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二章(前編)
第十五話「オルクス」
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木製の真っ黒な扉。
両開きのそれは、身長の三倍はありそうな大きさだった。
硬い木材なのだろうか。
扉を動かすと密度が詰まった重い手応えを感じる。
おそらく常人ならば、一人で開けることが不可能なほどの重さだろう。
だが今は全身タイツの力がそれを可能にしていた。
「この階層の主は、オークキングです。
下階層へ続く王の間を守っていると聞きますが……」
おそらく、この部屋が王の間だろう。
金髪ローブくんからの説明を聞き、それが頭に浮かんだ。
室内の光景を見た誰もがそう感じていたと思う。
――王の間。
名が示すように玉座が奥にあり、そこに座っている人影が見えた。
部屋の中は今まで見てきたどの部屋よりも広く、どの部屋よりも装飾された柱が立ち並んでいる。
玉座へと続く、赤い絨毯の両脇にはオーク用らしき甲冑たちが。
そしてその甲冑たちは、手に持った槍斧の切っ先を、通る者へと向け並立っていた。
槍斧の鋭利な切っ先は、生き物の根底にある痛み、恐怖を呼び起こさせ、俺たちを威圧する。
俺はゴクリとツバを飲み込み、皆の顔を確認した。
そして、覚悟を決め、部屋に一歩踏み込む。
以前の俺だったら、ここで怖じ気づき、入るのを躊躇っていたかもしれない。
しかし、戦闘術をインストールしてもらってからなのだが、俺は、戦闘前にこの覚悟を決めることが格段に早くなっていた。
怖いものは怖いし、元の世界の常識を残す俺からすれば、許容し難いことなどいくつもある。
だが、これから戦わなければならないという時には、それらの感情から切り離され、スイッチが切り替わるように今しなければならないことに目が向いた。
不満はあるが、ともかく目の前の問題に対処しなければ何も進まない。といった具合に割り切ってしまえるのだ。
口では嫌々言っているけど心ではそれほどでもなかったりする。
――ボオォッ
全員が部屋に入ると、たいまつの灯る音が聞こえた。
扉が……今度は重さも感じさせない音で自動的にしまる。
多分、以前の俺だったらこれでパニクってしまうが、頭の中は十二分に冷えていた。まったく戦闘術様々である。
そして、その頭の中とは裏腹に――
――ッボ、ッボボ ボボボ ボォッ
奥へ向け、次々と松明が燃え上がる。
揺らめく炎が不気味に影を揺らし、頭の中とは反対に、熱がこもった光で部屋を橙黄色に染めあげた。
玉座に座る影の正体の姿が露になる。
豪華な肘掛けに肘を付き、豪然と座っている姿に、王の風格を感じた。
その体躯は、これまで見てきたどのオークよりも大きく、巨人の様。
相撲取りのように、パンパンに張った身体。
身体に纏う筋肉が、歪なバランスで隆起しているのが見て取れる。
申し訳程度に覆う鎧は、その筋肉を遮らないようにするために軽装なのか。
俺の観察が終わる前に、巨人がのそりと動き始めた。
その姿は、大型類人猿のように、足よりも長い腕を伸ばし拳を地面につけている。
――暗黒に包まれし深淵。
――闇を焦がす燎火に染められた世界は、堕落せし罪人の住まう地。
巨人は地面につけていた拳を、腰の位置で握りしめる。
ただでさえ隆起していた筋肉が更に隆起し、弾き飛ばしそうな勢いで鎧を軋ませる。
――この先へ、立ち入る愚か者。
ぽっかりとあいた穴――
口を大きく開けている。
その穴は、豪と音を鳴らし大量の空気を吸い込み始めた。
――貴様らは罪人か。
巨人は天井を持ち上げるかのように、拳を空へ向け――
重量挙げのようにゆっくりと、ゆっくりと力を込めて持ち上げる。
周囲の空気が動き、まとわりつく風が、巨人の口めがけて呑み込まれ、ねっとりと周囲の空気が流れるのを感じた。
集まる風が、つむじを描き巨人を包む。
その粘質感のせいで、透明なはずなのに風の流れが見えそうな気がするほど、周囲が揺らめいていた。
高くそびえ立つ、振り上げた拳。
王座から離れている部屋の入口だというのに、その影が俺たちにまで伸びて届く。
――愚か者よ、この先は地獄。
――そして戻るも地獄。
ビリビリと震える空気。
脈動を感じさせる、赤い光が両目に灯る。
――貴様たちの歩む道は、全て地獄なり。
大量の空気を吸い込む穴。
その中に見える光の固まりが、吸引された大気に比例し、大きく膨らんでいるのがわかった。
集積され、圧縮された空気が熱を帯びて陽炎を見せる。
いつ張り裂けてもおかしくないほどの緊張を含んだそれは、閉じられた口によって――
終わりを迎えた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!!」
内包したエネルギーを全て、身体の中で解き放った巨人は、大気、震えるうなり声を放出する。
その雄叫びは、俺たちの身体を圧迫した。
ここにいる俺以外の全員が悲鳴をあげるが、それすらも掻き消す雄叫び。
その圧力は、莉奈さんたちの戦意をへし折るには十分過ぎるほどだった。
雄叫びとともに、巨人の目、鼻、口、筋肉の継ぎ目、鎧の間から閃光が筋をつくり漏れ出す。
――死ね!
――貴様たちにそれ以外の道はなし!!
――この地獄にて、世界の終わりまで悔い続けよッ!!
