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還るべき地
還るべき地_1
しおりを挟むちょうどその頃──
森の入り口に、慌ただしく駆ける数頭の馬と、手に松明を持った男達がいた。
「──…!!!…長官! あちらを!」
先頭を走っていた若い男が馬を止めて後ろを振り返る。
「どうした?」
「あ、あれを……」
「……うっ…!! 」
男達は皆、一様に顔をしかめた。
それもその筈、彼等の目線の先には、無惨に喰い殺された盗賊達の死体が転がっていたからだ。
長官と呼ばれた男は馬を降り、賊達の末路を呆然と眺める。
「これは……狼の仕業か……!!」
それを聞いた銃士隊の部下たちは急いで馬を降りると、周りを囲むように外を向いて背にしていた銃を構えた。
獣の気配……今は、感じないが……
「こやつ等で間違いないのか……!? 」
「はい、この者達がお嬢様を拐った賊に間違い御座いません……」
「何ということだ…っ」
盗賊に拐われた愛娘を探してここまで来たというのに
……間に合わなかったのか?
よもや狼の奇襲にあっていようとは……っ。
「セレナ──…!」
セレナの父──アルフォード侯爵は、絶望のあまりその場に膝から崩れ落ちた。
「何故よりによってラインハルトの森に…ッッ」
娘を狙った賊達と、それを襲った狼。
そして、守れなかった自分自身──。
このやりきれない思いを何処にぶつけろと言うのだろうか。
壮年ながらも端正な顔を、激しい憤りに歪ませる。
しかし、盗賊たちの遺体を前にして、侯爵は違和感を覚えた。
「……!? 」
セレナの亡骸が見あたらない…。
血溜まりの惨状に目を凝らすも、ここに在るのは皆男の亡骸なのだ。
“ そんな筈は…… ”
混乱するアルフォード侯。
辺りを見渡すと、森の木々の隙間にひとつの古びた小屋が目に入った。
「まさか」
彼は小屋へと向かう。
不安と期待の入り交じった思いで、恐る恐る壊れたドアを開け──
……だが、中には誰もいなかった。
家具が散乱した木の床には、土足で踏み荒らされた跡がある。
中央の柱には、不自然に括り付けられたままのロープ。
「──…」
その先は鋭利な刃物で切られていた。
それはこの小屋に捕らえられていた " 誰か " が、逃げ出した跡とも考えられないだろうか。
“ セレナが、生きている…! ”
何処にもそんな確証はない。だが彼はそう信じたかった。
複雑な表情でアルフォード侯が小屋を出ると、入り口の周りでは部下達が指示を待っていた。
「──私はここにいつまでも留まる訳にいかない。セレナのことは…」
「お嬢様の捜索は、我ら二番隊にお任せ下さい」
「…っ…悪いな君達…」
彼には街の統治者としての職務が待っている。
ただの父親でいることは彼に許されていなかった。
「…くれぐれも気を付けたまえ。単独行動はしないように」
アルフォード侯は再び馬に跨がり手綱を取ると、荒廃した道を引き返した。
───…
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