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風呂場の兄弟達
しおりを挟む「──…」
ポタ..
言い返すどころか、振り向くことさえできなかったカルロ。
かけられた水の冷たさは……ひいていくでなく、むしろ増してゆく。
こんな状況なのに何故か冷静になる自身の思考を俯瞰しつつ、彼はハルトの捨て台詞を脳内で繰り返した。
腰抜け…──
こだまのように再生される、侮辱の言葉……。
それにこもったハルトの思いが、彼の頭を何度も殴り付けてきた。
水をかけてきたハルトは、心の内で……今、悔しさに涙を流しているのかもしれない。
そんなふうに推測してしまうほど、ぶつけられた思いは強かった。
そしてカルロは
こうやって他者に思いをぶつけられる事が、初めてではないという事実を──痛感する。
───
《 わたしにとってカルロさんは
どうでもいい存在なんかじゃない……!! 》
《 この気持ちは変わりません、絶対に 》
《 あなたの側にいたいんです…っ 》
だから……
《 愛するものを殺したり、しないで……!! 》
……いつもいつも真正面からぶつかってくる
自分勝手に……我が儘に。
そんな彼女の瞳の力強さを思い出し
「……」
それをかわしてばかりの自分の弱さに立ち返る。
「……ク、腰抜け、か」
笑うしかない
勝手な言いぶんを他人に押し付けて、何を偉そうに吠えている。
ふざけるな
なんだってあいつ等は、あんなに単純な思考で行動できるんだ。
自分にはできない
“ だから弱いままなのか…… ”
だから俺だけ、このアリ地獄から脱け出せないのか。
「まったく、驚かせてくれるよハルトは」
呆れと感心が混ざった表情で、スミヤは兄に話しかけた。
「知らない間に良い男になったものだね。もし弟でなかったら危うく手を出しているところだ」
「……」
「ねぇ?兄さん」
ふざけた事を言っているようでいてスミヤの声は真剣そのものだった。
彼は感情をさらした弟を馬鹿にするでなく、ゆっくりと濡れた前髪をかき撫で、両の目で静かに兄を見つめる。
「──…ミレイがどんな思いでこの家を離れたか、兄さんだって……わかっている筈だ。
僕が心から尊敬する……貴方なら」
目一杯の皮肉をこめて微笑むこともできるが、今のスミヤはそれをしなかった。
「……それでも躊躇するんなら、今度は僕が兄さんの頭に熱湯をかけることになりそうだけれど」
「黙れ」
「……」
スミヤの話を遮り、ピクリとも動かないカルロは口を開く。
“ ああ……、クソ、苛つく…… ”
腹の奥底で煮えくり返る想いを、表情には出さないまま。
「今……猛烈に機嫌が悪い」
「へぇ、そうかい」
「俺を 逆撫でするな。……死ぬぞ」
「兄さんに殺されるなら本望だよ?」
「…ハっ、…馬鹿が」
スミヤの言動はあながち冗談でもないのだが、それを知ってか知らずか、カルロは嘲笑とともに軽く流した。
彼がこの苛立ちをぶつけるべきはスミヤではない。
勿論、ハルトでもないのだ。
「……スミヤ」
「…、どうかした?不機嫌なお兄サマ 」
「俺を、手伝え」
「……フ」
二人だけになった露天風呂で同じ景色を前に臨みながら、彼等の謀議はここに成立した。
「──…できの良い弟達に、感謝のひとつでも欲しいところだよ」
それから ゆうに一時間。波立つ事なく長風呂を終えて、計画は動き出す。
天才にして、最凶の
兄弟達が、動き出す──。
────……
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