――貴様たちが許されることはないッ!
振り上げられていた拳。
それは倒壊する塔のごとく、重力にまかせて落下し地面に叩き付けられた。
地面が歪む。
凄まじい勢いで、地面が波打った。
俺たちは、それの産んだ振動により、身長よりも高く跳ね上げられ、落下し、地面に叩き付けられた。
全身タイツの機能。
インストールされた戦闘術。
それらを目一杯に使い、受け身をとる。
やばいっ――
俺は周囲を、皆の様子を確認した。
莉奈さんは――
大丈夫。
金髪ローブくんは――
震え、うつぶせのままブツブツ言ってる。
動けなさそうだ。
じじいは――
ダメージのせいか意識を失っているように見える。
こちらも無理だろう。
元カノ似は――
足をくじいているようだ。
まだ動けそうだが……
だめだ、心が折れているようにも見える。
マッチョさんは――
辛うじて動けそうか。
雌オーク――
意外だが、大丈夫そうだ、でもビビってるのはわかる。
俺たちが体勢を整えるのを、巨人が待つはずもない。
その巨体を揺らし、一歩一歩、振動を感じさせる歩みで距離をつめてきた。
迷惑なことに、一歩、一歩が、吐き気をもよおすほどのプレッシャーを吐き出している。
――我が名はオルクス。
――オーク=ナスを統べるもの。
さっきから、部屋中に響いてくるこれは――
ヤツの言葉なのか?
口は動いてないようだが、他の皆にも聞こえているのだろうか。
オーク語で聞こえてくるので、雌オーク以外は聞こえていても理解できないかもしれない。
「いやっ――
なんか、お経みたいなのがブツブツ聞こえるッ!」
やっぱり莉奈さんは、響く言葉が理解できてないようだ。
若干パニクっている。
こんな時は、やることを与えて集中させるしかない。
「莉奈さんッ!! しっかりッ!
ダーナさんとユアンくんを壁際に避難させて!」
莉奈さんに、元カノ似と金髪ローブくんを任せる。
他の連中にも続けて指示をする。
「ドミニクさん、動けますか!
モーリッツ教授を避難させてください!!」
マッチョさんにじじいを任せる。
「栗田さん!
動けるよね、逃げてッ!」
雌オークには自分で逃げてもらおう。
そこまで指示を出すが、それが終わる頃にはすでに、巨人は目の前まできていた。
「イノリさん、ヤツのステータスわかる?」
その言葉が終わるのも待たずに、ウインドウが開いた。
―――――――――――――――――――――――――――
オルクス
種族:オーク希少種
サイズ:45
筋力:189
耐久:93
知覚:8
魔力:650
機動:15
教育:2
攻撃力(名称:貫通力:ダメージ:動作)
・拳:0(10):189(239):3
防護値(名称:装甲値:緩衝値)
・体毛:7:20
・ブリガンダイン+2:6:2
バフ:貫通力+10 ダメージ+50
―――――――――――――――――――――――――――
やつの筋力を、一角熊と比較する。
たぶん倍近く高い。
やつの動きは緩慢だ。
だが、その一挙手一投足には力が満ち溢れている。
その様は、動きひとつひとつがプレッシャーを帯ていて、掠めるだけでもダメージを受けそうな勢いだった。
――この地は罪を沈める沼なり。
――泥の中でもがく豚は、傲慢に満ちた貴様ら。
巨人は目の前で、大弓を引き絞るように、岩のような肘と拳を引く。
拳は僅かに発光し、破壊の力が集中するのを視覚で感じた。
俺は咄嗟に横に跳ねる。
咄嗟のことなので力加減は考えてない。
着地のことも考えてないので、姿勢を崩し身体を床に勢い良く転がしていた。
俺は柱を蹴り、転がる身体を止める。そしてすぐに立ち上がった。
――ガッ ウンッ
――ビシッイイイッッッッ
床に拳が接触した瞬間、インパクトは激しく破裂する。
さっきまで居た場所に、巨人の握りしめた拳が落ち、火薬のような爆発を巻き起こし、石の床を削り取っていたのだ。
『単純な拳での打撃ではありません。
インパクトの瞬間に体内で練り上げた魔力を放出しているようです』
イノリさんが攻撃を分析する。
『今の一撃を食らっても、それで即死することはないかもしれませんが……確実に負傷します。
絶対に避けてください』
まったく……いつもの調子で脅してくれるイノリさん。
攻撃を受けた時のことを想像してしまい、下半身の力が抜けそうになるが、必死に頭からそのことを追い出す。
俺は次の動作に備えるため、しっかりと両足に力を込めた。
――その魂よ呪われろ!
――罪の重さで沼へと沈め。
巨人は両腕の拳と拳を打ち合わせ、こちらへ向き体勢を整える。
――魔力装填数 5/6
俺はプロテクションを張った。
魔力の光が身体を包む。
『コウゾウ――
妖魔は先ほどの動作で、体内の魔力を膨張させました。
――来ます』
信号で立っていたら、すぐ側、目の前を大型のトラックが走り抜けたようなプレッシャーが迫る。
再度、横に飛ぶ。
先ほどと同じように床を転がる。
だが今度はキレイに転がることで、次の行動に容易に移れる姿勢を維持することができた。
巨人の拳は、俺の元居た位置にあった両手でも余るほどの石の柱をへし折り破壊する。
……ヤツの拳の範囲内は危険だ。
俺はすかさず、オリハルコンワイヤーを天井に伸ばし、その場から跳ねる。
その間に巨人はまた両腕の拳と拳を打ち合わせていた。
また魔力を練っているのだろう。
今の俺は、ヤツの拳の範囲外へ出ている。
やつが近づいてくるまで余裕があるはずだった。
『コウゾウ。
今度はエネルギーを投擲するようです。
避けてくださいっ――』
手のひらに魔力の塊である光弾を握りしめ、キャッチボールでもするように巨人は腕を振る。
――ゴオオオォォッ
光弾は周囲の空気を巻き込み、派手な音をたてて、コチラへ飛んできた。
――速いっ!
