抱えきれない思い出と共に…

文月

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私の消える日[1]

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年は狂々と廻る。
季節は何度となく巡りくる。
けれど、どの春も、庭には一本だけ散ったままの裸桜。
姫は、その花をつけない桜を見つめ続ける。
柱に寄り掛かって見つめ続ける。
食べることを止めた体は痩せ細り、
歩くことすらままならなくなってしまった。
病は重くなり、
色々な薬師や祈祷師や僧侶が入れ替わり立ち替わり、
姫の病を看ていったけれど、
大方の者は「心の病」に端を発すると言った。
心が弱るから、
体も弱っていくのだと。
「だったら、この病は治らないわ。」
だって、この心の穴はもう埋まらない。
埋められる人は、もうこの世にいないもの。
姫がそう言うと、彼らは溜息を吐き、「自分には手に負えない」と、お父様に言い置いて帰って行った。
でも中には、変なことを言う人もいて、
「これは呪いだ。」
とか、
「義高と名乗る霊がみえる。」
と言う者までいた。
だけど、それは嘘よ。
人は死んだら灰になるの。
灰になって消えるだけ。
姫は知ってるんだから。
その人は決して戻らない。
例え再び巡り合えたとしても、
それは違う『私』と、違う『貴方(ひと)』。
姫は分かってしまったんだから。
もう姫は『義高様』に会えないんだって。
桜は咲かない。
咲いたとしても、それは二度と同じ花をつけることはない。
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