歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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気になる人

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「…さて、話の続きだ、ミレイ」

 ナツがいなくなり二人きりになったところで、スミヤは彼女の隣に座った。

「君が何に思い悩んでいるのか聞かせてよ。僕が答えられる範囲なら教えてあげられる」

「それってカルロさんのこと……?」

「──…へぇ、兄さんの事かい?」

 すでに知っていたくせに……

 カルロの名を出したミレイを奇しがる演技をしたスミヤだった。

「実のところ、僕はついさっきLGAココに戻ってきたんだよ。──ちょうど、犯人の居場所を突き止めたからね」

「犯人って誰のことですか?」

「決まってるだろう?兄さん達をビルの中に閉じ込めている張本人だ」

「…!!」

 彼の言葉を聞いて、ミレイの態度はわかりやすく変わった。

 それまでスミヤの行動を注意深くうかがっていたが、それを忘れて話題に食いつく。

「なら事件は解決したんですか!?」

「そう簡単にはいかないさ」

 希望を見つけて聞き返したミレイ。

 しかし解決はまだ先のようだ。

「僕達の仕事は犯人を捕まえる事でなくて、依頼人の命を守ることだ。依頼人の安全を確保してからでないと大きな動きはとれないよ」

「そんな、じゃあ、まだ」

「報道を見ただろう?ビルに爆発物が仕掛けられている可能性がある」

「それなら…っ、カルロさんはいつ出てこられるんですか?」

「それは兄さんしだいだ」

 殺害予告をしてきた犯人を突き止めるのが、スミヤの任務。

 依頼人をガードするのはカルロの任務だ。

 あとはカルロが自身の任務を遂行しさえすれば、残りの仕事は警察にでも引き継げばいい。

「……どうして君が、それほど兄さんを気にかけるのか疑問だね」

「それはっ……当たり前です!だってこんなに危険な任務だし」

「……」

 スミヤはじっと……ミレイの顔を見つめている。

 機嫌を損ねたのかもしれない。ミレイがそう感じるような視線だった。

「君に何の得があるんだい。そうしていればいつか兄さんが君に関心を抱くとでも思うの?」

「得とか損とか…っ…そういう事じゃないです」

「君は何もわかっていない……」

 怒っているのとは違う。

 ……そう、彼は憐れむような蒼い瞳をミレイに注いでいたのだ。

「兄さんがどういう人間か何も……知らないのに」

「──…っ」

「……そのお気楽さも、君の良さかな」

 ミレイが何も返せずに黙っていると、スミヤもそこでその話を止めた。

「……」

「どうして僕じゃないんだろうね」

 彼からしたら、ミレイはとても可哀想な女なのだろうか。

ガタン

「スミヤさん…っ」

「僕は家に戻ろうかな。君はちゃんとサンドイッチを食べなよ?もうすぐ飲み物も届くだろうし」

 彼女の栗色の髪をとかすように頭を撫でて、スミヤは席を立った。

「兄さんはこんな事で死ぬような人じゃない。安心したらいいよ」

 また何か酷いことをされるとミレイは思っていた。でも彼の用事は本当にそれだけのようで、ただ、そう告げて去っていく。


「よかったら!」

「……」

「…ッ 教えてほしい…、わたしに、カルロさんがどういう人なのかを──っ」


 ミレイは彼が離れていく前に、その背中を呼び止めた。


「スミヤさんの言う通りです。わたしってカルロさんに避けられてる……から、だから」

 向き合って話すことはもちろん、顔を合わせるのも嫌がらている。

「それは言い訳になるかもしれないけど、つまり、知らないんです!カルロさんを」

「……それで?知ってどうするんだい」

「何もできないけど、気になるの」

 気になる

 彼のことが気になる。

 あの謎に包まれた人は、いったいわたしに何を隠しているんだろう。

「──…」

 夜の遅くまで営業している食堂は、この時間になっても利用者が途切れない。

 そんな食堂で、ミレイとスミヤの周りには二人を見比べている生徒が数人いた。

「……なら、ヒントをあげようかな」 

 呼び止められたスミヤは初めこそ戸惑っていたものの、ミレイがあまりに真剣なので、彼女の視線から逃れることなく微笑みを返した。


「兄さんは昔から……猫が好きだった」


「─ッ…ね こ…?」


「今だって好きなんじゃないかな」


「……!!」


 それだけですかと

 そう言いたいミレイの思いを先回りしてか、スミヤは最後に一言を付け足す。


「これは助言かもしれないし
 ──…忠告かも、しれないよ」


 気を付けて──


 意味深な物言いだった。そしてスミヤは去っていく。

 食堂の入り口で、外から戻ってきたナツとスミヤがすれ違う。

 ナツは三種類の飲み物を手に持ち、出ていこうとするスミヤに気付いて驚いていた。

 さらに彼は、すれ違いざまにそっとスミヤに耳打ちされて、いっきに顔を赤くして焦燥する。

 何を言われたのか知らないが

 ミレイの頭は、謎かけのようなスミヤの言葉ですでにいっぱい。気にする余裕もなかった──。






──…




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