戦闘術をインストールすることで使えるようになったゾーンで巨人の光弾を見極める。
集中している脳は、光弾の軌跡をハッキリとゆっくりと捕らえていた。
俺は遅延する時の中、必死に身体を捻りワイヤーで振り子のように勢いをつけ、巨人の背面に位置する壁へ跳んだ。
「飛び道具まで使うって――
格ゲーかよ……」
その勢いを使って重力を無視し、壁面へと着地する。
逃げてばかりでは、状況はジリ貧。
俺の身体を重力が捕らえるまでの時間、思考は脳を駆け巡り、着地した壁面をすぐさま地面のように蹴り上げ天井へ向けて跳ねた。
今度は天井を蹴り、三角飛びの要領で、巨人の背面頭上から首筋へと飛び込む。
高周波振動ダガーを両手で持つ。
片方の手で柄の尻を押さえ固定し、もう片方でしっかりと握りしめる。
勢いもそのままに、首筋目がけて突進し――
ダガーは何の抵抗も無く、巨人の首筋に沈んだ。
「ガアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
大気を振るわす、巨人の絶叫が響く。
ウインドウを覗きヤツの状況を確認した。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98(出血1)
―――――――――――――――――――――――――――
ダメージは通っている。
だが、ヤツはその様子を微塵も感じさせない。
俺は、ヤツの側にある柱へ向け跳躍。
オリハルコンワイヤーを柱に打ち付け、そこへ張り付いた。
丁度そこは、巨人の視界の端、その辺りのハズだ。
――貴様らは矮小なる者。
――我が鉄槌より逃げ回る、往生際の悪い羽虫ッ!
巨人は身体をコチラへ向け、憎しみを込めた目で睨んでくる。
よく見ろ、俺。
ヤツの攻撃は強力だが動きは単純だ。
繰り出されるタイミングは容易に察知でき、その軌道も簡単に予測できた。
いくら威力があろうと、当たらなければどうってことはない。
――ハズ。
俺を視界正面に捕らえたヤツは、己の拳の届く範囲に獲物が居ることを確認し、暴力的な笑みを浮かべている。
調子に乗りやがって――
終始、高圧的な物言い。
すぐにその豚鼻を明かしてやんよっ!
巨人は、再び拳を打ち合わせた――
今だ!!
俺は巨人の握りしめた拳が発射されるタイミングを察知し、柱を蹴った。
ヤツの拳の軌道を読み、ギリギリの範囲内で避ける。
俺の跳躍は拳と交差し、巨人の懐へと距離を詰めた。
俺はその勢いを利用し、ナイフを胸に沈め――
巨人の胸を十字に切り裂いた。
ヤツは俺を振り払おうと、手のひらで胸を払う。
重力による、落ちる力を利用し、手のひらを躱すと巨人の足元に着地。
さらその足を十字に切り裂いた。
全身タイツの白兵戦によるサポートと、ダガーによる技術で、ヤツの一回の動作中に二回の攻撃を繰りだす。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98
【胸 部】負傷:104(筋肉挫創 胸部筋力低下)
(出血3)
【右脚部】負傷:180(筋肉完全断裂)(出血5)
―――――――――――――――――――――――――――
巨人が、山のような身体を折り、膝をつく。
――貴様らの魂は泥を貪り食ふ豚。
――どう猛なる民は、貴様らを結して許しはせず!
――我らの怒りは煉獄の炎なり!
「オ゛オオオオオオオオオオオォォォォォォォォッォオッォォオッォォォォォオォォォォォォォオォォォォォォォォッォォォォォッッッ!!!!!!!!」
巨人はビリビリと大気が震えるほど雄叫びをあげる。
それに呼応するように……
立ち並んでいた空洞の甲冑たちが、何も入っていないハズの兜に炎を灯して動き始めた。
甲冑が擦れ、ぶつかる金属音。
それらが幾重にも重なり、巨人の雄叫びと一体化する。
魂を宿した甲冑の目は、莉奈さんや冒険者たちの方を一斉に見た。
そして手に持ったハルバードを構え走り始める。
オーク甲冑が群れをなして、避難している莉奈さんや金髪ローブくんたちへと殺到するのだった。
「ち、ちょっと、多すぎ――」
莉奈さんが全身タイツパワーで、甲冑たちを破壊するが追いつかない。
マッチョさんも、漏れた敵を、必死に大盾で抑えようとするがそれでも足りず苦戦していた。
慌てる金髪ローブくんや元カノ似は、相変わらずも役に立ってないようだった。
「――くそっ!!」
俺は咄嗟に、加勢しようと駆け出す。
――ぐいっ
巨人に足を掴まれた。
一瞬の浮遊感。
理解する間もなく、世界は反転し――
衝撃が全身を襲う。
「ぐはっ!!!」
衝撃によって、肺から空気が強制的に吐き出され、意識が飛びそうになる。
続いて二回目、三回目と繰り返し、地面や柱、壁に叩き付けられる。
辛うじて受け身を取るが、左腕と右足にダメージが集中してしまう。
逃れようともがくが、巨人のパワーは、俺をがっちり掴んで離さない。
ダガーで掴んでいる手を斬りつけようにも、あまりの勢いに、バンザイしている状態となり、身体を足元までかがめることができなかった。
俺は、必死に掴まれていない足で、巨人の手を蹴る。
しかし、そんな攻撃で巨人はその手を離すはずもなく……
―――――――――――――――――――――――――――
【左 腕】負傷:6
【胸 部】負傷:3
【腹 部】負傷:3
【右脚部】負傷:9(筋肉挫傷 右脚部筋力低下)
―――――――――――――――――――――――――――
や、ヤバい。
死んでしまうかもしれない……
俺の頭の中に、死という文字が浮かび始めそうだった。
考えろ。
考えろ。
俺は、死の文字を掻き消すように、必死になって生き残るための思考を巡らせる。
「ブモオオオオォォォォォォォォッォオッォォォォォォォッォォォォォッッッ!!!!!!!!」
その時だった。
雄叫びとともに爆発するような魔力の奔流が、莉奈さんたちの方から発せられる。
「ブモーッ!!
