無色の男と、半端モノ

越子

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十、無色の男と半端モノ

月と太陽

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 ルリ姫が目を覚ますと、ハクに抱き抱えられていた。

「ハ、ハクさん!?」

「ハハッ! 姫様、ようやくお目覚めか?」

 ルリ姫が混乱したまま視線を動かすと、ハクの隣でツノが欠けた鬼の青年が朗らかに笑っていた。

「あ! あの時の鬼!」

 ルリ姫は状況が分からなかったが、安心と嬉しさで自然と涙が溢れ落ちた。

「良かった……本当に良かったわ」


   ◇ ◇ ◇


「ルリ姫!」

「マサヤ様」

 マサヤは言われた通り、その場で負傷者を手当しながら待っていた。ハクたちとルリ姫の姿を見ると彼は一目散に駆け出し、二人は喜び抱き合った。

「ハク殿、感謝する。そして……え?」

 マサヤは驚き目を丸くする。最初に出会った若い女性が居ない。だが、何故か鬼の青年がハクの隣に居る。

 マサヤの動揺に気づいたセツは慌ててハクの背中をバンバン叩く。ハクもようやく気付き、彼に説明する。

「彼女とは途中で別れました。彼は先程出会った私の……知り合いです」

 マサヤは怪訝な顔でセツを見る。ハクの淡白な説明に、セツは苦々しく笑うことしかできなかった。

(ハク……もう少し、何か言いようがあるだろ!?)

「マサヤ様。この鬼よ。昔、私を助けてくれたの!」

 ルリ姫もセツを庇うように説明したが、マサヤは気まずそうに少し頭を下げるだけだった。

「ハク、そろそろ行こうか」

 微妙な空気に居た堪れなくなったセツはハクを促すと、ハクは頷き早々にこの場から離れた。


   ◇ ◇ ◇


「ハク、やっぱりアンタって変人だよな」

「変人ではない」

 いつもと変わらない様子でハクが応えると、鬼の姿をしたセツは「ハハッ!」と嬉しそうに笑った。

(俺の姿が鬼でも人でも態度が変わらないところが変人なんだよ!)

 ハクとセツは赴くままに次の国へと向かっている。

 レイと別れてからというもの、ハクはセツと共に放浪し、困っている鬼や人を助けながら過ごしていた。山で夜を過ごす時は、セツが呼ばずとも何故か必ずカズキも一緒だった。

「そういえば、いつから俺はアンタの大切になったんだ?」

「……」

 ふと思い出したかのようにセツが尋ねるが、ハクは応えない。

「なあなあ。教えてくれよ」

 セツがハクの顔を覗き込むと彼は目を逸らし、考え込む。

「……わからない」

 セツは面白くなさそうに「ふーん?」と小さく呟いた。

「……いつの間にか、なっていた。君といると不思議と心地が良く、温かい気持ちになる。だから、君のことをもっと知りたい」

 それを聞いてセツの表情は瞬く間に明るくなる。

「ハハッ。俺もだ!」

 ハクは目を大きくしてセツの方へ振り向く。

「いつの間にか、俺もアンタのことが大切になっていたよ。アンタは凄くイイ奴だ。だから、二度と俺の前で死ぬんじゃねえぞ! 俺のこと、もっと知りたいんだろ?」

 セツの笑顔は、青峰を燦燦と降り注ぐ陽光のように眩しかった。

 煌めきと温かさがハクの中に差し込み、初めての感情でいっぱいになる。

 目の奥が熱い。胸が締めつけられて苦しいのに、切なさが込み上げてくる。この想いを何と言うのか――ハクは溢れる想いを表に出した。

「ハク……!?」

 ハクの変化にセツは驚き、フッと目を細めた。

「アンタ、笑うと色男だな」

 ハクの微笑みは、白雪を煌煌と照らす月光のように優艶だった。

 ――ハクが綺麗に笑うのは、セツが笑ってくれるから。

「セツ! そこの色気付いた男から離れろぉぉぉぉ!!」

「!? ぐぇっ!!」

 主の身を案じ、鬼の形相で駆けつけたカズキの叫びも虚しく、セツはハクに力強く抱き締められると、苦しさのあまり気を失いそうになっていた。
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