無色の男と、半端モノ

越子

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七、横笛と鉄輪

対峙(2)

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 一方、ハクは卯ノ国の退治屋の屋敷に侵入していた。

 セツが屋敷に到着した時を見計らい、屋敷内が騒がしくなってきた隙に、ハクは地下の研究室へ急いで向かった。

 ハクが辿り着いた研究室内は薄暗く、人の気配はない。だが、いつ誰が来てもおかしくない状況だ。彼は研究資料を手当たり次第に探しているが、どれも鬼の特異能力や特異性を活かした術式の研究資料ばかりで欲しい情報が見つからない。

(鉄輪に関する術の研究資料はどこだ? 術式以外の研究資料は彼が隠しているのか?)

 ハクはケントの机に視線を向けた。机の上には用紙が雑に積み上げられている。彼は机に向かい、積み上げられた用紙を崩しながら内容を確認していると途中で手が止まった。

(あった。この用紙だ)

 その用紙には鉄輪に関する術の発動条件が記されていた。

 ※術をかけた者が死んだ場合に発動
 ※鉄輪を破壊した場合に発動

 また、術の解除条件も記されていた。

 ※術をかけた者が鉄輪を外した場合に解除
 ※術をかけた者より先に死んだ場合に解除

「おや、ハクさんではありませんか。ヒヒっ。私の机に何か用でも?」

 ハクが振り返ると、ケントが眼鏡をクイッと上げて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「ヒヒっ。あの鬼に嵌めた鉄輪のことを調べていたのですか? 残念ながら解除する方法はありませんよ」

 勿論、私は鉄輪を外すつもりはありませんよ。と、ケントが付け加えて言った。

「そのようだな」

 そう言ってハクは刀で陣を描き出そうとすると、突然目の前にケントの手が伸びてきた。ハクは身を翻し、その手を避ける。

「そうやって人を殺してきたのか?」

 ハクの言葉にケントは耳を疑った。

(何故そのことを知っている!?)

 ハクとケントは無言で睨み合っていたが、ケントは何か閃いたかのように研究室にあるベルを鳴らした。すると、研究室の奥から一人の若い女性がおどおどしながら歩いて来た。その女性は長い黒髪を一つに結い上げており、琥珀色の瞳をしている。

 彼女はセツだった。首元には鉄輪が嵌められている。

「この鬼は先程、退治屋たちによって捕まったのですよ」

「た、助けてくれ……」

 セツは助けを求めたが、ハクは表情を変えずに彼女を見据えている。

「ヒヒっ。それではハクさん。私がこの手で彼女を殺すことが出来るか試してみますか?」

 ケントが怯えているセツに触れようとすると、突然ハクの顔色が変わった。

(ヒヒっ。早く助けに来なさい。その時が貴方の最期です!)

 ハクが瞬時に動いた瞬間、ケントの目が光る――が、ハクはその場から消えるように居なくなった。

 取り残された二人は呆然と立ち尽くす。

(どうして彼はこの鬼を残して姿を消したのだ?)

 ――思い通りにならない。

 徐々にケントは苛立ちを覚え、ギシッと歯を食いしばると、ハクが居た方向へ睨みつけた。


   ◇ ◇ ◇


 ハクの視界が薄暗い研究室から、屋敷の外に変わると一斉に沢山の矢が飛んできた。

「ハク!?」

 隣で驚いているセツをそのままに、ハクはそらを見据えて疾風の如く抜刀し、飛んでくる矢を薙ぎ払った。

 抜刀と同時にハクは足で陣を描いていた。それに気づいたセツは、器用な奴だと思いながら跪いて拳を撃ち出すと、二人を守るように炎の竜巻が空へと舞い上がる。

 次々に飛び交う沢山の矢は炎の竜巻に飲み込こまれ、焼き尽くされた。

「アンタ、どうしてここにいるんだ!?」

 セツは状況を理解できずにいたが、ハクは当然とでも言うようにセツの隣に立っている。

「師匠、私は此処にいます。なのでセツの横笛を返して下さい」

 ハクがレイに向かって言うと、セツは「何でそのことを知っている?」と驚愕し、レイは「ハク! あなたの方から会いに来てくれたのですね!」と驚喜した。
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