無色の男と、半端モノ

越子

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二、鬼と人

共闘(1)

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「鬼の匂いが近い」

 走りながらハクが言うと「鬼の匂い?」と、背後からセツが聞き返す。

「鬼には匂いがある」

 そう答えるとセツは黙ってしまった。ハクが背後を振り返ろうとしたその時、

「……だから、俺に近付いたのか?」

 今度はハクが黙り、何も答えなかった。

 二人が辿り着いたときにはもう遅かった。

 二級の退治屋が倒れている。だが、かろうじて息はまだあるようだ。ハクがその者を抱き寄せると、「鬼が……賊に化けて……」そう告げた彼はそのまま意識を失った。

「おい、この先に鬼の匂いとやらは感じるか?」

 セツの視線の先には洞窟があった。

「……感じる」

「鬼の数もわかるのか?」

「わかる。五匹だ」

「んじゃ、アンタは鬼退治だな! 俺はこの人を助ける」

 ハクが一瞬躊躇い、口を開こうとしたが「まだ中に人がいるかもしれない。早く!」と、先にセツが口を出した。

「後から俺も行くから!」

 セツに背中を押され、ハクは一人駆け出した。彼の背後では温かい光を感じる。どうやら本当に彼女は術式で人を助けているようだ。

 ハクが洞窟の中に入ると争っている音が聞こえた。

「ハクさん! この中におそらく特異能力を持つ鬼がいます!」

 五匹の鬼たちを相手に、術式でなんとか持ち堪えていた退治屋がハクに向かって伝えた。鬼には生まれながらにして異質な力を持つ鬼がいる。そんな力を人や鬼は〈特異能力〉や〈特異性〉と呼んでいる。〈特異能力〉や〈特異性〉は鬼によって様々である。

「外に負傷した者がいる。その者を連れて撤退しろ」

 ハクはそう言いながら、腰に佩いていた刀で陣を描き出した。

「でも、ハクさん一人でこの鬼たちを……」

「一人ではない。行け!」

 そう言い放つと同時に跪き、ハクは陣に拳を撃ち出した――眩い光に包まれ、鬼たちの動きが止まった。


   ◇ ◇ ◇


「ある程度は傷を塞いだ。もう大丈夫そうだな」

 セツが安心していると、洞窟の中から一人の退治屋が駆け寄ってきた。

「貴方は……町でハクさんと居た方ですね! 彼を助けていただき、感謝します!」

 私たちはハクさんの指示で撤退します。と言い、退治屋二人はこの場から離れた。

「……さて、と」

 セツは腰に佩いている漆黒の横笛を手に取った。


   ◇ ◇ ◇

 
 ハクは五匹の鬼たちを相手にしながら、この状況は不利だと考えていた。

(どうにかしてこの鬼どもを洞窟の外に出せれば……洞窟ごと破壊するか)

 ハクが洞窟を破壊しようと決めた時、洞窟の外から軽快な笛の音が聞こえた。

(この笛の音は……あの時と同じだ!)

 思わずハクの動きが一時止まった。ハクだけではない。鬼たちの動きも止まっていた。だが、止まっていたのも束の間、数匹の鬼たちが外に向かって歩いて行くではないか。

「どういうことだ?」

 一匹の鬼が困惑しながら数匹の鬼たちの後を追う。

「おい?! 待てよ!」

 もう一匹の鬼もわけがわからず後を追う。

 ハクも洞窟の中にいる理由がなくなったので鬼たちの後を追い、洞窟の外に出ると、五匹いた鬼は二匹しかいなくなっていた。

 笛の音が止む。

「お前ら、人を喰ったな!」

 どこからか男の人の声が聞こえた ――いや、人ではない。この匂い、鬼だ。

 二匹の鬼は辺りを警戒する。

 ――その場にハクの姿はなかった。
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