンハウスに現れたが、お菓子作りをするという目的があるためか、動きやすさが重視されたシンプルで色味の抑えられたドレスを纏っている。
「ごきげんよう。本日はお招きありがとう~」
「ごきげんよう、リッチモンド様。では早速キッチンに案内させていただきますわ」
「私のことはキャサリンで良いわよ~」
「わかりましたわ、キャサリン様。どうぞ私のこともクローデットと」
「えぇ、よろしくね~クローデット様」
キャサリンを連れて、アルトー家の厨房ではなく、別途クローデット用に用意された広めのキッチンに案内する。このキッチンはクローデットの要望通りに設計されているため、オーブンも複数用意されており、この世界では流通していないような様々な調理器具も揃っていてお菓子作りには最適なキッチンとなっている。
「まぁ、素敵なキッチンね~」
「ありがとうございます。私の要望通りに作ってもらったのですわ」
「いいわね~」
「あ、キャサリン様。クッキーには小麦粉なども使いますので、お召し物が汚れないようにこちらを上から着ていただけますか?」
「えぇ、わかったわ~。初めて見るものだけれど、なんていう服かしら?」
「これは割烹着と呼ばれるもので、エプロンの一種ですわ。料理やお菓子作りの際に汚れないように衣服の上に着用するものですが、ドレスにも合うようにフリルをつけたり、可愛く見えるように工夫して作りましたの」
「あら、売り物ではなくクローデット様が考えられたものなのね。機能性と可愛さが両立していてとても素晴らしいわ~」
エプロンではドレスが汚れてしまう可能性があったため、クローデットは前世の記憶を活用して割烹着を作っていた。首元から膝下までと両腕が覆われるため、汚れ防止には最適である。ただ、前世の割烹着は着物の上から着るというイメージが強く、それをドレスの上から羽織ると不恰好になってしまうので、形を少し変えてワンピース風で、スカート部分はふわりと、ゆとりを持たせるように工夫をした。ドレスではなくワンピースの上から着られるタイプなど、幾つかのパターンは製作してある。
手も洗って準備も出来たので、早速お菓子作りにとりかかる。野菜クッキーに必要なものは、薄力粉、砂糖、卵、バター、それに野菜。
差し入れにと考えられていたので、うずまきと市松模様のアイスボックスクッキーを作ることにした。通常の野菜クッキーのレシピも渡す。
作り方の手順をキャサリンに説明しながら、一緒に作っていく。
まずは、紫芋は茹でて皮を剥いて潰してペースト状に、人参は皮を剥いてすりおろす。ボールに室温に戻したバターを入れて、泡立て器でクリーム状になるまで混ぜて、そこに砂糖を加えて混ぜる。さらに卵を3回ほどに分けて入れて混ぜて、それを4つに分ける。2つはプレーンのまま、1つは人参、もう一つは紫芋を入れ、ふるった薄力粉を入れてそれぞれ切るように混ぜ合わせる。にんじんとプレーンの一つは長方形の棒状に、紫芋ともう一つのプレーンは少し伸ばして平たく正方形に成形して、それぞれをラップで包んで冷蔵庫で冷やす。
待ち時間にはキャサリンと雑談をした。
「では、お休みの日は騎士団の見学に行ってるんですか?」
「そうよ~。ご迷惑にならないように月に一度程度かしら。その時に差し入れも持っていくの~」
「どなたかお目当ての騎士様がいるのですか?」
「えぇ! ラギエ副騎士団長よ~! 剣術大会で彼の剣捌きを見てから大ファンなの~。それから騎士団の見学に行くようになったわ。鍛えられた身体もとても魅力的だけど、部下達に飴と鞭を使い分けた指導をされていてすごく素敵な方ですわ~」
「え、ルイスですか?」
「そういえば、クローデット様はラギエ副騎士団長の従姉妹でしたわね。とても羨ましいですわ~。私がラギエ副騎士団長の大ファンということは内緒にしてもらえるかしら? ラギエ副騎士団長は、おそらくそういうのは苦手でしょう~? ご迷惑にはなりたくないから、静かに見学させていただいてるのよ~」
まさかキャサリンの目当てがルイスとは意外である。確かにルイスはモテる。が、モテすぎて、学生の頃からキャーキャー騒ぐ令嬢ばかりで、うるさい令嬢は好きではないと昔から言っていた。ただ外面はよく、そういう令嬢にも当たり障りのないように対応していたはずである。そこに気づいているとは流石だ。
話しているとすぐに時間が経ったので冷蔵庫から生地を取り出して、長方形にしたものは4等分で縦横1cmずつの長方形に切り、繋ぎ目に卵を塗って市松模様となるようにプレーンと人参の生地を重ねる。平たい紫芋とプレーンはさらに伸ばし、こちらも卵を塗って少しずらして重ね合わせる。端からクルクルと巻いて形を整えて再度冷蔵庫へ。
規定時間を冷やした後に5mm程度の厚さに切ってオーブンで焼く。
出来上がりを試食してみたが、見た目も味も問題なかった。キャサリンもとても気に入ってくれたようだ。そしてなぜかクローデットは今度の休日に一緒に騎士団の見学に行くことになってしまった。
59
お気に入りに追加
320
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はチート能力でゲーム展開から離脱した
神村結美
恋愛
ディアナ・ヘンリット公爵令嬢は、3歳の時、自分が悪役令嬢に転生していることに気づいた。
5歳となり、ライオネル・オールディントン第一王子の婚約者になった。婚約者だと伝えられた顔合わせの場での彼の印象は最悪だった。好きになることもなく、2人の仲は険悪。しかし、表向きには仲が良いフリをしていた。
ゲーム展開で将来婚約破棄をされるとわかっていたディアナは、ある計画を立てて実行し、ゲームからの離脱に成功する。
※1話目はディアナ視点(短め)、2話目以降はライオネル視点で進みます。
※小説家になろうでも掲載しています。
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる