44 / 63
討伐
討伐_1
しおりを挟む...コンコン
執務室の扉をノックする音。
「……!!…入りなさい…っ」
椅子に座っていたセレナの父親──アルフォード侯爵は、入ってきた部下を立ち上がって迎えた。
「セレナは…っ…見つかったのか…!? 」
「いえお嬢様はまだ…──っ。ご報告です。お嬢様を捜索していた二番隊の兵士三名が…!」
アルフォード侯の前で敬礼し、話し始めたのは、まだ黒い隊服が初々しい……セレナよりも若い茶髪の青年であった。
「……狼に襲われ、殉職いたしました」
「──…!」
アルフォード侯は、前に乗り出していた身体を椅子に戻した。
机に片肘をついて額に手をやる。
「何と言う事だ…!! 」
セレナが賊に拐われたあの日から、もう十日が過ぎている。
未だ娘の手掛かりは掴めず、そんな状況で後を追う新たな悲報に、彼はひとりの父親として、そして上官として、激しい憤りの中にいた。
「で、ですが長官殿!新しい手掛かりがあります」
そんな上官の様子を心配しながら、若いその部下は彼に報告書を渡した。
「兵士は森の中で発見されました。そして、遺体のそばのえぐられた大木にこれが……」
続けざまに提出したのは、長い動物の毛──。
「これは何だ…!? 」
それは一見白くも見えるが、光を反射させるとキラリと鋭く輝く。
……銀色の毛だった。
しかもかなりの長さで、持ち主の類い希な大きさを示している……。
「これが本当に動物の毛なのか」
そこまで言って、侯爵はある事を思い出した。
” 銀色の毛だと……!? “
それは自分がまだ子供だった時に聞かされた話。
ラインハルトの森に棲み付くと言い伝えられる伝説の生き物。
──…銀狼、という化け物を。
青年は報告を続けた。
「更に先日、奇妙な男が現れたと街人から情報が──」
その男は真っ黒な長毛のマントに身を包み
森に生息する珍しい薬草を商人達に差し出して、女物のドレスと食料を代わりに受け取って行ったという。
「その男は……それは見事な……銀髪の持ち主だったと、街で噂になっています」
「銀髪…──」
“ 馬鹿な…あれはただのおとぎ話 ”
「……」
だが確かに
消えたセレナ、同時期に現れた不審な男。
異様に長いこの、銀色の獣毛。
あの伝説の「銀狼」がいるのならば、同じく伝説の……奴等の聖地もまた存在する筈。
「…この銀毛が見付かったのは森のどの辺りだ」
アルフォード侯の声が冷静な上官の物へと戻った。それに対して部下の青年は静かに答える。
「お嬢様の行方が途絶えた場所──賊達の死体を発見したあの場所の、すぐ近くでございます」
「やはりそうか」
森の形状が示された地図を机いっぱいに広げ、アルフォード侯は再び椅子から腰を上げると落ち着いた口調で命じる──。
「街にいる全ての銃士隊に招集の命をかけなさい。狙いを定めた上で、この周辺を徹底的に調べ上げる必要がある」
これはセレナを救うためだけではない
「狼の巣窟がこの近くにあるのだ。必ず見つけ出す。そして銀狼……」
「……」
「いよいよ決着の時だ」
「では長官、ぜひ僕にも参加の許可を!」
「……、しかし君にはまだ銃の所持を許可していない」
「はい、ですが…っこのサーベルで」
「……」
「せめて、ひと太刀」
「そうか……君は確か母親を狼に…。
──いいだろう、同行を許可する」
「──…はっ!」
力強く敬礼をした青年は、一礼を済ませた後で執務室を出て行った。
───…
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。




今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる