51 / 61
七、横笛と鉄輪
対峙(2)
しおりを挟む
一方、ハクは卯ノ国の退治屋の屋敷に侵入していた。
セツが屋敷に到着した時を見計らい、屋敷内が騒がしくなってきた隙に、ハクは地下の研究室へ急いで向かった。
ハクが辿り着いた研究室内は薄暗く、人の気配はない。だが、いつ誰が来てもおかしくない状況だ。彼は研究資料を手当たり次第に探しているが、どれも鬼の特異能力や特異性を活かした術式の研究資料ばかりで欲しい情報が見つからない。
(鉄輪に関する術の研究資料はどこだ? 術式以外の研究資料は彼が隠しているのか?)
ハクはケントの机に視線を向けた。机の上には用紙が雑に積み上げられている。彼は机に向かい、積み上げられた用紙を崩しながら内容を確認していると途中で手が止まった。
(あった。この用紙だ)
その用紙には鉄輪に関する術の発動条件が記されていた。
※術をかけた者が死んだ場合に発動
※鉄輪を破壊した場合に発動
また、術の解除条件も記されていた。
※術をかけた者が鉄輪を外した場合に解除
※術をかけた者より先に死んだ場合に解除
「おや、ハクさんではありませんか。ヒヒっ。私の机に何か用でも?」
ハクが振り返ると、ケントが眼鏡をクイッと上げて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ヒヒっ。あの鬼に嵌めた鉄輪のことを調べていたのですか? 残念ながら解除する方法はありませんよ」
勿論、私は鉄輪を外すつもりはありませんよ。と、ケントが付け加えて言った。
「そのようだな」
そう言ってハクは刀で陣を描き出そうとすると、突然目の前にケントの手が伸びてきた。ハクは身を翻し、その手を避ける。
「そうやって人を殺してきたのか?」
ハクの言葉にケントは耳を疑った。
(何故そのことを知っている!?)
ハクとケントは無言で睨み合っていたが、ケントは何か閃いたかのように研究室にあるベルを鳴らした。すると、研究室の奥から一人の若い女性がおどおどしながら歩いて来た。その女性は長い黒髪を一つに結い上げており、琥珀色の瞳をしている。
彼女はセツだった。首元には鉄輪が嵌められている。
「この鬼は先程、退治屋たちによって捕まったのですよ」
「た、助けてくれ……」
セツは助けを求めたが、ハクは表情を変えずに彼女を見据えている。
「ヒヒっ。それではハクさん。私がこの手で彼女を殺すことが出来るか試してみますか?」
ケントが怯えているセツに触れようとすると、突然ハクの顔色が変わった。
(ヒヒっ。早く助けに来なさい。その時が貴方の最期です!)
ハクが瞬時に動いた瞬間、ケントの目が光る――が、ハクはその場から消えるように居なくなった。
取り残された二人は呆然と立ち尽くす。
(どうして彼はこの鬼を残して姿を消したのだ?)
――思い通りにならない。
徐々にケントは苛立ちを覚え、ギシッと歯を食いしばると、ハクが居た方向へ睨みつけた。
◇ ◇ ◇
ハクの視界が薄暗い研究室から、屋敷の外に変わると一斉に沢山の矢が飛んできた。
「ハク!?」
隣で驚いているセツをそのままに、ハクは宙を見据えて疾風の如く抜刀し、飛んでくる矢を薙ぎ払った。
抜刀と同時にハクは足で陣を描いていた。それに気づいたセツは、器用な奴だと思いながら跪いて拳を撃ち出すと、二人を守るように炎の竜巻が空へと舞い上がる。
次々に飛び交う沢山の矢は炎の竜巻に飲み込こまれ、焼き尽くされた。
「アンタ、どうしてここにいるんだ!?」
セツは状況を理解できずにいたが、ハクは当然とでも言うようにセツの隣に立っている。
「師匠、私は此処にいます。なのでセツの横笛を返して下さい」
ハクがレイに向かって言うと、セツは「何でそのことを知っている?」と驚愕し、レイは「ハク! あなたの方から会いに来てくれたのですね!」と驚喜した。
セツが屋敷に到着した時を見計らい、屋敷内が騒がしくなってきた隙に、ハクは地下の研究室へ急いで向かった。
ハクが辿り着いた研究室内は薄暗く、人の気配はない。だが、いつ誰が来てもおかしくない状況だ。彼は研究資料を手当たり次第に探しているが、どれも鬼の特異能力や特異性を活かした術式の研究資料ばかりで欲しい情報が見つからない。
(鉄輪に関する術の研究資料はどこだ? 術式以外の研究資料は彼が隠しているのか?)