いいかげんにシテよっッッッ!!!
――ふざけんなぁッ!!!」
次々と、甲冑たちが吹き飛ばされていく。
雌オークが雄叫びをあげながら、甲冑たちを殴り飛ばしているのだった。
そして、引っ掴んだ甲冑を、ドッジボールの要領で、巨人目がけて投げつける。
「私は、普通の恋愛がしたかったんだつーのッ!
こんなの全然違うっつーのッ!!」
元の世界で見た、どんな野球投手よりも速いスピード。
魔力を帯、仄かに光った大きな甲冑がコチラ目がけて飛んでくる。
巨人も、それをそのまま受けるわけにもいけなかったのか俺を握る反対側の手で、それをガードした。
よっし――
動きが止まったっ!
俺は上体を起こし、足を拘束している指を十字に叩き斬った。
「ガアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
俺はオリハルコンワイヤーを天井に放ち脱出する。
『体内の魔力を力に変えていますね。
オルクスの攻撃と同じ要領です』
イノリさんが雌オークのステータスを表示する。
―――――――――――――――――――――――――――
名前:栗田彩子(処女)
種族:オーク希少亜種(3)
容姿:3 (オークにのみ:10)
言語:オーク語・日本語
サイズ:7 149cm
筋力:25
耐久:30
知覚:8
魔力:55
機動:7
教育:7
亜種特性
[多産]
[性豪]
攻撃力(名称:貫通力:ダメージ:動作)
・素手:0(10):25(55):1
防護値(名称:装甲値:緩衝値)
・布の衣服のみ(体毛):4:3
バフ:貫通力+10 ダメージ+30
―――――――――――――――――――――――――――
『アチラは、彼女たちにまかせましょう。
オルクスが沈黙すれば、魔力のリンクも切れ、甲冑たちも動きを止めるはずです』
イノリさんの言う通り、早くコイツの息の根を止めよう。
俺は痛む右足を我慢し、壁面を蹴り、巨人の死角にある柱までジャンプする。
そしてその柱に到達すると、今度は柱を蹴ってヤツの背面へとジャンプした。
人間ピンボールと化した俺は、死角から巨人の背中にダガーを突き立てる。
全体重と全身タイツのパワーを使い、突き刺さったダガーもそのままに落下し、巨人の尻まで引き裂く。
「ガアアアアアアアァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」
何度目になるのか、しかし、戦闘が始まってから一番大きな悲鳴。
巨人の声が、部屋を揺らす。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98
【胸 部】負傷:104(筋肉挫創 胸部筋力低下)
【右脚部】負傷:180(筋肉完全断裂)(出血1)
【背 中】負傷:102(出血5)
―――――――――――――――――――――――――――
「うらぁぁぁぁぁぁァァァァァァッッッッッ!!!!」
俺は地面に着地し、左足を十字に叩ききった。
粘度の高い青い液体も、その傷口の深さと巨体のもつ血圧で、噴水のように吹き出している。
当然、俺も全身に浴びるが、そんなのにかまっている暇はなかった。
俺は、だめ押しとばかりに、更にダガーを叩き込む――
―――――――――――――――――――――――――――
【左脚部】負傷:193(破壊 筋肉完全断裂)
(出血10)
―――――――――――――――――――――――――――
完全に巨人の左足を破壊。
ヤツは崩れ落ち、低なった頭――
そこへ目がけジャンプし、さっきまでダメージを与えていた首元へとさらにダガーを叩き込む。
巨人の振り回す腕は、すでに魔力を纏っておらず、最初ほどまでの威力、スピードはない。
その攻撃を難なく躱し、さらに首筋にダガーを突き立て走らせる。
断末魔の叫びが、広間中に響き渡った。
同時に、甲冑たちの瞳の炎は消え沈黙する。
金属が石床にぶつかる音、それが至る所で響く。
そして最後に重さに耐えきれなくなった巨人頭が――
首で分断され地面に鈍くをたてて落ちた。
訪れる静寂。
広間は、仲間たちの肩で息する呼吸音が聞こえるほど静かになっていた。
それが聞こえるのは、彼等が生きているのだという証。
どうやら無事、俺たちはこの階層の主を倒すことができたようだ。
両開きのそれは、身長の三倍はありそうな大きさだった。
硬い木材なのだろうか。
扉を動かすと密度が詰まった重い手応えを感じる。
おそらく常人ならば、一人で開けることが不可能なほどの重さだろう。
だが今は全身タイツの力がそれを可能にしていた。
「この階層の主は、オークキングです。
下階層へ続く王の間を守っていると聞きますが……」
