歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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MISSION.2 ~護衛せよ~

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 静かになった無線に指で触れ、ミレイは自身の頭を整理しようとする。

 銀バッジ所持者に手錠をはめる。自分のミッションは成功した……。

 で、ミッションの変更。

「今度は護衛しろ?って…」

「──ハァ」

「…っ…カルロさん」

 カルロが面倒くさそうに溜め息をついている。

「どういう意味かわかりました?」

「……あんたは俺に手錠をはめた。俺はあんたを護衛する。あんたを狙って刺客が来る」

「…ッ、やっぱりそうなんですね」

「まさか奴隷が、主人に手を焼かせるとはな……」

 冷たい目をして、ミレイを見上げた。

「こんな事になるなんて知らなくて…!!」

「口ごたえは、やめたら?」

「ごめんなさい」

「謝る暇があるなら、これを外せ」

  手錠がよほど鬱陶しいようだ。

「……外し方も……知らなくて……っ」

「あんたの事情とかどうでもいい。早くしなよ」

 それも当たり前なので、無理のある要求にもミレイはただ謝るしかない。

「……ごめんなさい」

「……ハァ」

 彼女に打つ手はないので何もできない。

 カルロは背もたれに首を預けて、まだ明るい空を仰ぎ見た。

「…っ…寝るんですか?」

「……寝る」

 目を閉じたカルロ。

「でも刺客が来るんですよね!?」

「……ああ……向こうからのこのこ現れるらしい。それまで待てばいいんだろ」

「そうですけど…ッ」

 怒っているようで、とくに気にしてないのだろうか。

 彼は相変わらずのマイペースだ。

 この非常事態に

「あんたも寝たら?」

 普通の人間なら、寝ていられない。

 それに……

「寝れません…これが、あるから」

「……?」

 カルロの手首と繋がった鎖──。ベンチに座ろうにも、ミレイは彼の左側から離れることができないのだ。

 もちろん彼がベンチの右側にずれてくれれば、座るスペースができるけれど

「…あ、そう」

 当然、カルロは動かないから。

「刺客が来たら、起こせ」

「そんな無茶な…っ」

 彼はそのまま眠りについてしまった。

 ものの数秒で、スーっと寝息が聞こえ始める。なんという寝付きの良さだろう。

 やれやれと困り顔のミレイは、視線を前に戻す。

“ こんな非常事態に寝られるなんて流石だな ”

 何が起こっても動じないというのは、ガードマンたるうえで必要な能力だ。

 それに、自分としても、彼が寝てくれたのは助かるかもしれない。

“ カルロさんと会話なんてできそうにないし… ”

 無理に話題を探さなくていいだけラクだ。



───


 それから十分ほどが経過する。

 ……が、とくに何も起こらない。

“ 三時間後に手錠が解除されると言っていたから、それまでの辛抱……よね ”

 まだまだだなぁ、と

 ベンチの横に立つミレイは、広場の様子をただ眺めていた。

 図書館前のこの広場にはあまり生徒が集まらないようで

 彼女が見るその光景はのどかだった。

 そんな穏やかな光景に、一匹の猫まで歩いている。

“ 可愛いな、あの子 ”

 猫を見つけたミレイは頬をゆるませた。

 動物までいるなんて。本当に……ここが養成校の敷地の中だとは思えない。

 白色の毛に黒い斑点模様のブチ猫だ。

 野生の猫なんて珍しくて、彼女はもっと近付きたくて仕方がない。

 すると……


ニャー


 猫のほうから、こちらに近付いて来てくれた。

 ベンチの方にとことこ歩いて来る。

 ミレイは屈んで、自由に動かせる左手を差し出した。

 猫は一度立ち止まり、差し出された手を見て首を傾げている。

“ おいで、おいで ”

 声には出せないから心の中で彼女は呼び掛けた。

 しかし残念なことに、猫はふいと顔をそらす──。

“ …っ、そっちは…! ”

 そして猫が興味を示したのは、ミレイではなくカルロの履いた革靴だった。

 足を組んで眠っているカルロ。

 地面についている方の靴に、猫がちょんと手を伸ばした。

“ だ…!駄目だよっ ”

 無線の音にも反応するカルロだ。触られでもしたら、あっという間に目を覚ます。

 そして今までの経験上、寝起きの彼は機嫌が良くない。

チョン、チョン

「 ニャー 」 

「……っ」

 そんな事を知る筈もない猫は、靴の先を何度もつっついた。

 そしてあろうことか……爪を立てて引っ掻き出す。

ガリッ

“ それは爪研ぎじゃないのよ! ”

 それを見るミレイは、心中穏やかでいられなかった。

ガリ、ガリ、ガリ

 よほど気に入ったのか、猫は楽しそうに靴を引っ掻いていた。

 ミレイはそーっと目線を上げる。

「……!!」

 すると予想通り、カルロは目を開けていて、伏し目がちに真っ直ぐ猫を睨んでいた。

「……」

 しかも無言。怖すぎる。

“ ひゃあ~っ ”

 ミレイの心の中で悲鳴があがる。

「……おい、あんた」

「はい!」

「足元のこいつを引っぺがせ。俺が、蹴り飛ばす前に」

「わ、わかりました…っ」

 睨む目を動かさずカルロは彼女に命令する。

 ミレイは腕を伸ばすと、半ば強引に猫を彼から離した。

 すると猫は、いやいやと腕の中でもがく。

 片腕なので抱きにくいが、なんとか彼女は猫を抱き寄せた。

「…あれ?この子、首輪してる」

 ふさふさの毛を撫でながら、首を曲げて覗きこんだミレイは細い首輪を見付けた。

「飼い猫だったのかな」

「……」

 でも、誰の? 

「あ……ちょっと待って、逃げないで」

 腕の中で一回転した猫を、膝の上にのせてあやす。

 向こうから近付いてきた事を考えると、飼い猫という線もあながち間違いではないかもしれない。

 それなら迷子だろうか。

 飼い主はどこにいるんだろう。

“ もうすぐ夕方で暗くなってしまう……心配だな ”

「カルロさん…」

「……」

「この辺りに誰かの家って無いですよね?どこの子なんだろう……」

「──…そいつは、オトリか、爆弾だな」



.....



「──」



──ズガン!!!



 次の瞬間、カルロが胸元から取り出した短銃が火を吹いた。





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