銀狼【R18】

弓月

文字の大きさ
上 下
30 / 63
淫らな罠

淫らな罠_1

しおりを挟む

 セレナは桃色の森をひとりで歩いていた。

 地面はうっすらと背の低い草花で覆われ、若緑の絨毯が敷き詰められているかのように手触りも良い。

“ ラインハルトの崖の上に、こんな綺麗な場所があったなんて… ”

 垂れ下がった枝の花を愛でながら彼女はひとときの憩いを楽しんでいた。

『 あまり遠くへは行くな 』

 セレナをこの場所に連れてきたあの男は、そう彼女に念を押した。

 しかし彼の言い付けを守るつもりはない。

「誰があなたの言うことなんて…っ」
 
 隙をついて逃げないと、と、セレナは心の中で強がってみる。

 先程はする必要のない話をベラベラと喋ってしまったが、彼に心を開いたわけではないのだ。

“ ……でもここで逃げたら、どうやって街まで降りればいいのかしら ”

 そんなことを考えながら見上げた木々の、花びらの間──。

 先程から所々に実っている大きな果実に目が止まった。

「美味しそう…」

 はち切れそうに艶やかな見た目。

 だがどう考えても怪しい果実だ。

 一度、銀狼に与えられた消毒用の果実を誤って口にした前例があるから、彼女は食べ物に関して慎重になっていた。

“ でも結局…、昨日食べたのはパンだけだし… ”

 けれども空腹の彼女にしてみれば、目の前の食料は貴重だった。

 どうしようかと悩むセレナ──

 その時視界に舞い込んできたのは、一羽の小鳥だった。


「──…」


 枝に止まった小鳥は、彼女が見守る前でたわわに実った果実のひとつにその小さなくちばしを突っ込んだ。

 セレナはそれを見てはたと足を止める。

“ 食べてる… ”

 やっぱり美味しそう…。

 果実を食べる小鳥に異変はなく、毒は無いのだと知ることができた。

 小鳥が満足して飛び立つまで一部始終を観察したセレナは、我慢も限界で手近な実に手を伸ばした。

 はち切れんばかりの瑞々しい手触り…

 彼女はそれをもぎ取った。

“ 小鳥もなんともなさそうだし……平気よね? ”

 ズシリとした重さに驚きながら、自分を誘う甘い香りにそそのかされて慎重に歯を立てる。

 口の中に蕩けるような甘味…

 それと一緒に、強い渋味が広がった。

“ …っ…何かしら ”

 ──その原因はすぐに判明する。果皮が渋いのだ。

 気付いたセレナは皮をするすると剥いてから、中の果肉だけにかじりついた。

モギュ、モギュ、モギュ

「……うん、美味しい」

 苦もなく剥ける皮の渋味が嘘のようだ。

 少し甘すぎる気もするが、その甘さが一口食べるごとに身体の疲れを中和していき、口の内側から癒されていく…。

 ご満悦のセレナは樹木の根元、窪みに身を潜めて腰を下ろした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...