おそらく、この部屋が王の間だろう。
金髪ローブくんからの説明を聞き、それが頭に浮かんだ。
室内の光景を見た誰もがそう感じていたと思う。
――王の間。
名が示すように玉座が奥にあり、そこに座っている人影が見えた。
部屋の中は今まで見てきたどの部屋よりも広く、どの部屋よりも装飾された柱が立ち並んでいる。
玉座へと続く、赤い絨毯の両脇にはオーク用らしき甲冑たちが。
そしてその甲冑たちは、手に持った槍斧の切っ先を、通る者へと向け並立っていた。
槍斧の鋭利な切っ先は、生き物の根底にある痛み、恐怖を呼び起こさせ、俺たちを威圧する。
俺はゴクリとツバを飲み込み、皆の顔を確認した。
そして、覚悟を決め、部屋に一歩踏み込む。
以前の俺だったら、ここで怖じ気づき、入るのを躊躇っていたかもしれない。
しかし、戦闘術をインストールしてもらってからなのだが、俺は、戦闘前にこの覚悟を決めることが格段に早くなっていた。
怖いものは怖いし、元の世界の常識を残す俺からすれば、許容し難いことなどいくつもある。
だが、これから戦わなければならないという時には、それらの感情から切り離され、スイッチが切り替わるように今しなければならないことに目が向いた。
不満はあるが、ともかく目の前の問題に対処しなければ何も進まない。といった具合に割り切ってしまえるのだ。
口では嫌々言っているけど心ではそれほどでもなかったりする。
――ボオォッ
全員が部屋に入ると、たいまつの灯る音が聞こえた。
扉が……今度は重さも感じさせない音で自動的にしまる。
多分、以前の俺だったらこれでパニクってしまうが、頭の中は十二分に冷えていた。まったく戦闘術様々である。
そして、その頭の中とは裏腹に――
――ッボ、ッボボ ボボボ ボォッ
奥へ向け、次々と松明が燃え上がる。
揺らめく炎が不気味に影を揺らし、頭の中とは反対に、熱がこもった光で部屋を橙黄色に染めあげた。
玉座に座る影の正体の姿が露になる。
豪華な肘掛けに肘を付き、豪然と座っている姿に、王の風格を感じた。
その体躯は、これまで見てきたどのオークよりも大きく、巨人の様。
相撲取りのように、パンパンに張った身体。
身体に纏う筋肉が、歪なバランスで隆起しているのが見て取れる。
申し訳程度に覆う鎧は、その筋肉を遮らないようにするために軽装なのか。
俺の観察が終わる前に、巨人がのそりと動き始めた。
その姿は、大型類人猿のように、足よりも長い腕を伸ばし拳を地面につけている。
――暗黒に包まれし深淵。
――闇を焦がす燎火に染められた世界は、堕落せし罪人の住まう地。
巨人は地面につけていた拳を、腰の位置で握りしめる。
ただでさえ隆起していた筋肉が更に隆起し、弾き飛ばしそうな勢いで鎧を軋ませる。
――この先へ、立ち入る愚か者。
ぽっかりとあいた穴――
口を大きく開けている。
その穴は、豪と音を鳴らし大量の空気を吸い込み始めた。
――貴様らは罪人か。
巨人は天井を持ち上げるかのように、拳を空へ向け――
重量挙げのようにゆっくりと、ゆっくりと力を込めて持ち上げる。
周囲の空気が動き、まとわりつく風が、巨人の口めがけて呑み込まれ、ねっとりと周囲の空気が流れるのを感じた。
集まる風が、つむじを描き巨人を包む。
その粘質感のせいで、透明なはずなのに風の流れが見えそうな気がするほど、周囲が揺らめいていた。
高くそびえ立つ、振り上げた拳。
王座から離れている部屋の入口だというのに、その影が俺たちにまで伸びて届く。
――愚か者よ、この先は地獄。
――そして戻るも地獄。
ビリビリと震える空気。
脈動を感じさせる、赤い光が両目に灯る。
――貴様たちの歩む道は、全て地獄なり。
大量の空気を吸い込む穴。
その中に見える光の固まりが、吸引された大気に比例し、大きく膨らんでいるのがわかった。
集積され、圧縮された空気が熱を帯びて陽炎を見せる。
いつ張り裂けてもおかしくないほどの緊張を含んだそれは、閉じられた口によって――
終わりを迎えた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!!」
内包したエネルギーを全て、身体の中で解き放った巨人は、大気、震えるうなり声を放出する。
その雄叫びは、俺たちの身体を圧迫した。
ここにいる俺以外の全員が悲鳴をあげるが、それすらも掻き消す雄叫び。
その圧力は、莉奈さんたちの戦意をへし折るには十分過ぎるほどだった。
雄叫びとともに、巨人の目、鼻、口、筋肉の継ぎ目、鎧の間から閃光が筋をつくり漏れ出す。
――死ね!
――貴様たちにそれ以外の道はなし!!
――この地獄にて、世界の終わりまで悔い続けよッ!!
――貴様たちが許されることはないッ!
