無色の男と、半端モノ

越子

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四、温と冷

懐古(視点変更:カズキ視点)

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 セイさんと初めて出逢ったのは、もうどれくらい前のことだろう。

「――はあ、はあ、はあ……もういい加減にしてくれ!」

 俺は今、追って来る鬼たちから逃げている。

「カズキ、お願いだ。是非、俺の従者になってくれ!」

「いや、駄目だ。俺のところに来い!」

 もう、勘弁してくれよ。俺は誰の従者にもなるつもりはない。誰かの下僕なんてまっぴら御免だ。

 俺の特異性は、従者だ。主と契約し、従者になることで無限の力を発揮することができる。主にとっては命令次第で最高の用心棒になるってわけだ。だから、俺の特異性を知っている鬼はこのように俺を見つけるなり、しつこく誘ってくる。

 俺が逃げ回っていると、どこからか爽快な笛の音が聞こえてきた。

 俺の背後が静かになったので振り返って見ると、追って来ていたはずの鬼たちが居ない。

「お前、何で鬼たちから逃げ回っているんだ?」

 突然、俺の前に一匹の鬼が姿を現した。その鬼は、漆黒の短髪で青緑色の瞳に、凛々しい顔立ちの容貌をしていた。額には二本のツノが生えており、漆黒の横笛を腰に佩いている。

「これは、アンタの仕業か? 鬼たちが居なくなっている」

「ああ。そうだ。お前、困っているようだったから。俺が鬼どもを散らした」

 どういうことだ? こいつ、鬼を操るのか?

 とりあえず俺は彼にお礼を言い、事の経緯を説明した。

「なるほどな。お前、難儀な性質を持ったな。ま、それは俺も同じか」

「アンタは鬼を操れるのか? だとしたら凄いじゃねえか! 鬼を支配して思いのままじゃねえか!」

「ハハッ。みーんな、そんなことを言うよ。でもな、俺はこの能力をあまり好きではない」

「本気か? 鬼を支配出来るんだぞ!?」

 俺が理解できないでいると、彼はこう言った。

「一時的とはいえ、強制的に俺に従う鬼どものことを思うとな……使い方によっては俺のせいでその命が奪われてしまう。強力な力ほど使い方を間違えてはいけないんだ。俺にとっては自由のようで不自由な能力だよ」

「不自由な能力か……なんか、身に沁みるな」

 俺が自嘲すると、彼はハハッと笑った。

「俺は、鬼を支配したいんじゃない。命を奪いたいんじゃない」

 おれらが苦手な陽の光よりも眩しい彼の朗らかな笑顔を、俺は今も忘れられない。

「俺は、沢山のモノを救いたい。命を守りたいんだ」

 ――救いたい、そして守りたい――こいつ、何なんだ!? こんな奴は初めてだ!

 この瞬間、俺の中の何かが震えた。この方だ! 俺はこの方の従者になりたい!

 俺は彼の両肩をがっしりと掴んで即座に「主になってくれ!」と懇願したが、即座に「ハハッ。断る!」と言われて振られた。

  彼は太陽のような鬼だった。
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