歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

文字の大きさ
上 下
92 / 105

襲撃の夜

しおりを挟む

 すぐにパニックにならなかったのが救いだった。

 参加者達はまだかろうじて冷静だ。

「どこから撃たれた!?」

「この会場は50階。これに並ぶ高さのビルは周りにない筈なのに…っ」

「下から狙撃したのか?まさか」

「襲撃にそなえて外は厳重に見張りを置いているんだぞ!?」

 慌てているのはむしろ警察の人間だった。

 そんな状況で混乱の前に出てきたジンは天井を見上げて、照明の横にめり込んだ黒い物体を指差す。

「──…銃弾はあそこだ、あの角度だと……」

 銃弾の場所から、発砲場所を絞りこんだ。

「あの辺りか」

「あんな…っ…遠くから…!?」

 示した場所に高いビルはない。

 せいぜい10階建てかそこらのビルの屋上に──

「……!!」

 微かに、人影が見えた気がした。

 ミレイは窓に近付く。


「………」


 遠くて、暗くて

 顔なんて見えるわけがない。だが奇妙なことに犯人の予想がついてしまった。

 遠く離れた窓ガラスを貫通する強い火力の銃器を、人の技とは思えない正確さで使いこなす──

 そんな男が黒髪から覗かせる蒼い危険な瞳が、ミレイには見えたような気がした。

「危険だから離れなさい!」

 窓際の彼女をジンが引き戻す。

パリン!!

「──…!!」

「き、きゃあああ!まただわ!!」

 すると再びガラスが割れ、なんと2発目の銃弾が、ミレイの肩を掴むジンの、スーツの袖を貫通した。

 今度こそ参加者たちは悲鳴をあげておののいた。

“ まさかっ私を狙い撃ったのか……!? ”

 どうなっている

 ガラスを貫通する威力の銃器で、あの飛距離で、狙いを定めて銃撃するなんて信じられなかった。

「我々が指示を出します!皆様は安全の為にこちらへ移動してください!」

 ジンは叫び、他の参加者にも今すぐ窓際から離れるように命じる。


 そこに部下の警官が焦燥した様子でやって来た。


「どうした…っ」

「監視班より連絡です!この混乱にじょうじ会場に入ってきた不審な人物がいます!」

「なんだと?」

「顔はカメラに映っていないと。どうやら若い男のようだと。服装は黒のスーツに──」

「……!!」

 ジンの表情は深刻だった。

 この会場に不審な者が紛れ込んでいる…!

 ざっと会場を見渡せど、人が多すぎて今さら探し出せるはずもなかった。

 そんな中、また別の部下が駆け寄ると、新たな窮地をジンに伝えた。

「ただいま確認したところ、建物入り口の見張りがひとり残らず倒されています!間違いなくカメラに映っていた者の仕業です」

「何故なのだ?襲撃の報告は一度もきていないぞ?」

「わかりません、無線で知らせる隙もなく全滅したとしか…ッッ」

「く…!!」

 一刻の猶予もなくなったジンには、この場の指揮をとるべく冷静な判断が求められる。

 彼はまず横のミレイに振り向いた。

「ミレイ!君は家へ戻りなさい!」

「え…!?」

「犯人の狙いがわからない…っ。危険だ、今すぐその裏口から地下駐車場へ向かうのだ…──おい君たち!」

 混乱が広がる前に娘だけでも避難させようと、ジンは部下を数人呼びつけて、彼女を逃がすように命令した。

「待って…っ ジンさん」

「今は父の言う通りにしてくれ」

 ミレイは両側から腕を捕まれて、会場の入り口とは逆方向へと引っ張られた。

 その先の配膳室を抜け、従業員用の廊下に出た。

「このまま外に出るのっ?」

「局長の命令です。この先にある警備用エレベーターで地下まで降ります」

「でも会場はあんな状況なのに……!!」

「だからこそです!」

 ミレイは護衛にはさまれて歩きながら、チラチラと会場に振り返っていた。


“ いったい誰が侵入したの……!? ”


 政界の人間が集うパーティーだ。本当にテロリストが現れたのだろうか。


 でも


「……っ」


 あのビルの屋上にいたのは……!

 もしわたしの予感が当たっているなら、会場に入ってきたという人物は……!


「…はっ…離して下さい!」

「っ…お嬢さま!? 戻ってはなりません!」

 ミレイは護衛から逃れ、再び会場へ戻ろうとした。
 
 彼女を囲んでいた四人の護衛の隙間をすり抜けて、ヒールの靴を脱ぎ捨てる。

 そして廊下を走り、配膳室の戸を開ける。

「あっ!」

 しかし追い付かれて、後ろから腕を掴まれた。

「お願いだから行かせて!誰が来たのか…っ 確かめないと…っ…!!」

 ミレイは必死だった。

 腕を離してくれない男の──彼が着ている警官の制服を引っ張って、叩きながら、ミレイは大声で訴えた。 

「わたしの迎えかもしれないの!」

 護衛の彼にこんなことを言っても理解できないだろう。そうと知っていながらミレイは叫ぶのを止めない。

 腕を振りほどこうと必死にもがいた。


「本当に来てくれたのだとしたら、会わないと…っ」


「──ッ」


「わたしカルロさんに会いたいの…ッッ…あの人に、迎えに来てほしいの……!!」


「……どうして?」


「そんなのっ──ただの、わたしの…我が儘…!!」


 会場の騒ぎが大きくなっている。

 それでも彼女は怯む気になれず、戻ろうとする。


「お願い!手を……離して……っ」


「離さない」


「……手をっ…──」


「……」


「‥‥‥!」


 男の胸を強く押した拍子に

 彼の被っていた帽子が、頭から外れて床に落ちる。


「──…??」


 その瞬間にミレイは言葉を失い
 ぴたりと動きを止めてしまった。


 床に落ちた帽子には、警察のマークが刺繍されている。


「──…」


「もう一度、聞く」


 男は彼女の肩を掴んで自分の方に向けさせた。

 ミレイは目をチカチカさせながら、彼の茶色の瞳を……そして、金色の髪を見る。


「あんたは、誰の迎えを待っている?」


「……、カルロ、さん」


「…何故?」


「会いたかった から……」


「……単純だな」


 腰を抜かしそうになったミレイを、すかさず男は抱きかかえた。



「だったら俺から離れないでくれる?

 ──…サラいに来るの……面倒、だから」



 彼女を抱えたまま帽子を拾い、顔が隠れるまで深く被り直す。

 けれどミレイの位置からはしっかりと彼の表情を確認できた。

 気怠げな目。

 対照的にキリリとした眉と、眉間のシワ。

 その男は、放心状態の彼女を真っ直ぐな瞳で射止めた後、ふいと顔をそらしてしまった──。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...