振り上げられていた拳。
それは倒壊する塔のごとく、重力にまかせて落下し地面に叩き付けられた。
地面が歪む。
凄まじい勢いで、地面が波打った。
俺たちは、それの産んだ振動により、身長よりも高く跳ね上げられ、落下し、地面に叩き付けられた。
全身タイツの機能。
インストールされた戦闘術。
それらを目一杯に使い、受け身をとる。
やばいっ――
俺は周囲を、皆の様子を確認した。
莉奈さんは――
大丈夫。
金髪ローブくんは――
震え、うつぶせのままブツブツ言ってる。
動けなさそうだ。
じじいは――
ダメージのせいか意識を失っているように見える。
こちらも無理だろう。
元カノ似は――
足をくじいているようだ。
まだ動けそうだが……
だめだ、心が折れているようにも見える。
マッチョさんは――
辛うじて動けそうか。
雌オーク――
意外だが、大丈夫そうだ、でもビビってるのはわかる。
俺たちが体勢を整えるのを、巨人が待つはずもない。
その巨体を揺らし、一歩一歩、振動を感じさせる歩みで距離をつめてきた。
迷惑なことに、一歩、一歩が、吐き気をもよおすほどのプレッシャーを吐き出している。
――我が名はオルクス。
――オーク=ナスを統べるもの。
さっきから、部屋中に響いてくるこれは――
ヤツの言葉なのか?
口は動いてないようだが、他の皆にも聞こえているのだろうか。
オーク語で聞こえてくるので、雌オーク以外は聞こえていても理解できないかもしれない。
「いやっ――
なんか、お経みたいなのがブツブツ聞こえるッ!」
やっぱり莉奈さんは、響く言葉が理解できてないようだ。
若干パニクっている。
こんな時は、やることを与えて集中させるしかない。
「莉奈さんッ!! しっかりッ!
ダーナさんとユアンくんを壁際に避難させて!」
莉奈さんに、元カノ似と金髪ローブくんを任せる。
他の連中にも続けて指示をする。
「ドミニクさん、動けますか!
モーリッツ教授を避難させてください!!」
マッチョさんにじじいを任せる。
「栗田さん!
動けるよね、逃げてッ!」
雌オークには自分で逃げてもらおう。
そこまで指示を出すが、それが終わる頃にはすでに、巨人は目の前まできていた。
「イノリさん、ヤツのステータスわかる?」
その言葉が終わるのも待たずに、ウインドウが開いた。
―――――――――――――――――――――――――――
オルクス
種族:オーク希少種
サイズ:45
筋力:189
耐久:93
知覚:8
魔力:650
機動:15
教育:2
攻撃力(名称:貫通力:ダメージ:動作)
・拳:0(10):189(239):3
防護値(名称:装甲値:緩衝値)
・体毛:7:20
・ブリガンダイン+2:6:2
バフ:貫通力+10 ダメージ+50
―――――――――――――――――――――――――――
やつの筋力を、一角熊と比較する。
たぶん倍近く高い。
やつの動きは緩慢だ。
だが、その一挙手一投足には力が満ち溢れている。
その様は、動きひとつひとつがプレッシャーを帯ていて、掠めるだけでもダメージを受けそうな勢いだった。
――この地は罪を沈める沼なり。
――泥の中でもがく豚は、傲慢に満ちた貴様ら。
巨人は目の前で、大弓を引き絞るように、岩のような肘と拳を引く。
拳は僅かに発光し、破壊の力が集中するのを視覚で感じた。
俺は咄嗟に横に跳ねる。
咄嗟のことなので力加減は考えてない。
着地のことも考えてないので、姿勢を崩し身体を床に勢い良く転がしていた。
俺は柱を蹴り、転がる身体を止める。そしてすぐに立ち上がった。
――ガッ ウンッ
――ビシッイイイッッッッ
床に拳が接触した瞬間、インパクトは激しく破裂する。
さっきまで居た場所に、巨人の握りしめた拳が落ち、火薬のような爆発を巻き起こし、石の床を削り取っていたのだ。
『単純な拳での打撃ではありません。
インパクトの瞬間に体内で練り上げた魔力を放出しているようです』
イノリさんが攻撃を分析する。
『今の一撃を食らっても、それで即死することはないかもしれませんが……確実に負傷します。
絶対に避けてください』
まったく……いつもの調子で脅してくれるイノリさん。
攻撃を受けた時のことを想像してしまい、下半身の力が抜けそうになるが、必死に頭からそのことを追い出す。
俺は次の動作に備えるため、しっかりと両足に力を込めた。
――その魂よ呪われろ!
――罪の重さで沼へと沈め。
巨人は両腕の拳と拳を打ち合わせ、こちらへ向き体勢を整える。
――魔力装填数 5/6
俺はプロテクションを張った。
魔力の光が身体を包む。
『コウゾウ――
妖魔は先ほどの動作で、体内の魔力を膨張させました。
――来ます』
信号で立っていたら、すぐ側、目の前を大型のトラックが走り抜けたようなプレッシャーが迫る。
再度、横に飛ぶ。
先ほどと同じように床を転がる。
だが今度はキレイに転がることで、次の行動に容易に移れる姿勢を維持することができた。
巨人の拳は、俺の元居た位置にあった両手でも余るほどの石の柱をへし折り破壊する。
……ヤツの拳の範囲内は危険だ。
俺はすかさず、オリハルコンワイヤーを天井に伸ばし、その場から跳ねる。
その間に巨人はまた両腕の拳と拳を打ち合わせていた。
また魔力を練っているのだろう。
今の俺は、ヤツの拳の範囲外へ出ている。
やつが近づいてくるまで余裕があるはずだった。
『コウゾウ。
今度はエネルギーを投擲するようです。
避けてくださいっ――』
手のひらに魔力の塊である光弾を握りしめ、キャッチボールでもするように巨人は腕を振る。
――ゴオオオォォッ
光弾は周囲の空気を巻き込み、派手な音をたてて、コチラへ飛んできた。
――速いっ!
