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禁断の森
禁断の森_2
しおりを挟む中にいたのはやはり女性であった。
「‥カ‥ハ‥‥!! 」
長時間 身動きの取れない状態で馬に揺られ続けた疲労のせいで、拘束を解かれたあともその女性に動く気配はなかった。
「おいおい、大丈夫か?」
感情のこもっていない言葉が掛けられる。それにも彼女は無反応だった。
しかし、男の手が彼女の頬をぺちぺちと馬鹿にするように叩くと 、虚ろであったその瞳に生気が戻った。
「…わ…わたしに触らないで……!! 」
彼女の名はセレナといった。
この道を真っ直ぐに戻ると辿り着く、小さな街に住む貴族の女性だ。
国王の住む宮殿は遥か遠く、街の人間は国王の顔も知らなければ名前すらも怪しい者が多い。
そのような隔地にある街の領有を任されているのが他でもないセレナの父──アルフォード侯爵であった。
王国軍、銃士隊のトップでもある彼女の父親は街の統治とともに周辺の警備も兼任し、そんな侯爵は国王に代わる街の人々の憧れである。
だが、当然のことながら
人望がある分、彼に恨みを持つ輩も少なくはなかったのだ。
それはこの男達も例外ではない。
「無礼者…──ッ」
「おーおー何だぁ?その態度は」
「さすがっ!お貴族様はちがうねぇ……」
彼等は近頃この地へやって来た無法者達で、そしてその首領──つまり彼等の頭は、先日軍に捕らえられた。
おそらく、処刑の執行までそう長い猶予は無いであろう。
「お前ぇの父親のせいで、俺らの仲間も頭も、みんな御陀仏さ。…どうしてくれんだよ」
「…っ…そんな逆恨み、わたしにされても困るわ」
「へぇ……アイツの娘だけあって、減らず口はいっちょまえじゃねぇか……」
「……ッ」
左右の男がセレナの腕を掴んで立たせる。
まだ体力の回復していない彼女はよろけながら何とか立ち上がった。
下町にひとり出掛けたセレナ…
そこで働く親しい青年に会うためであった。
しかし道中で突如現れたこの者達に拐われたのだ。
セレナはこの賊達がどういう連中かを知っていた。
“ 強盗や、殺人…。あらゆる罪をなんの躊躇もなく犯す者達── ”
可哀想な彼女のブルーの瞳は、臆病なネズミのように男を見上げて揺れている。
辺りも暗闇を増し始め、誰も通らぬ山道で助けを頼みにできる筈もなかった。
「見ろよあそこ、小屋がある」
怯える彼女に気を良くしたひとりが、森の木々の隙間に山小屋を見付けて指し示す。
「ちょうどいいや」
「俺らにも休息が必要だってことだな。休息と…癒しがなぁ……ハハっ」
早速、馬の手綱を手頃な木に固定し始めた男達は、みな一様に舐め回すような視線をセレナに浴びせた。
「…そうだな…そろそろ楽しむか…!! 」
リーダー格らしい鷲のような目の大男が、豪快に笑っていち早く森に入る。
無理やり山小屋に連れていかれ、中に入って見れば、山小屋は既に住人を失った後だった。
「…何をする気なの…!? 」
不気味に笑う男達に、セレナの不安は益々大きくなる。
「お前にお似合いの物をやるよ、お貴族様…!! 」
「あっ…や…!! 」
蛙鼻の男が手にしていたのは植物の蔓で編まれた太い首輪。
彼は抵抗するセレナを捕まえて彼女の細首にそれを固定してしまった。
「へへ…似合ってるぜ?」
「──…ッ」
首輪に繋がったロープが──男の手に握られている。
セレナの顔は悔しさのあまり真赤であった。
…彼女の普段の生活は、一般的な貴族のそれとは異なるもので、宮殿の女性達のような綺羅びやかなドレスも趣味も彼女には無い。
だがそれでも、身体に流れる貴族の血には揺るぐことの無いプライドがあり、またそれに恥じない清く美しい自分を守ってきたつもりだ。
それなのに…侯爵令嬢である自分がこんな連中相手に、されるがまま。
セレナは深く傷ついた。
「自慢の一人娘がさんざんに遊ばれた後で突き返されてみろ…アイツ、どんな顔するだろうな……!! 」
「ああ、楽しみだぜ」
醜い顔を更に下品に歪ませて
男達はセレナの全身に品定めするような不躾な目線を送る。
「…いや だ、来ないで……!! 」
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まだ幼さの残る顔をしていながらも、細身の身体に不釣り合いに豊かな胸が十分に男を誘う術を心得ている。
そんな彼女の菖蒲色の清楚なドレスに、連中の手が伸びた。
……しかしだ。
「──…!? 」
「……どうした? 外が騒がしいな……」
その時、彼等は異変に気付いた。
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