28 / 105
退学危機!
しおりを挟むミレイがこの謎の男とともに連れてこられたのは中央図書館の地下だった。
警察の取り調べ室よろしく、密閉された部屋。
ミレイ達は椅子に座り、四角いテーブルを挟んで向かいにスーツ姿の指導官がひとり、その背後に立っているのが二人。
“ 心なしか、寒く感じる…… ”
無機質な素材で作られたその部屋は、冷たい印象を彼女に与えた。
しかしそんなことを気にしている余裕はない。
ミレイは今、厳しい顔の指導官を前に縮こまっていた。
「立ち入りが禁止だということはわかった上で、君達は中に入ったのだね?」
「……はい」
ミレイは昔から優等生タイプだったから、校則を破って怒られるなんて経験がない。
対処のしかたもわからず、ただ謝り続けた。
「本当にごめんなさい…!!」
「LGAの生徒であるのは確かなのかね?学生証を見せなさい」
「…あッ…はい!」
言われた通りに、写真とID付きの学生証をテーブルの上に出した。
指導官はそれを受け取った後、彼女の隣──背もたれに寄りかかってまた寝ようとしている男に顔を向けた。
「君もだ、出しなさい」
「……持っていない」
「外部の人間か?」
「…生徒だ…ファ」
反省の色など微塵も出さず、大あくび。
“ やっぱりこの人、生徒だったんだ… ”
横のダルそうな男を盗み見る。
「……!?」
するとミレイは、彼が羽織るニット地の上着の影から、ちらりと覗く銀色のバッジを見つけた。
こんな人でも銀バッジを持てるのか!
声には出せないが衝撃的だ。
──そしてそのバッジを見付けたのは指導官も同じだった。
「君は……」
「教官殿、この生徒は…っ」
「何か知っているのか?」
後ろに立つ職員のひとりに目配せすると、何か思い出したらしいその職員に耳打ちされる。
「──…の生徒です」
「なるほどな……彼がそうなのか……」
見定めるように目を細め、前を見る指導官。
“ 有名な人なのかな? ”
この学園に来て日も浅いミレイは何も知らないが、どうやらこのダル男さんはただの生徒ではないらしい。
「いちおう問うが、あの部屋で何をしていた?」
「……寝ていた」
「ハァ……やはりそうか……」
“ その理由で納得しちゃうの!? ”
そのやり取りに突っ込んでしまうのは、何も知り得ぬミレイだけ。
「……あそこは静かでいい。たまに来る掃除ロボが俺を押しのけようとする以外はな……」
反省どころか文句を言い始めた。
ロボットは悪くない。ロボットに罪はない。
指導官はやれやれと首を振りつつ、これ以上のやり取りを放棄してしまった。
「わかった、もういい。──…して、君の方は?」
「……わたし?」
「そうだ……。君は何をしていたのかね?」
ターゲットが彼女に移る。
上手い言い逃れを思い付かなかったので、ミレイは正直に話すことにした。
「どうしても見たい資料があって……」
「──資料?」
ミレイは言葉を間違えた。もし彼女がここで「資料」ではなく「本」と言葉を濁していたなら、指導官の態度も変わっていただろうに……。
「それはどういった資料なんだ」
「LGA学園が過去に請け負った依頼を記録した資料です」
「……!!」
彼女の答えを聞いて指導官の顔に険しさがつもる。
ここで漸く、ミレイは自身の失言に気が付いた。
指導官は提出された学生証を──そこに書かれた名前と学年を確認した。
「君は今年度の新入生だな?」
「はい…っ」
「授業二日目にして早くも校則違反とは……。まさかその資料を見るがための入学か?」
「そ、それは」
指導官の言うことはハズレではない。彼女がLGAに入学した目的のひとつは確かに、恩人の手がかりを掴むこと。
──しかし、ここで「そうです」と答えるほど、ミレイの頭は鈍くなかった。
ミレイは返事を言いよどんだ。
「……っ」
「我が校にスパイを送る組織はいくらでもいる」
「…!? 違います!わたし、スパイなんかじゃ…っ」
「信用ならんな」
だがもはや彼女の失言はとりつくろえない。
情報とは、このボディーガードの世界において重要な武器であり弱点だ。
入学したての生徒が手を出していいものではないのである。
「思ったより深刻な話かもしれん。君はここで待っていなさい。上の者に報告してくる」
「待ってください!わたしは本当に…──ッ」
──バタン
ミレイの呼び止めは聞き入れられず、三人の大人達は彼女の処分を決めるために部屋から出て行った。
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる