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四、温と冷
袂別
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――懐古も早々に。
「ハンッ! 主の命令ならば仕方がねえ! だが、こいつを助けるのは今回だけだからな! 俺を斬り殺そうとしたこと忘れてねえからな。クソがっ!」
そう言うと、カズキはハクに背中を預けて、向かってくる退治屋たちを次々と殺さずに無力化していく。
「カズキさん、感謝する」
「お前に俺の名前を呼ばれてたまるか!」
「おにいさん、感謝する」
「お義兄……!? はあぁぁ!? おまっ、お前……はあぁぁ!?」
カズキの動揺はそのままに、ハクは隙をついてレイを押し退け、セツの方へ真っ直ぐに駆け出した。セツの前には細身の眼鏡をかけた研究者が阻んでいた。
だが、ハクには関係なかった。
研究者の前まで来ると、ダンッ! とセツの方へ向かって空高く飛び上がり、身体を捻りながら抜刀した。着地と同時に鉄輪と繋がっていた鎖が、ガチンっと音をたてて絶ち切られる。
ハクとセツが顔を見合わせて口を開こうとした刹那、ハクの目は大きく見開いた。彼はセツの腕を思いっきり掴むと、勢いよく自分の背中に彼女を引き寄せて隠した。
『ハク!?』
セツとレイが同時に叫ぶ。
ハクの胸にはレイの刀が貫通していた。
セツは助けに動こうとしたが、ハクが手でそれを止める。
「ハク、あなた、何で――私はこの鬼を……」
ハクの胸から血が流れ、レイの持つ刀が震えている。
震える声でレイはハクに言った。
「私は、私の家族は、恋人は……鬼に殺され、喰われた」
「師匠……」
「私は、鬼を絶対に許さない。どんな鬼でもだ」
「はい……」
「ハク、あなたの両親も鬼に殺されたんだよ?」
「はい……」
「それでもあなたはその鬼を守るのか?」
「はい……」
「ハク……私のところに戻っておいで。お願いだ。私と共に全ての鬼を退治していこう……お願いだ」
「がはっ……」
ハクは吐血した。かろうじて立っているが、今にも倒れそうだ。
最後の力を振り絞り、ハクは自分の刀を振り上げると、銀白色の長い髪をバサッと切り落とし、自分の刀を手放した。
「ぐッ……ッ!」
痛みで気を失いそうになりながらも、ハクは胸を貫いているレイの刀を自ら引き抜くと、血しぶきの勢いに任せるかのように彼はセツの前へ倒れ込んだ。
「カズキ、来い!」
セツはハクを受け止めると、彼の刀で素早く陣を描き、拳を撃ち出した。すると、大きな光がセツたちを包み込む――彼らは退治屋の屋敷から姿を消した。
研究者はセツたちを見届けると、肩を上下に揺らして小刻みに震えていた。
レイは血溜まりに溺れ染まったハクの長い髪を強く握りしめると、崩れ落ちるように額を真っ赤な地面に押し付けて嘆いた――臙脂色の袴が真っ黒に染まる。
「何故だ!? 何故なんだ!? ハク……」
(これは、私があなたにずっと嘘を付いている報いなのか?)
レイは、まだ幼かったハクを見つけた日のことを思い出す――。
「ハンッ! 主の命令ならば仕方がねえ! だが、こいつを助けるのは今回だけだからな! 俺を斬り殺そうとしたこと忘れてねえからな。クソがっ!」
そう言うと、カズキはハクに背中を預けて、向かってくる退治屋たちを次々と殺さずに無力化していく。
「カズキさん、感謝する」
「お前に俺の名前を呼ばれてたまるか!」
「おにいさん、感謝する」
「お義兄……!? はあぁぁ!? おまっ、お前……はあぁぁ!?」
カズキの動揺はそのままに、ハクは隙をついてレイを押し退け、セツの方へ真っ直ぐに駆け出した。セツの前には細身の眼鏡をかけた研究者が阻んでいた。
だが、ハクには関係なかった。
研究者の前まで来ると、ダンッ! とセツの方へ向かって空高く飛び上がり、身体を捻りながら抜刀した。着地と同時に鉄輪と繋がっていた鎖が、ガチンっと音をたてて絶ち切られる。
ハクとセツが顔を見合わせて口を開こうとした刹那、ハクの目は大きく見開いた。彼はセツの腕を思いっきり掴むと、勢いよく自分の背中に彼女を引き寄せて隠した。
『ハク!?』
セツとレイが同時に叫ぶ。
ハクの胸にはレイの刀が貫通していた。
セツは助けに動こうとしたが、ハクが手でそれを止める。
「ハク、あなた、何で――私はこの鬼を……」
ハクの胸から血が流れ、レイの持つ刀が震えている。
震える声でレイはハクに言った。
「私は、私の家族は、恋人は……鬼に殺され、喰われた」
「師匠……」
「私は、鬼を絶対に許さない。どんな鬼でもだ」
「はい……」
「ハク、あなたの両親も鬼に殺されたんだよ?」
「はい……」
「それでもあなたはその鬼を守るのか?」
「はい……」
「ハク……私のところに戻っておいで。お願いだ。私と共に全ての鬼を退治していこう……お願いだ」
「がはっ……」
ハクは吐血した。かろうじて立っているが、今にも倒れそうだ。
最後の力を振り絞り、ハクは自分の刀を振り上げると、銀白色の長い髪をバサッと切り落とし、自分の刀を手放した。
「ぐッ……ッ!」
痛みで気を失いそうになりながらも、ハクは胸を貫いているレイの刀を自ら引き抜くと、血しぶきの勢いに任せるかのように彼はセツの前へ倒れ込んだ。
「カズキ、来い!」
セツはハクを受け止めると、彼の刀で素早く陣を描き、拳を撃ち出した。すると、大きな光がセツたちを包み込む――彼らは退治屋の屋敷から姿を消した。
研究者はセツたちを見届けると、肩を上下に揺らして小刻みに震えていた。
レイは血溜まりに溺れ染まったハクの長い髪を強く握りしめると、崩れ落ちるように額を真っ赤な地面に押し付けて嘆いた――臙脂色の袴が真っ黒に染まる。
「何故だ!? 何故なんだ!? ハク……」
(これは、私があなたにずっと嘘を付いている報いなのか?)
レイは、まだ幼かったハクを見つけた日のことを思い出す――。
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