歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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退学危機!

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 ミレイがこの謎の男とともに連れてこられたのは中央図書館の地下だった。

 警察の取り調べ室よろしく、密閉された部屋。

 ミレイ達は椅子に座り、四角いテーブルを挟んで向かいにスーツ姿の指導官がひとり、その背後に立っているのが二人。

“ 心なしか、寒く感じる…… ”

 無機質な素材で作られたその部屋は、冷たい印象を彼女に与えた。

 しかしそんなことを気にしている余裕はない。

 ミレイは今、厳しい顔の指導官を前に縮こまっていた。

「立ち入りが禁止だということはわかった上で、君達は中に入ったのだね?」

「……はい」

 ミレイは昔から優等生タイプだったから、校則を破って怒られるなんて経験がない。

 対処のしかたもわからず、ただ謝り続けた。

「本当にごめんなさい…!!」

「LGAの生徒であるのは確かなのかね?学生証を見せなさい」

「…あッ…はい!」

 言われた通りに、写真とID付きの学生証をテーブルの上に出した。

 指導官はそれを受け取った後、彼女の隣──背もたれに寄りかかってまた寝ようとしている男に顔を向けた。

「君もだ、出しなさい」

「……持っていない」

「外部の人間か?」

「…生徒だ…ファ」

 反省の色など微塵も出さず、大あくび。

“ やっぱりこの人、生徒だったんだ… ”

 横のダルそうな男を盗み見る。

「……!?」

 するとミレイは、彼が羽織るニット地の上着の影から、ちらりと覗く銀色のバッジを見つけた。

 こんな人でも銀バッジを持てるのか!

 声には出せないが衝撃的だ。


 ──そしてそのバッジを見付けたのは指導官も同じだった。


「君は……」

「教官殿、この生徒は…っ」

「何か知っているのか?」

 後ろに立つ職員のひとりに目配せすると、何か思い出したらしいその職員に耳打ちされる。

「──…の生徒です」

「なるほどな……彼がそうなのか……」

 見定めるように目を細め、前を見る指導官。

“ 有名な人なのかな? ”

 この学園に来て日も浅いミレイは何も知らないが、どうやらこのダル男さんはただの生徒ではないらしい。

「いちおう問うが、あの部屋で何をしていた?」

「……寝ていた」

「ハァ……やはりそうか……」

“ その理由で納得しちゃうの!? ”

 そのやり取りに突っ込んでしまうのは、何も知り得ぬミレイだけ。

「……あそこは静かでいい。たまに来る掃除ロボが俺を押しのけようとする以外はな……」

 反省どころか文句を言い始めた。

 ロボットは悪くない。ロボットに罪はない。

 指導官はやれやれと首を振りつつ、これ以上のやり取りを放棄してしまった。

「わかった、もういい。──…して、君の方は?」

「……わたし?」

「そうだ……。君は何をしていたのかね?」

 ターゲットが彼女に移る。

 上手い言い逃れを思い付かなかったので、ミレイは正直に話すことにした。

「どうしても見たい資料があって……」

「──資料?」

 ミレイは言葉を間違えた。もし彼女がここで「資料」ではなく「本」と言葉を濁していたなら、指導官の態度も変わっていただろうに……。

「それはどういった資料なんだ」

「LGA学園が過去に請け負った依頼を記録した資料です」

「……!!」

 彼女の答えを聞いて指導官の顔に険しさがつもる。

 ここで漸く、ミレイは自身の失言に気が付いた。

 指導官は提出された学生証を──そこに書かれた名前と学年を確認した。

「君は今年度の新入生だな?」

「はい…っ」

「授業二日目にして早くも校則違反とは……。まさかその資料を見るがための入学か?」

「そ、それは」

 指導官の言うことはハズレではない。彼女がLGAに入学した目的のひとつは確かに、恩人の手がかりを掴むこと。

 ──しかし、ここで「そうです」と答えるほど、ミレイの頭は鈍くなかった。

 ミレイは返事を言いよどんだ。

「……っ」

「我が校にスパイを送る組織はいくらでもいる」

「…!? 違います!わたし、スパイなんかじゃ…っ」

「信用ならんな」

 だがもはや彼女の失言はとりつくろえない。

 情報とは、このボディーガードの世界において重要な武器であり弱点だ。

 入学したての生徒が手を出していいものではないのである。

「思ったより深刻な話かもしれん。君はここで待っていなさい。上の者に報告してくる」

「待ってください!わたしは本当に…──ッ」


──バタン


 ミレイの呼び止めは聞き入れられず、三人の大人達は彼女の処分を決めるために部屋から出て行った。





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