歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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LGA学園

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「…えっ…君、女?」

「……っ」

 式が終わり退場待ちをしている間、隣の男が素っ頓狂スットンキョウな声をあげてミレイを見下ろした。

「そうよ」

 別に隠すつもりもないが、女だとばれるのは緊張する瞬間だ。

「びーびったー。背が低いから変だと思ったんだ。何センチ?」

「162センチ」

「小っさ…っ、いや、女だと高い方なのか?…というか名前は?こっち先に聞くべきだよな、ごめん」

「……ふふ、枢木よ」

 初対面なのによく喋る男だ。

 だが敵意は感じない。とりあえずミレイは胸を撫で下ろす。

「俺は久保山クボヤマ

「久保山くんね」

「そ、久保山 ナツ」

 歳は彼女と同じ、18歳だそうだ。

“ 雰囲気とか話し方とか、親しみやすい人だなー ”

「枢木…さんって変わってるよな、こんな所に来るなんて。別に男勝りな性格ってわけでもなさそうだけど?」

「うん……実はね、お母さんがここの卒業生なんだ。それがきっかけ」

「へえ~」

 親子そろって変わり者だ。

 そう思ったが、しかしナツはミレイを馬鹿にしたりしない。

 理由がなんであれ彼女が女であれ、入学できた以上その実力は保証済みだから。

「──にしても、長かったなぁ理事長の話!何度寝そうになったことか」

「…クスッ…寝そうになったの?それでよく三次試験合格できたね」

「三次試験、ってあの……24時間不眠不休で百マス計算のあれか……。あれはマジで、死ぬかと思った」

 一次試験は、語学を中心とした筆記テスト。

 二次試験は体術をみる実技テスト。

 そして最後にくるのが集中力を試すための百マス計算だ。

 この集中力こそがガードマンになる上で最も重要な要素である。

「あの試験は鬼畜だよな」

「そうだねぇ」

 とはいっても、試験会場を包む重苦しい空気が、今も忘れられない。

「……その話は、やめだ」

「……そだね」

 二人は話題を変え、そこから寮の近くの食堂に向かうことにした。



 LGAの生徒は寮生活である。

 さらにこの広大な学園には生活に必要なものの全てをそろえてあり、一部の者以外は、敷地の外に出ることもできない。

 卒業するまで完全に隔離された世界で訓練を受けるのだ。

 辛くても厳しくても逃げ道のないこの生活では、脱落者は後をたたない。

 とにもかくにも食堂に到着した二人。

「まるでレストランだね」

 その内装はどこかの小洒落たレストランを連想させる。

 学園の生徒全員が利用する食堂であるから、その広さは尋常ではない。

 圧倒されているのは二人だけでなく、新入生のほとんどだった。

「凄いよなぁ。生徒全員にこんな贅沢させるとはさすがLGA……金持ち校だよな」

 ちなみにここでの食事は何を食べても無料。おかわりも自由だ。

「いい匂い、お腹減ってきたね。あっちで配膳されてるみたい、行こう!」

「おう」

 食堂の入り口に立ち止まっていると、行き交う生徒が不審な目で《 女 》である自分を見てくる。

 その視線から少しでも逃げたくて、彼女はナツを急かした。

「俺はどんぶり」

「わたしは定食」

 好みの別れた二人はそれぞれの列に並んで配膳を待つことに。

“ 定食にもいろんな種類があるのね……迷うな ”

 並んでいる間にメニューをめくりながら悩むミレイ。気になる料理がいくつかあるけれど……

“ 初日は、やっぱり定番で ”

「あの、唐揚げ定食をお願いします」

 厨房で働く同年代の女の子に注文した。

「はーい、…って、え?」

「唐揚げ定食を……」

「わぁ、女の子だわ!そうでしょう?」

「あ、……うん」

 このやりとり、何度目だろうか。

「あなたは新入生?」

「そうです」

「今年は女の入学生もいたのね!でも……ほら、食堂のメニューって全部男向けでしょう?なんだか申し訳ないわ」

「そんなことないよ。唐揚げ大好きよ」

「それなら良かった、あ、いけないっ」

 厨房の彼女は思い出したように急いで盛り付けを始めた。

「はい!おまちどおさま。量は少な目にしておいたけど、いい?」

「ありがとう、助かる」

 大の男と同じ量は食べていられない。

 少な目に盛られた皿を受け取り、ミレイは空いているテーブルについた。

 良い色味の唐揚げに、キャベツの千切り。まさに定番の組み合わせだ。

 定食だから味噌汁も付いている。

 腹の虫が鳴きそうだが、ご飯を前に気を抜いている余裕はなかった。

“ ここで昼食をとったら、寮に行って自分の部屋を探さなきゃ。預けた荷物も届いている筈だし…明日からの授業にそなえて必要な準備も… ”

 明日にはすぐに訓練が始まるから、やる事はたくさん。

「冷める前に食べたいし…。でも、久保山くんを待つべきかな」

 味噌汁から上がる湯気を見ながらミレイは呟いた。



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