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四、温と冷
温かい手
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「セツ。……セツ」
(……誰だ? 俺の名前を呼ぶのは)
朦朧としていた意識の中、セツは誰かの声に引っ張られるかのように目蓋がゆっくりと開く。青白い顔が視界に入り、彼の意識は徐々に戻ってくる。
「……ハクか?」
「ああ。私だ。私が居ない間に一体何をされた?」
鬼の姿になっているセツのツノが二本とも削り取られていることに気づき、ハクの顔色は悪くなる。セツは辺りをゆっくりと見回し、気味の悪い研究者が居ないことを確認していた。
「ハハッ。ちょっと血とツノを抜かれただけだよ。アンタの師匠さんには完敗だ」
弱々しく笑うセツが、痛々しい。ハクの表情が僅かに歪んだ。
「私のせいだ。甘かった。すまない……」
跪いて頭を垂れるハクに触れようとセツは手を伸ばしたが、顔を上げたハクと目が合うと、セツは慌ててその手を引っ込めて頬をぽりぽり掻いた。
「あー……っと、俺のことはいいさ。そんなことよりも子鬼はどうした? アンタ、捜しに行ったんだろ?」
「子鬼のことは心配しなくてもいい。退治も連れて帰りもしていない。母親と暮らしている」
ハクは事の経緯を簡単に話した。それを聞いたセツは安心した表情になる。
「そっか、良かった。本当に、良かった。ハク、ありがとう」
ハクは「礼は不要だ」と頭を振る。
「子鬼が君に会いたがっていた。今度、会いに行こう」
「……ハク、アンタ、少し変わったな」
セツが驚嘆していると、牢屋の鉄格子越しからハクの手が差し込んできた。その手はセツの頬に触れる。突然のことでセツはビクリと反応したが、その手を受け入れ、自分の手を彼の手に添えて軽く握った。
「温かいな」
「生きているからな……鬼も人も、生きている……」
ハクは続けて自分を責めるように話し出した。
「鬼も人と同じだった。子鬼の親子はとても温かかった。……今まで、鬼は全て悪だと……そして退治してきた。私はずっと間違えていた」
ハクの手を握るセツの手が強くなる。
「アンタは間違えてなんかいない。間違えていたとしても、アンタはイイ奴だ! 俺は嬉しかったんだ。アンタが鬼の俺を知りたいって言ってくれて、俺は嬉しかったんだ」
……変人だけどな。と付け加えてセツはニカッと笑って見せた。
ハクは無言で無表情のままだったが、セツは頬に触れる温かい手が熱くなるのを感じた。
◇ ◇ ◇
そろそろあの研究者が様子を見にこちらに来る頃だ――ハクは奥の気配を察する。
「これ以上、鬼の姿になる必要はない」
それを聞き、セツは頷いて人の姿に変化させた。
「やっとツノの痛みから解放されたぁ。あとはどうやってここから出られるかだな。俺の大事な横笛も取られたままだ」
よっぽど痛みと戦いながら気を張り詰めていたのだろう。気が緩んだセツは、くわぁーっと大きく欠伸をしてむにゃむにゃと眠そうにしている。
「セツ、少し休め。私はここに居るから」
セツはその言葉に安心したかのように深い眠りについた。ハクはその様子をずっと見守っていた。
あの研究者たちが来るまでは――。
(……誰だ? 俺の名前を呼ぶのは)
朦朧としていた意識の中、セツは誰かの声に引っ張られるかのように目蓋がゆっくりと開く。青白い顔が視界に入り、彼の意識は徐々に戻ってくる。
「……ハクか?」
「ああ。私だ。私が居ない間に一体何をされた?」
鬼の姿になっているセツのツノが二本とも削り取られていることに気づき、ハクの顔色は悪くなる。セツは辺りをゆっくりと見回し、気味の悪い研究者が居ないことを確認していた。
「ハハッ。ちょっと血とツノを抜かれただけだよ。アンタの師匠さんには完敗だ」
弱々しく笑うセツが、痛々しい。ハクの表情が僅かに歪んだ。
「私のせいだ。甘かった。すまない……」
跪いて頭を垂れるハクに触れようとセツは手を伸ばしたが、顔を上げたハクと目が合うと、セツは慌ててその手を引っ込めて頬をぽりぽり掻いた。
「あー……っと、俺のことはいいさ。そんなことよりも子鬼はどうした? アンタ、捜しに行ったんだろ?」
「子鬼のことは心配しなくてもいい。退治も連れて帰りもしていない。母親と暮らしている」
ハクは事の経緯を簡単に話した。それを聞いたセツは安心した表情になる。
「そっか、良かった。本当に、良かった。ハク、ありがとう」
ハクは「礼は不要だ」と頭を振る。
「子鬼が君に会いたがっていた。今度、会いに行こう」
「……ハク、アンタ、少し変わったな」
セツが驚嘆していると、牢屋の鉄格子越しからハクの手が差し込んできた。その手はセツの頬に触れる。突然のことでセツはビクリと反応したが、その手を受け入れ、自分の手を彼の手に添えて軽く握った。
「温かいな」
「生きているからな……鬼も人も、生きている……」
ハクは続けて自分を責めるように話し出した。
「鬼も人と同じだった。子鬼の親子はとても温かかった。……今まで、鬼は全て悪だと……そして退治してきた。私はずっと間違えていた」
ハクの手を握るセツの手が強くなる。
「アンタは間違えてなんかいない。間違えていたとしても、アンタはイイ奴だ! 俺は嬉しかったんだ。アンタが鬼の俺を知りたいって言ってくれて、俺は嬉しかったんだ」
……変人だけどな。と付け加えてセツはニカッと笑って見せた。
ハクは無言で無表情のままだったが、セツは頬に触れる温かい手が熱くなるのを感じた。
◇ ◇ ◇
そろそろあの研究者が様子を見にこちらに来る頃だ――ハクは奥の気配を察する。
「これ以上、鬼の姿になる必要はない」
それを聞き、セツは頷いて人の姿に変化させた。
「やっとツノの痛みから解放されたぁ。あとはどうやってここから出られるかだな。俺の大事な横笛も取られたままだ」
よっぽど痛みと戦いながら気を張り詰めていたのだろう。気が緩んだセツは、くわぁーっと大きく欠伸をしてむにゃむにゃと眠そうにしている。
「セツ、少し休め。私はここに居るから」
セツはその言葉に安心したかのように深い眠りについた。ハクはその様子をずっと見守っていた。
あの研究者たちが来るまでは――。
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