銀狼【R18】

弓月

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銀狼

銀狼_3

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 ──其処は確かにラインハルトの森ではなかった。


「ここは──…」


 周囲を絶壁に囲まれ、円形に広がる空間。

 覆う木々の無いその空間では、遥か上空まで視界が突き抜け、夜空に浮かぶ見事な月が地を照している。


ザザー……


 セレナが追ってきた水音の正体は、絶壁の頂上から溢れている大量の水が滝となって落ちる音。

 滝壺から広がる豊かな水は小さな湖を作りだし、白い波頭は風で穏やかに撫でられ、ゆらゆらと月の影を映している──。

「……!? 」

 中央にそびえ立つ、祭壇──?

 セレナが見たのは、明らかに人工的な巨大な建造物だ。


 さらに高く切り立つ周囲の崖の、その頂上から突き出るように生えた木々は、葉の代わりに、セレナが見たことの無い深い赤紫色の花をつけていた。

 夜の闇に浮かぶその色……口紅のように艶めいた花びらが、一枚、二枚と降ってくる。

 岩壁から突き出た根や巻蔓は、身を悶えながらもの狂おしい指のように、空を捉えてうねっている。

 ……それ等の妖しさが、美しかった。

「──…」

 この光景に見とれてしまうセレナ。

 神々しい世界に心奪われていた。



 ──しかし、そんな時

 風に舞った花びらを追った彼女の目が

 あるもので止まる──。



「……お…おかみ……?」



 すぐには信じられず、彼女がその顔から色を失うに数秒の間を必要とした。それからハッと我に返ったセレナが草むらに身を隠す。



「──…ッ」

 彼女が目にした狼はではなかった。

 四メートルはあろうかという巨大な体躯。

 絶壁から鋭く突き出た岩の、その先端にタタズみ、まっすぐと月を臨む姿はさながら一輪の白菊のようで……気品さえ漂う。

 そして

 そんな異質な狼の身体を覆うのは、銀色の毛皮だ。

 狼狽ロウバイの色がセレナの顔に走り

 彼女の脳裏に──ひとつの言葉が浮かび上がる。



 ……銀狼



 誰から聞いた話だったか。銀狼という、狼を統べる恐ろしい化け物──。

 今自分が見ているのが、その生き物だとでもいうのだろうか。

 おとぎ話としか思えないような話だった、筈なのに……!



 でも



「……っ」



 もし、もしそうだとしたら──



“ あの逸話イツワも、……本当なの? ”



 ──セレナの予感を合図にしたかのように


ググッ・・・・・


 タタズむ銀狼の身体に変化が起き始めた。




....




 頭を垂れ、背中が曲がり、銀色の毛皮が徐々に黒毛に変色する──。

 そして小さく丸まったかと思えば、黒くなった毛皮がいつの間にか風に翻るマントへと変わっていた。

バサッ‥‥

 震えるセレナが見つめる中で

 ではなくなった銀狼の顔が……マントの陰から現れる。




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