ただ、笑顔が見たくて。

越子

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七、怒り

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 冬の山は白魔が荒れ狂っていた。

 雪煙で羚羊カモシカたちの姿が消え去り、山入りしていた辰巳たちも身体が風に吹き飛ばされそうになっていた。マタギたちが雪穴に身を潜めて天候が回復するのを待っていたが

「これ以上は危険だ。山を降りる」

 マタギのシカリが決断し、集落へ戻ることにした。

「山神様は、何に怒っているのか……何一つ山の恵みを授かることが出来なかった」

 皆、このような言葉を口にし、肩を落として帰路につく。

 集落に着くと、一軒家に村人が集まっていた。それに気付いた平次が辰巳の肩を叩いた。

「おい。あの家、ハナのとこじゃないか?」

 今、ハナの家に住んでいるのは父親だけだ。辰巳は胸騒ぎを覚えて、人だかりにゆっくりと近づく。

「……いたましや……いたましや」

 村人の言葉に反応し、素早く人と人を掻き分けて家の中に入ると、辰巳は目を疑った――ハナの父親は梁に縄を吊るして首を括っていた。

 自ら時を止めた振り子時計の無惨な姿に、辰巳は血の気が引いて青ざめたが、それが見慣れてくると、沸々と身体が熱くなってくるのを感じた。

 ――ハナは、何の為に売られた?
 ――ハナは、誰の為に売られた?
 ――ハナは、お前の為に……!

「お前が居なくなったら、ハナはどうなるんだ!」

 身体中が熱く煮えたぎった辰巳は、雪風巻の中をもろともせずに勢いよく駆け出した。

「おい! 辰巳!」

 慌てて平次も彼の後を追い、二人は白い煙のように集落から姿を消した。
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