ハクはケントの机に視線を向けた。机の上には用紙が雑に積み上げられている。彼は机に向かい、積み上げられた用紙を崩しながら内容を確認していると途中で手が止まった。
(あった。この用紙だ)
その用紙には鉄輪に関する術の発動条件が記されていた。
※術をかけた者が死んだ場合に発動
※鉄輪を破壊した場合に発動
また、術の解除条件も記されていた。
※術をかけた者が鉄輪を外した場合に解除
※術をかけた者より先に死んだ場合に解除
「おや、ハクさんではありませんか。ヒヒっ。私の机に何か用でも?」
ハクが振り返ると、ケントが眼鏡をクイッと上げて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ヒヒっ。あの鬼に嵌めた鉄輪のことを調べていたのですか? 残念ながら解除する方法はありませんよ」
勿論、私は鉄輪を外すつもりはありませんよ。と、ケントが付け加えて言った。
「そのようだな」
そう言ってハクは刀で陣を描き出そうとすると、突然目の前にケントの手が伸びてきた。ハクは身を翻し、その手を避ける。
「そうやって人を殺してきたのか?」
ハクの言葉にケントは耳を疑った。
(何故そのことを知っている!?)
ハクとケントは無言で睨み合っていたが、ケントは何か閃いたかのように研究室にあるベルを鳴らした。すると、研究室の奥から一人の若い女性がおどおどしながら歩いて来た。その女性は長い黒髪を一つに結い上げており、琥珀色の瞳をしている。
彼女はセツだった。首元には鉄輪が嵌められている。
「この鬼は先程、退治屋たちによって捕まったのですよ」
「た、助けてくれ……」
セツは助けを求めたが、ハクは表情を変えずに彼女を見据えている。
「ヒヒっ。それではハクさん。私がこの手で彼女を殺すことが出来るか試してみますか?」
ケントが怯えているセツに触れようとすると、突然ハクの顔色が変わった。
(ヒヒっ。早く助けに来なさい。その時が貴方の最期です!)
ハクが瞬時に動いた瞬間、ケントの目が光る――が、ハクはその場から消えるように居なくなった。
取り残された二人は呆然と立ち尽くす。
(どうして彼はこの鬼を残して姿を消したのだ?)
――思い通りにならない。
徐々にケントは苛立ちを覚え、ギシッと歯を食いしばると、ハクが居た方向へ睨みつけた。
◇ ◇ ◇
ハクの視界が薄暗い研究室から、屋敷の外に変わると一斉に沢山の矢が飛んできた。
「ハク!?」
隣で驚いているセツをそのままに、ハクは宙を見据えて疾風の如く抜刀し、飛んでくる矢を薙ぎ払った。
抜刀と同時にハクは足で陣を描いていた。それに気づいたセツは、器用な奴だと思いながら跪いて拳を撃ち出すと、二人を守るように炎の竜巻が空へと舞い上がる。
次々に飛び交う沢山の矢は炎の竜巻に飲み込こまれ、焼き尽くされた。
「アンタ、どうしてここにいるんだ!?」
セツは状況を理解できずにいたが、ハクは当然とでも言うようにセツの隣に立っている。
「師匠、私は此処にいます。なのでセツの横笛を返して下さい」
ハクがレイに向かって言うと、セツは「何でそのことを知っている?」と驚愕し、レイは「ハク! あなたの方から会いに来てくれたのですね!」と驚喜した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
喫茶店オルクスには鬼が潜む
奏多
キャラ文芸
美月が通うようになった喫茶店は、本一冊読み切るまで長居しても怒られない場所。
そこに通うようになったのは、片思いの末にどうしても避けたい人がいるからで……。
そんな折、不可思議なことが起こり始めた美月は、店員の青年に助けられたことで、その秘密を知って行って……。
なろうでも連載、カクヨムでも先行連載。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
晴明さんちの不憫な大家
烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。
天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。
祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。
神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜
四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】
応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。
ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。
大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。
とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。
自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。
店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。
それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。
そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。
「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」
蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。
莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。
蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。
※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる