47 / 105
MISSION.2 ~護衛せよ~
しおりを挟む静かになった無線に指で触れ、ミレイは自身の頭を整理しようとする。
銀バッジ所持者に手錠をはめる。自分のミッションは成功した……。
で、ミッションの変更。
「今度は護衛しろ?って…」
「──ハァ」
「…っ…カルロさん」
カルロが面倒くさそうに溜め息をついている。
「どういう意味かわかりました?」
「……あんたは俺に手錠をはめた。俺はあんたを護衛する。あんたを狙って刺客が来る」
「…ッ、やっぱりそうなんですね」
「まさか奴隷が、主人に手を焼かせるとはな……」
冷たい目をして、ミレイを見上げた。
「こんな事になるなんて知らなくて…!!」
「口ごたえは、やめたら?」
「ごめんなさい」
「謝る暇があるなら、これを外せ」
手錠がよほど鬱陶しいようだ。
「……外し方も……知らなくて……っ」
「あんたの事情とかどうでもいい。早くしなよ」
それも当たり前なので、無理のある要求にもミレイはただ謝るしかない。
「……ごめんなさい」
「……ハァ」
彼女に打つ手はないので何もできない。
カルロは背もたれに首を預けて、まだ明るい空を仰ぎ見た。
「…っ…寝るんですか?」
「……寝る」
目を閉じたカルロ。
「でも刺客が来るんですよね!?」
「……ああ……向こうからのこのこ現れるらしい。それまで待てばいいんだろ」
「そうですけど…ッ」
怒っているようで、とくに気にしてないのだろうか。
彼は相変わらずのマイペースだ。
この非常事態に
「あんたも寝たら?」
普通の人間なら、寝ていられない。
それに……
「寝れません…これが、あるから」
「……?」
カルロの手首と繋がった鎖──。ベンチに座ろうにも、ミレイは彼の左側から離れることができないのだ。
もちろん彼がベンチの右側にずれてくれれば、座るスペースができるけれど
「…あ、そう」
当然、カルロは動かないから。
「刺客が来たら、起こせ」
「そんな無茶な…っ」
彼はそのまま眠りについてしまった。
ものの数秒で、スーっと寝息が聞こえ始める。なんという寝付きの良さだろう。
やれやれと困り顔のミレイは、視線を前に戻す。
“ こんな非常事態に寝られるなんて流石だな ”
何が起こっても動じないというのは、ガードマンたるうえで必要な能力だ。
それに、自分としても、彼が寝てくれたのは助かるかもしれない。
“ カルロさんと会話なんてできそうにないし… ”
無理に話題を探さなくていいだけラクだ。
───
それから十分ほどが経過する。
……が、とくに何も起こらない。
“ 三時間後に手錠が解除されると言っていたから、それまでの辛抱……よね ”
まだまだだなぁ、と
ベンチの横に立つミレイは、広場の様子をただ眺めていた。
図書館前のこの広場にはあまり生徒が集まらないようで
彼女が見るその光景はのどかだった。
そんな穏やかな光景に、一匹の猫まで歩いている。
“ 可愛いな、あの子 ”
猫を見つけたミレイは頬をゆるませた。
動物までいるなんて。本当に……ここが養成校の敷地の中だとは思えない。
白色の毛に黒い斑点模様のブチ猫だ。
野生の猫なんて珍しくて、彼女はもっと近付きたくて仕方がない。
すると……
ニャー
猫のほうから、こちらに近付いて来てくれた。
ベンチの方にとことこ歩いて来る。
ミレイは屈んで、自由に動かせる左手を差し出した。
猫は一度立ち止まり、差し出された手を見て首を傾げている。
“ おいで、おいで ”
声には出せないから心の中で彼女は呼び掛けた。
しかし残念なことに、猫はふいと顔をそらす──。
“ …っ、そっちは…! ”
そして猫が興味を示したのは、ミレイではなくカルロの履いた革靴だった。
足を組んで眠っているカルロ。
地面についている方の靴に、猫がちょんと手を伸ばした。
“ だ…!駄目だよっ ”
無線の音にも反応するカルロだ。触られでもしたら、あっという間に目を覚ます。
そして今までの経験上、寝起きの彼は機嫌が良くない。
チョン、チョン
「 ニャー 」
「……っ」
そんな事を知る筈もない猫は、靴の先を何度もつっついた。
そしてあろうことか……爪を立てて引っ掻き出す。
ガリッ
“ それは爪研ぎじゃないのよ! ”
それを見るミレイは、心中穏やかでいられなかった。
ガリ、ガリ、ガリ
よほど気に入ったのか、猫は楽しそうに靴を引っ掻いていた。
ミレイはそーっと目線を上げる。
「……!!」
すると予想通り、カルロは目を開けていて、伏し目がちに真っ直ぐ猫を睨んでいた。
「……」
しかも無言。怖すぎる。
“ ひゃあ~っ ”
ミレイの心の中で悲鳴があがる。
「……おい、あんた」
「はい!」
「足元のこいつを引っぺがせ。俺が、蹴り飛ばす前に」
「わ、わかりました…っ」
睨む目を動かさずカルロは彼女に命令する。
ミレイは腕を伸ばすと、半ば強引に猫を彼から離した。
すると猫は、いやいやと腕の中でもがく。
片腕なので抱きにくいが、なんとか彼女は猫を抱き寄せた。
「…あれ?この子、首輪してる」
ふさふさの毛を撫でながら、首を曲げて覗きこんだミレイは細い首輪を見付けた。
「飼い猫だったのかな」
「……」
でも、誰の?
「あ……ちょっと待って、逃げないで」
腕の中で一回転した猫を、膝の上にのせてあやす。
向こうから近付いてきた事を考えると、飼い猫という線もあながち間違いではないかもしれない。
それなら迷子だろうか。
飼い主はどこにいるんだろう。
“ もうすぐ夕方で暗くなってしまう……心配だな ”
「カルロさん…」
「……」
「この辺りに誰かの家って無いですよね?どこの子なんだろう……」
「──…そいつは、囮か、爆弾だな」
.....
「──」
──ズガン!!!
次の瞬間、カルロが胸元から取り出した短銃が火を吹いた。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。



百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる