抱えきれない思い出と共に…

文月

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義高様はお人形?[2]

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その日の夕刻、侍女が呼びに来てくれた。
ついに、義高様と対面だ!
ドキドキがどんどん大きくなっていた。
それがいけなかったのかな?
夕方近くに、姫は熱を出して少し寝込んでしまっていた。
でも、ほてった体を引きずって歩く。
体は重くてだるかったけれど、心は弾んで軽かった。
だって、だって会える!会えるんだもの!
嬉しい!!
そうして、対面の居間へ続く廊下を、侍女に伴われて歩いていると、目の前をよぎるものがあった。
それは、白い雪のようにヒラリと舞って廊下に落ちた。
ひらひらと風に揺れる桜の花びら。
思わず足をとめて見上げると、庭にあった桜の木が満開に咲いていた。
「姫?」
侍女は不思議そうに顔を覗き込んで聞いてくる。
姫が急に立ち止まったから。
でも、姫はその桜があまりに綺麗なものだから。
なぜだか、ひどく魅せられたように見入っていた。
まるで祝福するように花開く桜たち。
そうだ。
義高様に、まずこの桜をお見せしよう。
そんな事をぼんやり考えていたら、
「大姫様? どうされました? もしや体調が…?」
侍女に心配させてしまって、姫は思いっきりブンブン首を振った。
だって、そんな事になったら、姫は床に逆戻り。
大切な義高様と対面できなくなってしまう。
そうだった。急がなくちゃ!
今から、その義高様にお会いするんだから。
姫は再びルンルンわくわくと、少し早足で歩み出す。
白い桜の花弁を一片、廊下に残して。 
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