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君がくれたもの

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 久しぶりに走った。


 一度は見失った彼女を探して、団地の中を走って、走って。


 俺は心臓が壊れそうだ。


 でも見付けないといけない。


 これはきっと、運命だから──。


 俺はこれを逃しちゃいけないんだ。





──









 そして、やっと見付けた。


 赤い屋根の家から坂を下った先にある公園。


 端っこの砂場で丸くなって、そこで彼女は泣いていたんだ。








 晴れの日の夕方なのに、この公園で遊ぶ人はいない。


 これだけ寒い日にはどんなに活発な子供だろうと家の中に閉じこもる。


 だからその涙を見る人は──…いや


 もしそうでなくても、君の姿を見る人は──。









「…ッ…さっきの……子がね、……わたしに自慢するんだぁ……」


 砂場の縁に立って君の背中を見下ろす俺に向けて、君は口を開いた。


「……自分の耳と、尻尾は……いなくなった猫に、そっくりなんだ って……ッ──だから、自分は、ご主人様に…選んで…もらえたって」


 砂にまみれて汚れたワンピースの裾を、握りしめながら。


「…この耳と尻尾で 生まれてきてっ…よかったんだっ……って……でも ね、ご主人様は、『 お前は鼻も可愛いね 』って褒めてくれる……らしいの。──それってさ…ッッ…!!」


「──…」


「……それなら…さ、わたし、絶対に……勝てない じゃんかぁ……!!」


「……そうだな」


 耳と尻尾が同じで


 向こうは鼻まで可愛いなら、自分に勝ち目なんてないって、まるで彼氏にフラれた女みたいに……君は嘆いていた。



 まるで、じゃないか。


 君は帰る場所を失ったんだ。


 大切な人を奪われたんだ。代わりの存在に。







「…ぅ……ぅぅ、フっ……ぐ、う……!!」



 君の嗚咽がやまない。


 こういう時にはどうするのが正解なんだろう。


 なんて声をかけるのが正しいんだろう。



「……すぐ迷子になるくせに、家から出た君が悪いんだろ」



 俺は、気の効いた言葉なんて知らない。



「迷子になったの初めてじゃないだろ」


「……ぅ、……!?」


「四年前にも同じことをしただろ。家に帰れなくなった……その時に、会っただろ。俺と、ここで」






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