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奪還

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 唐突すぎる再会だった。

 会場の騒ぎを耳に聞きながらも、ミレイの目はカルロを見つめるのに精一杯だ。

「どうしてここに……」

 ありきたりな言葉が勝手に出てくる。

 ついさっき、迎えに来てほしいと恥ずかしげもなく叫んだばかりなのに。

「それにその格好は…!?」

「……、文句でも、あるのか」

 硬派な黒い警官服に身を包むカルロが、被り直した帽子の隙間から彼女を見下ろす。

 とにかく状況の理解が追い付かないミレイは、質問攻めで止まらなくなりそうな自分を懸命にこらえた。

「文句なんてないですけど…っ…でも」

 文句はないが、疑問は山盛り。

「騒ぐようなら…ふさぐ」

「……ぇ」

「その口…──」

 ひとつひとつに答えるのを面倒臭がったカルロは、問答無用で彼女を黙らせた。

「…‥フ‥…ん‥‥??」

····チュッ

「…‥??‥‥っ‥‥///」

 いきなり唇を奪われ舌を差し込まれる。

 ゆっくりと口内を回りミレイの舌に巻き付くソレは、かつて東城家の縁側で犯された時とそっくりだ。

 温かくて官能的……
 
 ミレイの腰から立つ力を奪い取る。

チュッ····チュルッ···──チュパッ

プハッ

「‥‥ッ‥‥ハァー‥‥ハァー‥‥ハァー‥‥!」

「……っ」

「カルロ‥‥‥さん‥‥?」

 キスの終わりと同時に、倒れそうになったミレイの腰をカルロが支えた。

 トロンと赤くなった目で彼を見上げると、カルロの表情が少し険しくなる。

 呼吸が乱れたミレイを抱き上げて、彼は歩き出した。



 廊下には、先ほどまでミレイ を守っていた残りの三人の護衛達が気を失ってのびている。
 
 ミレイを抱いたカルロは彼等をまたぎ、そのまま会場から離れていった。

「警備が厳重で大がかりなほど……アナを空けられた時の対処が、雑になる」

 業務用の通路の突き当たり──そこにはエレベーターが待ち構えていた。

 警備用のエレベーターだ。

 だがそれを使うには警察官が持っているIDと、それに適合した暗証番号が必要だ。

 どうするつもりだろうかと見守っていると、彼は胸ポケットから取り出したIDをスキャンさせて、6桁の暗証番号を入力した。

 当然、対策済みというわけだ。

 乗り込んだカルロは地下のボタンを押す。

「地下へ…?」

「あんたの父親が俺達に命令したんだろう。駐車場へ、運べと」

 もっとも、乗るのはカルロが別に用意した車だ。行き先もジンの家ではない。

 50の階層を一気に降りながら、どんどん減っていく階の数値を無言で眺めていた。

 チン、という音が二人に到着を告げ、カルロはエレベーターを降りる。

“ このまま外へ?……でも、あれ……?そもそも ”

 その間カルロの腕に抱かれる内にやっと実感がでてきたミレイ。

 少し冷静になって、不可解な点に気付いた。

「カルロさんがここにいるなら、会場に侵入したという人はいったい……」

 監視班の見間違い?

 いや、外の見張りの警官も倒されたって……!

「ハルトだ」

「…っ…ハルト君が?何のために?」

「…オトリ

「それって平気なんですか!? 今ごろ捕まってるんじゃあ……っ」

「そこまで無能な奴でもない」

 心配するミレイを意に介さず、冷静そのもののカルロは駐車場を目指して通路を進んだ。

 途中で警官とすれ違ったが、ミレイが話を合わせて何事もなく通り抜ける。

 悪人でもない彼等にこれ以上の強行手段は使わないほうがいい。

“ さっきの人達は可哀想だったわ ”

 カルロに気絶させられた護衛たち三人を思うとミレイは今さら胸が痛んだ。



 ──そうして無事に地下駐車場にたどり着いた二人は、ホテルから逃げるために車に乗り込もうとした。

 カルロが彼女を下ろして、車を解錠する。

「乗れ」

 助手席の扉を開けたカルロがぶっきらぼうにそう告げた。

 ……しかし、その時

 無人だった駐車場に複数の男達が流れ込んだ。


 警官だ。


「ちっ…」

「カルロさん……!! 銃は……っ」

「構うな」

 即座に反応したカルロが、腰に提げた短銃を抜き取りながら車から離れる。

 むこう側は彼に銃口を向けていた。

 止まれという指示が飛ぶも──それに従わないカルロは、躊躇いなく走り寄る。

「カルロさん!」

 警官が発砲する──

 カルロはさらに加速し、自身の短銃で応戦した。

 銃声に合わせて警官たちの後ろのコンクリート柱にヒビが入り、怯んだひとり──その男に狙いをさだめたカルロ。
 
 低姿勢で男に突っ込み、突き飛ばす。 

 そして倒れた男を引き戻して盾として使い、次の標的に詰めよった。

 仲間を盾にとられて戦いにくそうな警官に、カルロは腰からもうひとつの短銃を投げつける。

 黒い爆弾に見えたのだろう。慌てて逃げようとした男はあっさりカルロの銃弾で負傷した。


 ──…彼がくり出すその早業

 狩りをするハヤブサのごとき眼光に、獲物にされた警官たちは怯えを隠せない。


「怯えたほうが…」


「ひ‥ッッ」


「──ッ…負ける」


 駐車場に来た警官は5人だった。

 男たちはものの数秒でカルロの足元に崩れさってしまった──。





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