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第五巻

永遠の別れ

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 …─── 





『 焔来! 良かったここにいたのか 』



 どうしたの? 父さん、そんなに慌てて


 …っ…お、俺はこれから馬の世話をしようとしてたとこだよ!


 べつに遊んでたわけじゃないし…っ



『 そんな事はいいから、話を聞きなさい! 』



 え……?



『 時間がない。お前は今すぐ村を出るんだ 』



 え、ちょ……っ


 なに……言ってるの? 



『 急ぎなさい焔来! 』



 馬舎の裏にいた俺を見付けて、青い顔をした父さんがそんなことを言ってくるから


 …俺は、なんだか怖くて



『 ……よく聞きなさい 』



 聞きたく…ないよ



『 近頃この村で若い娘が三人、姿をくらませているのは知っているだろう? 』



 知ってる


 そのひとりは、俺の友達の姉ちゃんだから



『 ──今、村は大騒ぎだ。…っ…神隠しを鬼の仕業だと思いこみ、鬼狩りが始まっている! 』



 鬼狩り──


 それって、俺たちのことなの?



『 ……そうだ 』



 このままだと殺されてしまうって、低い声で父さんから告げられる


 本当に時間がないんだね


 言葉を選ばない父さんの様子から、余裕がないことが伝わってくるよ



 でも…っ…それって変だよね


 俺たちは鬼だけど…鬼なだけで


 誰も殺してないのに


 なのに、殺されるなんて、変だよね



『 ……その通りだ 』



 なら逃げなくていいじゃん!


 悪いことしてないもん!



『 今は言うことを聞きなさい! 持たせられる荷物は少ないが…これを持ってお前ひとりで… 』



 俺だけ?


 どうして俺だけが出ていかなきゃいけないの?


 俺はどうしても納得できなくて、聞き分け悪く駄々をこねた


 村を出たくなかったし


 ひとりになるのも嫌だった



『 焔来……! 』



 すると父さんの後ろに、目を腫らした母さんが現れた


 俺は母さんに訴えた


 出ていきたくないって


 …それを聞いて、母さんはまた涙を流した



『 ごめんなさい…焔来、ごめんなさい… 』



 母さんの泣き顔はとても綺麗だ


 俺まで…もらい泣きするくらいに



『 ひとりは心細いでしょう。…でも仕方がないの。お前だけなら、村から消えても…しばらくの間なら誤魔化せられるから…っ… 』


『 父さんと母さんが村に残って時間をかせぐ。その間にお前だけでも……! 』 



 いやだ


 いやだ、いやだいやだいやだ!



『 焔来! 』



 いやだよそんなの…っ


 俺も一緒にいさせて


 殺されたっていいから、俺もここにいさせて!



『 それは駄目だ 』



 父さんは強く言い切った


 風呂敷に包んだ荷物を俺に押し付ける


 俺は──悔しくて悔しくて、ひとりぼっちなんて絶対に嫌だったけど、泣きながらその風呂敷を受け取った



『 お前だけは生き残ってくれ 』



 父さんと母さんの意思は固くて、絶対に変わらない


 それを頭のどこかではわかってたんだと思う







『 どうか生き残ってくれ。
  お前は…──皆(ミナ)の希望なんだ 』



 皆って…だれだよ



『 いつかわかる 』



 わからないよ


 俺は反抗的に、上目遣いで両親を見た


 母さんは相変わらず泣いていて、着物で顔を隠している


 最後くらい…しっかり顔を見せてよ


 俺、村の誰よりも綺麗な母さんの顔、大好きなんだよ


 友達がよく聞いてくるんだ、お前んちの母ちゃん、どうしてあんなに綺麗なのって


 そんな時にはいつも、そりゃあ俺の母さんだからだって、大声で自慢するんだ


 母さん……



『 焔来…っ、どうか、幸せになっておくれ…! 』



 …幸せに?


 なれるもんか


 こんなふうに母さん泣かせて


 父さんとも離ればなれになって…ひとりぼっちで


 幸せになんてなれるもんか


 最後の最後に俺は、酷い言葉を投げつけた


 ハッとした父さんをひと睨みして、俺は後ろへ振り返り、風呂敷を抱えたまま走り出した


 このくらいの自分でいないと…足が動いてくれなかった


 今まで楽しかったとか


 二人の子供に生まれてきて良かったとか


 言いたいことは山ほどあるけれど、そんなの声に出してしまったら…きっと俺は動けなくなる


 赤ん坊みたいにわんわん泣いて、荷物なんか放り出して母さんに抱き付いて…


 そうなるのが目に見えているから


 俺は黙っていた




『 焔来…っ…どうか、人間を恨まないで 』




 母さんの声が背中を追いかけてくる


 届いた言葉から、俺は必死に逃げる


 そんなの…無理だよ


 恨まないなんて、無理だよ


 だって人間は……俺から両親を奪ったんだ






 俺の大切な人たちを──殺したんだ













 ───…










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