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儚き運命
儚き運命_4
しおりを挟む『 何故お前は此処に来た…… 』
純潔を奪われたあの夜の、彼の言葉がよみがえる。
「ならわたしのせいで…!! 」
天よりローに告げられた、残酷な預言。
" 人 " が誰を指し示しているのかは明白だ。
『 お前が泣くのか……。
ふっ……おかしな事だな 』
わたしが……此処に来たから
此処に足を……踏み入れたから…っ
「ロー……!! 」
あなたは全てを知っていたの?
こうなることも、全部……
「…セレナ」
動揺する彼女を、ローは真っ直ぐな瞳で見つめた。
──…もし預言の者が現れたならば、その場で八つ裂きにする。
我等の聖地に足を踏み入れるような輩は生かしてはおけない。
……その筈であった。
だがどうしたことか
我等にとって死神である筈のその預言の人間は、か細く、可憐な、見るからに弱々しい……、震えるだけの娘だった。
私は憤りを覚え、同時に興味を持った。
こんな女が…──私に滅びを与えにきたのか。
これから我等を襲う終焉を、この娘がもたらすのか……と。
それが、結局…──
「……此処へ来い、セレナ」
ローは彼女に片手を差し出す。
セレナは走り出した。
兵士達を押しのけ、彼の立つ岩場に向かって駆け出した。
「セレナ様!危ないっ…!」
「戻りなさいセレナ!」
兵士や父親の制止を無視して、セレナは彼のもとに向かった。
「ハァ…ハァ…ッ、ロー…!! 」
差し出された白く美しい指先に彼女が自分の手を重ねると、ローはその手を掴み力強く引き寄せる──。
「…っ…ロー…!! 」
「……」
「わたしのせいでっ…こんな、事に…!! 」
「…ふっ…確かにお前のせいだ」
銃弾を浴び血を流す腕でセレナを包み込んだ。
「だが……お前ごときが私を滅ぼしたつもりになるようでは、困る」
「でも…──ッ」
「お前はただ滅びの時を伝えに来たにすぎない」
伝えに来た挙げ句の果てに
我等を想って涙を流した…………それがお前だ。
「……案ずるな」
天は御存じだったのだ。
私が人間に情を抱いた時…──
此れすなわち、我等の破滅を導くと。
「……ッ? 」
「此処から先は──総てが運命」
このシナリオの結末は
天のみぞが決めた事──。
抱き合う二人の姿を茫然と眺める兵士達は、武器を持つ腕に何故か力が入らない。
そんな中、アルフォード侯が落ち着いた口調で彼女を諭す。
「…セレナ、離れなさい」
「お父様…っ」
そして彼は……その声を娘と抱き合うローに向けた。
「銀狼よ。娘が何を言おうと……我々人間は貴様を生かしておく訳にいかない」
「──…」
狼だけに非があるとは
人間だけに非があるとは、決して思わない。
「それでも、狼が人を襲い、喰らう以上……見逃す事は断じてできないのだ」
「でもっ、お父様…!! 」
「──…此処にいる兵士達の中にも、妻子や親を彼等に殺された者が大勢いる」
「……!! 」
侯爵の言葉を聞いたセレナの眉が、辛さを映して歪む。
黙って耳を傾けていたローは、唇を噛んだ彼女を見下ろして笑った。
....
「……ふっ」
ガシッ
「…きゃ…!? 」
セレナの左手をきつく握りしめ
突然の行動に怯んだ彼女の顔を見つめながら、ローは口を開け、其の牙を剥き出した。
「──ッ‥ぁ‥!! 」
ブスリと生々しい音が聞こえ、肌が突き破られる。
彼女の左手首に喰らい付いたローは、肉を噛み千切る前に牙を抜いた。
「‥ッッ‥ロー‥!? 」
深々と付けられた噛み痕から、痛みと共に血が湧き出る。
ローはそのままセレナの首を掴んだ。
そして、彼女の身体を引き剥がす。
「‥ッ‥!! ‥苦しっ‥イ」
首を掴まれ苦しげに呻いた彼女を、ローが構うことなく宙に持ち上げる。
「──セレナ!!」
蒼白となって叫んだ侯爵を彼は嘲笑った。
「我等はただ……捕食をしたまでだ人間共よ」
「……!?」
「何を咎めることがある?……それとも貴様等の真似事でもしろと言うのか。喰らう前に手元において、大切に飼い慣らせ……と?」
「…な…っ…!! 」
「──…この女にしてやったように」
ギラリと牙をちらつかせ
馬鹿にした口調で話すこの男に
「──…!!」
兵達は怒りで肩を震わした。
──
「──…ふざけるな」
ひとりが口を開いた。
「……ッ…」
セレナは何とか声を出そうとするも、首に巻きつく指がそれを許さない。
「…この…化け物め…!! 」
違う……やめて…──ッ
「弟の仇だ…ッ…殺してやる…」
こんなの……嫌よ…!!
ガチャ...
殺気を取り戻した銃口が再びローに向けられる。
「…ケホッ……イヤだ…っ…!! …止まっ て……ッ」
セレナの弱々しく無力な声は
「……」
ただひとり、ローにだけ届いていた──。
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