戦闘術をインストールすることで使えるようになったゾーンで巨人の光弾を見極める。
集中している脳は、光弾の軌跡をハッキリとゆっくりと捕らえていた。
俺は遅延する時の中、必死に身体を捻りワイヤーで振り子のように勢いをつけ、巨人の背面に位置する壁へ跳んだ。
「飛び道具まで使うって――
格ゲーかよ……」
その勢いを使って重力を無視し、壁面へと着地する。
逃げてばかりでは、状況はジリ貧。
俺の身体を重力が捕らえるまでの時間、思考は脳を駆け巡り、着地した壁面をすぐさま地面のように蹴り上げ天井へ向けて跳ねた。
今度は天井を蹴り、三角飛びの要領で、巨人の背面頭上から首筋へと飛び込む。
高周波振動ダガーを両手で持つ。
片方の手で柄の尻を押さえ固定し、もう片方でしっかりと握りしめる。
勢いもそのままに、首筋目がけて突進し――
ダガーは何の抵抗も無く、巨人の首筋に沈んだ。
「ガアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
大気を振るわす、巨人の絶叫が響く。
ウインドウを覗きヤツの状況を確認した。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98(出血1)
―――――――――――――――――――――――――――
ダメージは通っている。
だが、ヤツはその様子を微塵も感じさせない。
俺は、ヤツの側にある柱へ向け跳躍。
オリハルコンワイヤーを柱に打ち付け、そこへ張り付いた。
丁度そこは、巨人の視界の端、その辺りのハズだ。
――貴様らは矮小なる者。
――我が鉄槌より逃げ回る、往生際の悪い羽虫ッ!
巨人は身体をコチラへ向け、憎しみを込めた目で睨んでくる。
よく見ろ、俺。
ヤツの攻撃は強力だが動きは単純だ。
繰り出されるタイミングは容易に察知でき、その軌道も簡単に予測できた。
いくら威力があろうと、当たらなければどうってことはない。
――ハズ。
俺を視界正面に捕らえたヤツは、己の拳の届く範囲に獲物が居ることを確認し、暴力的な笑みを浮かべている。
調子に乗りやがって――
終始、高圧的な物言い。
すぐにその豚鼻を明かしてやんよっ!
巨人は、再び拳を打ち合わせた――
今だ!!
俺は巨人の握りしめた拳が発射されるタイミングを察知し、柱を蹴った。
ヤツの拳の軌道を読み、ギリギリの範囲内で避ける。
俺の跳躍は拳と交差し、巨人の懐へと距離を詰めた。
俺はその勢いを利用し、ナイフを胸に沈め――
巨人の胸を十字に切り裂いた。
ヤツは俺を振り払おうと、手のひらで胸を払う。
重力による、落ちる力を利用し、手のひらを躱すと巨人の足元に着地。
さらその足を十字に切り裂いた。
全身タイツの白兵戦によるサポートと、ダガーによる技術で、ヤツの一回の動作中に二回の攻撃を繰りだす。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98
【胸 部】負傷:104(筋肉挫創 胸部筋力低下)
(出血3)
【右脚部】負傷:180(筋肉完全断裂)(出血5)
―――――――――――――――――――――――――――
巨人が、山のような身体を折り、膝をつく。
――貴様らの魂は泥を貪り食ふ豚。
――どう猛なる民は、貴様らを結して許しはせず!
――我らの怒りは煉獄の炎なり!
「オ゛オオオオオオオオオオオォォォォォォォォッォオッォォオッォォォォォオォォォォォォォオォォォォォォォォッォォォォォッッッ!!!!!!!!」
巨人はビリビリと大気が震えるほど雄叫びをあげる。
それに呼応するように……
立ち並んでいた空洞の甲冑たちが、何も入っていないハズの兜に炎を灯して動き始めた。
甲冑が擦れ、ぶつかる金属音。
それらが幾重にも重なり、巨人の雄叫びと一体化する。
魂を宿した甲冑の目は、莉奈さんや冒険者たちの方を一斉に見た。
そして手に持ったハルバードを構え走り始める。
オーク甲冑が群れをなして、避難している莉奈さんや金髪ローブくんたちへと殺到するのだった。
「ち、ちょっと、多すぎ――」
莉奈さんが全身タイツパワーで、甲冑たちを破壊するが追いつかない。
マッチョさんも、漏れた敵を、必死に大盾で抑えようとするがそれでも足りず苦戦していた。
慌てる金髪ローブくんや元カノ似は、相変わらずも役に立ってないようだった。
「――くそっ!!」
俺は咄嗟に、加勢しようと駆け出す。
――ぐいっ
巨人に足を掴まれた。
一瞬の浮遊感。
理解する間もなく、世界は反転し――
衝撃が全身を襲う。
「ぐはっ!!!」
衝撃によって、肺から空気が強制的に吐き出され、意識が飛びそうになる。
続いて二回目、三回目と繰り返し、地面や柱、壁に叩き付けられる。
辛うじて受け身を取るが、左腕と右足にダメージが集中してしまう。
逃れようともがくが、巨人のパワーは、俺をがっちり掴んで離さない。
ダガーで掴んでいる手を斬りつけようにも、あまりの勢いに、バンザイしている状態となり、身体を足元までかがめることができなかった。
俺は、必死に掴まれていない足で、巨人の手を蹴る。
しかし、そんな攻撃で巨人はその手を離すはずもなく……
―――――――――――――――――――――――――――
【左 腕】負傷:6
【胸 部】負傷:3
【腹 部】負傷:3
【右脚部】負傷:9(筋肉挫傷 右脚部筋力低下)
―――――――――――――――――――――――――――
や、ヤバい。
死んでしまうかもしれない……
俺の頭の中に、死という文字が浮かび始めそうだった。
考えろ。
考えろ。
俺は、死の文字を掻き消すように、必死になって生き残るための思考を巡らせる。
「ブモオオオオォォォォォォォォッォオッォォォォォォォッォォォォォッッッ!!!!!!!!」
その時だった。
雄叫びとともに爆発するような魔力の奔流が、莉奈さんたちの方から発せられる。
「ブモーッ!!
