無色の男と、半端モノ

越子

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四、温と冷

蘇生術

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 セツたちは退治屋の屋敷から山に転移していた。そこは月夜に照らされた秋桜が咲き乱れている。

「ハク、ハク。おいっ! ハク!」

 ハクは応えない。セツはハクの青白い頬に手をあてた。

(冷たい……冷たいよ。この、バカ野郎が)

 もう、躊躇っている時間はない。

「カズキ、ごめん。後のことは頼む」

「お前、まさか……」

 セツは陣を描き、術を発動させるとハクの気道を確保し、口を開かせた。セツは彼の口元に自分の口を押し当てる。すると、セツの身体から発する琥珀色の光が、繋がっている口元を通してハクの身体に流れだした。

(母さん、あの絵、使うよ――)


   ◇ ◇ ◇


 ――ナツが陣を描きながら人の姿をした子供のセツに説明をしている。

「セツ、よく聞いてね。この絵を描くと、丹を使って自分の命を人に分け与える事ができるの」

「母さん、それ凄いね! 沢山の人を救えるよ」

「それは無理なの。自分の丹と生命力が尽きたら死んでしまうのよ。極限まで与えても成功するかはわからないわ」

 実際に丹と生命力が尽きて亡くなった人もいたみたい。と、ナツは真剣な表情で説明する。

「だからね、セツ。この先、母さんの身に何かあっても絶対にこの絵を使っちゃだめよ。大切な人のために使いなさい」

「何でなんだよ? 母さん以外に大切な人なんていないよ」

「バカね。あなたに万が一のことがあったら母さん生き返っても、ちっとも嬉しくない」

 納得がいかない、といったセツの膨らんだ頬をナツは両手で優しく挟み、微笑む。

「この先、あなたのことを受け入れてくれる人が絶対にいるわ。その人を大切にしなさい」

「こんな俺のことを受け入れるなんて、きっと変人だ」

「そうね。きっと母さんみたいに、変人ね」

 そう言って二人はクスクス笑った。


   ◇ ◇ ◇


 セツの術はまだ発動していた。暖かい琥珀色の光が二人を包みこんでいるが、ハクはまだ冷たいまま動かない。

(行くな! 行くな! 勝手に近付いてきたくせに、勝手に遠くへ逝くな!)

 ――俺はどうなってもいい。だから早く戻って来い!

 セツの想いも虚しく、徐々に琥珀色の光が弱くなり、若い女性から青年の鬼へと変化していく――。

 ……限界だ……。

 セツはハクと繋がっていた口元を離すと光が消えた。彼はそのまま意識を失い、ハクに覆い被る。

 セツが限界だと感じる前に、彼女の身体は既に限界だった――彼女の丹は尽き果てていた。
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