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気になる人
しおりを挟む「…さて、話の続きだ、ミレイ」
ナツがいなくなり二人きりになったところで、スミヤは彼女の隣に座った。
「君が何に思い悩んでいるのか聞かせてよ。僕が答えられる範囲なら教えてあげられる」
「それってカルロさんのこと……?」
「──…へぇ、兄さんの事かい?」
すでに知っていたくせに……
カルロの名を出したミレイを奇しがる演技をしたスミヤだった。
「実のところ、僕はついさっきLGAに戻ってきたんだよ。──ちょうど、犯人の居場所を突き止めたからね」
「犯人って誰のことですか?」
「決まってるだろう?兄さん達をビルの中に閉じ込めている張本人だ」
「…!!」
彼の言葉を聞いて、ミレイの態度はわかりやすく変わった。
それまでスミヤの行動を注意深くうかがっていたが、それを忘れて話題に食いつく。
「なら事件は解決したんですか!?」
「そう簡単にはいかないさ」
希望を見つけて聞き返したミレイ。
しかし解決はまだ先のようだ。
「僕達の仕事は犯人を捕まえる事でなくて、依頼人の命を守ることだ。依頼人の安全を確保してからでないと大きな動きはとれないよ」
「そんな、じゃあ、まだ」
「報道を見ただろう?ビルに爆発物が仕掛けられている可能性がある」
「それなら…っ、カルロさんはいつ出てこられるんですか?」
「それは兄さんしだいだ」
殺害予告をしてきた犯人を突き止めるのが、スミヤの任務。
依頼人をガードするのはカルロの任務だ。
あとはカルロが自身の任務を遂行しさえすれば、残りの仕事は警察にでも引き継げばいい。
「……どうして君が、それほど兄さんを気にかけるのか疑問だね」
「それはっ……当たり前です!だってこんなに危険な任務だし」
「……」
スミヤはじっと……ミレイの顔を見つめている。
機嫌を損ねたのかもしれない。ミレイがそう感じるような視線だった。
「君に何の得があるんだい。そうしていればいつか兄さんが君に関心を抱くとでも思うの?」
「得とか損とか…っ…そういう事じゃないです」
「君は何もわかっていない……」
怒っているのとは違う。
……そう、彼は憐れむような蒼い瞳をミレイに注いでいたのだ。
「兄さんがどういう人間か何も……知らないのに」
「──…っ」
「……そのお気楽さも、君の良さかな」
ミレイが何も返せずに黙っていると、スミヤもそこでその話を止めた。
「……」
「どうして僕じゃないんだろうね」
彼からしたら、ミレイはとても可哀想な女なのだろうか。
ガタン
「スミヤさん…っ」
「僕は家に戻ろうかな。君はちゃんとサンドイッチを食べなよ?もうすぐ飲み物も届くだろうし」
彼女の栗色の髪をとかすように頭を撫でて、スミヤは席を立った。
「兄さんはこんな事で死ぬような人じゃない。安心したらいいよ」
また何か酷いことをされるとミレイは思っていた。でも彼の用事は本当にそれだけのようで、ただ、そう告げて去っていく。
「よかったら!」
「……」
「…ッ 教えてほしい…、わたしに、カルロさんがどういう人なのかを──っ」
ミレイは彼が離れていく前に、その背中を呼び止めた。
「スミヤさんの言う通りです。わたしってカルロさんに避けられてる……から、だから」
向き合って話すことはもちろん、顔を合わせるのも嫌がらている。
「それは言い訳になるかもしれないけど、つまり、知らないんです!カルロさんを」
「……それで?知ってどうするんだい」
「何もできないけど、気になるの」
気になる
彼のことが気になる。
あの謎に包まれた人は、いったいわたしに何を隠しているんだろう。
「──…」
夜の遅くまで営業している食堂は、この時間になっても利用者が途切れない。
そんな食堂で、ミレイとスミヤの周りには二人を見比べている生徒が数人いた。
「……なら、ヒントをあげようかな」
呼び止められたスミヤは初めこそ戸惑っていたものの、ミレイがあまりに真剣なので、彼女の視線から逃れることなく微笑みを返した。
「兄さんは昔から……猫が好きだった」
「─ッ…ね こ…?」
「今だって好きなんじゃないかな」
「……!!」
それだけですかと
そう言いたいミレイの思いを先回りしてか、スミヤは最後に一言を付け足す。
「これは助言かもしれないし
──…忠告かも、しれないよ」
気を付けて──
意味深な物言いだった。そしてスミヤは去っていく。
食堂の入り口で、外から戻ってきたナツとスミヤがすれ違う。
ナツは三種類の飲み物を手に持ち、出ていこうとするスミヤに気付いて驚いていた。
さらに彼は、すれ違いざまにそっとスミヤに耳打ちされて、いっきに顔を赤くして焦燥する。
何を言われたのか知らないが
ミレイの頭は、謎かけのようなスミヤの言葉ですでにいっぱい。気にする余裕もなかった──。
──…
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