無色の男と、半端モノ

越子

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二、鬼と人

セツの従者

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 ハクとルリ姫が居なくなってしばらく経つと、セツは横笛を静かに吹き始めた。

 間もなくして一匹の鬼がセツの前に現れる。

「久しぶりだな。カズキ」

 その鬼は、先ほど退治屋の姿をした鬼を倒し、ハクに倒されそうになった赤髪の鬼だった。彼の額には一本のツノが生えている。

「おう。セツ、久しぶりだな。町の生活はどうだ? 俺が一緒に居なくて寂しかったんじゃねぇの?」

 渋く野性味を帯びた顔立ちのカズキがいたずらげに笑うと、渋さだけが無くなる。彼は〈従者〉という特異性を持っており、契約を結んだ主の命令は完遂する。今はセツの従者であるが、昔はセツの父親の従者であった。

「そういえば、お前の笛の音も久しぶりに聞いた。セイさんに似てきたな」

「そうか? 俺、口笛や指笛よりも、父さんのこの横笛が一番好きだから嬉しい!」

 カズキに褒められ、セツは素直に喜んだ。

「俺に気を遣わず、俺とずっと一緒に山で暮らしても良いんだぜ?」

「カズキ、ありがとう。でも俺、ほんの少しでもカズキを自由にしてあげたい」

 カズキは何か言いたそうだったが、セツの朗らかな笑顔を見ると何も言えなくなった。

「はぁ。お前ってやつは……。俺はずっとお前のそばに付いていたいんだが……さすがに俺は人にはなれねえからな。使えない従者でスマンな。」

 カズキはセツの従者であると同時に、セツとずっと一緒に過ごしてきた家族のような存在だった。

 とある事情で一部の鬼に命を狙われているセツは、鬼から四六時中セツを守り続けるカズキの身を案じて、人の姿で人社会に溶け込もうとしていた。カズキは、独り町で過ごすセツが心配で仕方がなかったようだ。

「ハハッ。本気で言っているのか? どんな所でも呼んだらカズキが必ず助けに来てくれるだけで、俺は凄く嬉しいし、心強いんだ。カズキは俺の、最高で最強な鬼だ!」

 またしても朗らかに笑うセツを見て、頬を少し染めたカズキは目を細め、「コイツめ、言ってくれる」と、セツの頭をクシャクシャにさせながらセツの両親を想う。
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