いいかげんにシテよっッッッ!!!
――ふざけんなぁッ!!!」
次々と、甲冑たちが吹き飛ばされていく。
雌オークが雄叫びをあげながら、甲冑たちを殴り飛ばしているのだった。
そして、引っ掴んだ甲冑を、ドッジボールの要領で、巨人目がけて投げつける。
「私は、普通の恋愛がしたかったんだつーのッ!
こんなの全然違うっつーのッ!!」
元の世界で見た、どんな野球投手よりも速いスピード。
魔力を帯、仄かに光った大きな甲冑がコチラ目がけて飛んでくる。
巨人も、それをそのまま受けるわけにもいけなかったのか俺を握る反対側の手で、それをガードした。
よっし――
動きが止まったっ!
俺は上体を起こし、足を拘束している指を十字に叩き斬った。
「ガアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
俺はオリハルコンワイヤーを天井に放ち脱出する。
『体内の魔力を力に変えていますね。
オルクスの攻撃と同じ要領です』
イノリさんが雌オークのステータスを表示する。
―――――――――――――――――――――――――――
名前:栗田彩子(処女)
種族:オーク希少亜種(3)
容姿:3 (オークにのみ:10)
言語:オーク語・日本語
サイズ:7 149cm
筋力:25
耐久:30
知覚:8
魔力:55
機動:7
教育:7
亜種特性
[多産]
[性豪]
攻撃力(名称:貫通力:ダメージ:動作)
・素手:0(10):25(55):1
防護値(名称:装甲値:緩衝値)
・布の衣服のみ(体毛):4:3
バフ:貫通力+10 ダメージ+30
―――――――――――――――――――――――――――
『アチラは、彼女たちにまかせましょう。
オルクスが沈黙すれば、魔力のリンクも切れ、甲冑たちも動きを止めるはずです』
イノリさんの言う通り、早くコイツの息の根を止めよう。
俺は痛む右足を我慢し、壁面を蹴り、巨人の死角にある柱までジャンプする。
そしてその柱に到達すると、今度は柱を蹴ってヤツの背面へとジャンプした。
人間ピンボールと化した俺は、死角から巨人の背中にダガーを突き立てる。
全体重と全身タイツのパワーを使い、突き刺さったダガーもそのままに落下し、巨人の尻まで引き裂く。
「ガアアアアアアアァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」
何度目になるのか、しかし、戦闘が始まってから一番大きな悲鳴。
巨人の声が、部屋を揺らす。
―――――――――――――――――――――――――――
【頸 部】負傷:98
【胸 部】負傷:104(筋肉挫創 胸部筋力低下)
【右脚部】負傷:180(筋肉完全断裂)(出血1)
【背 中】負傷:102(出血5)
―――――――――――――――――――――――――――
「うらぁぁぁぁぁぁァァァァァァッッッッッ!!!!」
俺は地面に着地し、左足を十字に叩ききった。
粘度の高い青い液体も、その傷口の深さと巨体のもつ血圧で、噴水のように吹き出している。
当然、俺も全身に浴びるが、そんなのにかまっている暇はなかった。
俺は、だめ押しとばかりに、更にダガーを叩き込む――
―――――――――――――――――――――――――――
【左脚部】負傷:193(破壊 筋肉完全断裂)
(出血10)
―――――――――――――――――――――――――――
完全に巨人の左足を破壊。
ヤツは崩れ落ち、低なった頭――
そこへ目がけジャンプし、さっきまでダメージを与えていた首元へとさらにダガーを叩き込む。
巨人の振り回す腕は、すでに魔力を纏っておらず、最初ほどまでの威力、スピードはない。
その攻撃を難なく躱し、さらに首筋にダガーを突き立て走らせる。
断末魔の叫びが、広間中に響き渡った。
同時に、甲冑たちの瞳の炎は消え沈黙する。
金属が石床にぶつかる音、それが至る所で響く。
そして最後に重さに耐えきれなくなった巨人頭が――
首で分断され地面に鈍くをたてて落ちた。
訪れる静寂。
広間は、仲間たちの肩で息する呼吸音が聞こえるほど静かになっていた。
それが聞こえるのは、彼等が生きているのだという証。
どうやら無事、俺たちはこの階層の主を倒すことができたようだ。
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