上 下
3 / 35
第1章~無能な勇者~

第1話Part.3~貧乏勇者、街で野宿する~

しおりを挟む
 仲間は去って行った。俺はしばらく立ち上がれずにいたがいつまでもここに留まっていても仕方がない。野営の道具もアイツらに持っていかれてしまったため日が暮れるまでに次の街に着かなければならない。
 次の街には日が暮れるまでに到着できる予定ではあった。おそらくアイツらもその街に行っているであろうから少し気は進まなかったのだが何の準備もせずに野営するのは自殺行為と言える。俺は重い身体を引きずるように先に進み始めた。

 なるべく魔物たちに会わないように慎重に進む。4人で居た時は対処もできたが今は1人。魔物は基本的に群れを成していることが多く数的不利は否めない。消耗を覚悟で戦えばなんとか撃退することも可能だろうがそんな戦い方を続けられる訳も無い。
 魔物の気配を感じた時は茂みに隠れるなどして気配を伺いながらやり過ごし、鉢合わせてしまった時は基本的に奴等の目を眩ませて逃げを打った。

 慎重に進んだ結果、街に着く頃には日がほとんど落ちてしまっていた。だが暗闇で前が見えなくなるまでには到着できた。この町はガルヴァン王国のロデードという宿場町だ。ガルヴァン王国の隣国であるパリッシュ王国に行く者たちが中継する町だ。
 元々俺たちはパリッシュ王国に現れたという魔王の配下を倒しに行く道中だった。離脱したアイツらはこれからどうするのかは知らないが、俺はとりあえずこの辺りで仲間を探したかった。

 仲間は失っても魔王を倒すことを諦めた訳じゃない。だが1人で魔王に勝てる訳もないので同志となってくれる者が必要だ。まあ同志は見つからないにしてもパリッシュ王国まで共に行ってくれる冒険者か傭兵辺りは見つけたい。
 パリッシュ王国に行けばおそらく魔王の配下を倒せる者を探しているはずだし腕に覚えがある者も来ているはずなのでその者たちに加わってまずは討伐に向かう。

「はぁ?金がねえだ?帰った帰った。」
「そこを何とか……。馬小屋でもいいです。何なら下働きもします。力仕事なら自信があります。」
「馬小屋も空きはねえんだ。さっさと帰れ。」

 街に到着はしたのだがまだ問題があった。奴等に金まで持って行かれて一銭も無い。当然宿屋に泊まるには金が必要だ。何とか下働きでも何でもするので泊めてもらえないかと宿屋の主人に頼んだのだが皆首を縦に振ってくれなかった。
 俺は肉体的にも精神的にも疲労してフラフラとしながら町を彷徨う。そして見つけたのは大きな橋。上部に向かって曲線に掛けられた橋で下を見てみるとちょっとした隙間があった。
 もう最悪雨を凌げればそれでいいと俺は下に降りて橋の下に入った。俺は橋に背中を預けて胡坐をかいて座る。土台は石を切り出した物のようで当然硬い。

 こんなところで寝れるのだろうかと思ったが、俺の疲労は想像以上に大きかったようですぐにウトウトとしてきたと思った時にはもう眠りに落ちてしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...