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掲げた使命
掲げた使命_4
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「わたしをお父様の所に行かせて!」
緑の青い匂いが漂う
木々の密生した森の中、悲痛な声が響く。
セレナを連れ戻そうとする若い二人の部下達だが、そう簡単にはいかなかった。
用意された馬に大人しく乗ろうとしない彼女を、最後は二人がかりで引っ張るしかなかった。
ついに諦め大人しくなったかと思えば……隙をついて逃げようとする。その度に部下達は彼女を追いかけなければならない。
「……ハァ…っ」
「セレナ様……もうお疲れでしょう、馬に乗ってください」
二人の部下のうちの、茶色い髪色の優しげな青年がそう声をかけた。それに対して──
「いい加減諦めてください。俺達だって本当は早くあなたを送り届けて皆と合流しないといけないのに…!」
少し後ろで馬の手綱を引く、もうひとりの黒髪短髪の青年は、憎々しげに彼女を睨んでる。
自分だけが戦力から外された
俺だって少しは戦力になる筈なのに……と、不満の思いを禁じ得ない。
「お前…っ、そんな言い方はやめろよ」
「だってそうだろ!これは遊びじゃない、みんな命をかけて来ているんだ。なのにセレナ様はこんな子供みたいに駄々をこねて……」
「……っ」
「……正直、不愉快なんだよ」
最後の一言は小さかったがセレナの耳に辛うじて届いた。
「セレナ様だって、僕達のことを心配して止めようとしているんだよ」
「──それが不愉快だって言ってんだ」
ひとりがセレナを庇い慌てて擁護するも、黒髪の青年は遠慮しない。
「俺達の覚悟はそんな軽くない。死ぬのが怖くて、狼討伐に志願するわけないじゃないか」
「討伐、討伐って…!! あなたたち狂ってるわ!」
セレナは立ち止まり後ろに振り返った。
「……何がッ…討伐…!! 」
「なっ…」
「こんなのただの殺しあいよ……」
殺し合いなんて、無い方がいい
そうに決まっている。
" 討伐 " なんて……人間の立場でつくりだした身勝手な言い分でしかない。
「狼にだって……生きる権利はある筈よ……」
怒る権利も、嘆く権利も人間だけの物ではない。
狼にだって……獣にだってある筈だ。
·····
「──…それは狼に同情しろって意味ですか」
その時、そう言って彼女の言葉に異を唱えたのは黒髪の部下ではない。先程までその隣でセレナを庇っていた青年だった。
「違う、ただ彼等にも言い分があるって言ってるの。あなた達は想像したこともないでしょうけど…っ」
「──同じことですよ」
時間の経過に連れて、彼の顔にかかる幽かな木洩れ日も、柔らかく変わっていき……青年の茶色の髪が緩やかに照らされていた。
「狼の言い分?そんなこと想像して何になるって言うんですか……!」
優しげな顔の丸い目尻がぐっと狭まり、その表情が険しくなる。
「セレナ様、僕は…僕たちは……っ」
「おい、どうしたラーイ。急に取り乱して……」
「ぇ──…ッ」
今、なんて…?
彼はなんて言った…?
「ラーイ?」
「……え」
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「…そう…ですけど」
「どうしてこんな時に…ッッ」
セレナは困惑し始めた。
頭の中を強い風が吹き荒れ、冷静さをなぎ倒し、彼女の顔から色を奪った。
“ こんな状況で、どうしてラーイの名前がわたしの前に現れるの ”
これではまるで……
「……そんなの……絶対にイヤ……!! 」
「お嬢様…!? っあの…すみません、僕、失礼な事を言って──」
セレナの様子が急変し、取り乱しかけていた青年は我に返る。
「──ッ 近付かないで!!」
「あっ!セレナ様!?」
心配した茶髪の青年が掴んだ手を振りほどき、セレナは彼の腰にさげられた短剣に手を伸ばした。
……それは一瞬の出来事。
「……!! 」
奪い取った短剣を前に構えるセレナ。
「──…お願い。わたしはお父様を止めに行くの、邪魔をしないで…!! 」
「止めに行くって……ッ」
此方に向けられた切っ先に怯んだ二人は、同時に一歩後ずさる。
いったい何なんだこの女は
侯爵の娘でありながら、いつまでも訳のわからないことを言って抵抗する……。
「…っいい加減にしてくれよお嬢様!なんで止めなきゃいけないんだよ、なんで狼を助けようとするんだよ!」
「僕たちは長官から、あなたを家まで送るように言われています。行かせるわけにはいかない…!! 」
目の前で剣を構えるセレナに対して二人は声を荒げた。女の剣にいちいち怯えてはいられない。
「早くそれを……返してください!」
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