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淫らな罠
淫らな罠_1
しおりを挟むセレナは桃色の森をひとりで歩いていた。
地面はうっすらと背の低い草花で覆われ、若緑の絨毯が敷き詰められているかのように手触りも良い。
“ ラインハルトの崖の上に、こんな綺麗な場所があったなんて… ”
垂れ下がった枝の花を愛でながら彼女はひとときの憩いを楽しんでいた。
『 あまり遠くへは行くな 』
セレナをこの場所に連れてきたあの男は、そう彼女に念を押した。
しかし彼の言い付けを守るつもりはない。
「誰があなたの言うことなんて…っ」
隙をついて逃げないと、と、セレナは心の中で強がってみる。
先程はする必要のない話をベラベラと喋ってしまったが、彼に心を開いたわけではないのだ。
“ ……でもここで逃げたら、どうやって街まで降りればいいのかしら ”
そんなことを考えながら見上げた木々の、花びらの間──。
先程から所々に実っている大きな果実に目が止まった。
「美味しそう…」
はち切れそうに艶やかな見た目。
だがどう考えても怪しい果実だ。
一度、銀狼に与えられた消毒用の果実を誤って口にした前例があるから、彼女は食べ物に関して慎重になっていた。
“ でも結局…、昨日食べたのはパンだけだし… ”
けれども空腹の彼女にしてみれば、目の前の食料は貴重だった。
どうしようかと悩むセレナ──
その時視界に舞い込んできたのは、一羽の小鳥だった。
「──…」
枝に止まった小鳥は、彼女が見守る前でたわわに実った果実のひとつにその小さなくちばしを突っ込んだ。
セレナはそれを見てはたと足を止める。
“ 食べてる… ”
やっぱり美味しそう…。
果実を食べる小鳥に異変はなく、毒は無いのだと知ることができた。
小鳥が満足して飛び立つまで一部始終を観察したセレナは、我慢も限界で手近な実に手を伸ばした。
はち切れんばかりの瑞々しい手触り…
彼女はそれをもぎ取った。
“ 小鳥もなんともなさそうだし……平気よね? ”
ズシリとした重さに驚きながら、自分を誘う甘い香りにそそのかされて慎重に歯を立てる。
口の中に蕩けるような甘味…
それと一緒に、強い渋味が広がった。
“ …っ…何かしら ”
──その原因はすぐに判明する。果皮が渋いのだ。
気付いたセレナは皮をするすると剥いてから、中の果肉だけにかじりついた。
モギュ、モギュ、モギュ
「……うん、美味しい」
苦もなく剥ける皮の渋味が嘘のようだ。
少し甘すぎる気もするが、その甘さが一口食べるごとに身体の疲れを中和していき、口の内側から癒されていく…。
ご満悦のセレナは樹木の根元、窪みに身を潜めて腰を下ろした。
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