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第十九章

空虚なる交錯

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ギィー・・・・パタン


「………ぅ゛」


 ハナム王妃を帰したシアンが扉を閉めた時、奥の間から微かな呻き声があがった。

 それを聞き逃さなかったシアンが、スルタン・アシュラフの眠る寝台に駆けつける。

「陛下、どうされましたか」

「ハァ……っ」

「気分がすぐれませんか?」

「…………水、を」

「承知しました」

 シアンは一度戻って、卓上から水差しを手に取り、中身を器に移して寝台へ急いだ。

「陛下、こちらを。……身体を起こせますか?」

 義手の左手を肩にそえて、起き上がるよううながす。

 寝苦しそうに掛け布を剥いだアシュラフは、肩にふれたその無機物の感触に、薄目をあけて応えた。

「シアン……か?」

「はい、シアン・ベイオルクでございます。お辛いでしょうが身体を起こし、こちらを飲んで下さい」

「……」

 暗い部屋で、焦点が合わないままアシュラフの目が動く。

 少し離れたところに灯るオイルランプが、こちらを覗き込んでいるシアンの輪郭をゆらゆらと浮かび上がらせていた。

 影で隠されたシアンの顔に表情は無く

 右手に持った水杯でさえ……暗闇のせいで、ともすれば凶器に見える。

 荒い呼吸を繰り返すアシュラフは、目の前の光景をぼんやりと静観した。



 いつもの悪夢と、同じ景色だった。



「ハァ………ハァ………ふっ」

「あの……陛下?」

「お前が……それを俺に飲ませろ」

 アシュラフが動かないので困っているシアンを、口の端で笑う。

「わ…私が、でございますか。それは…」

「早くしろ」

「……っ」

 シアンはためらったが王命には逆らえず

 器の水を口に含み……おずおずと被さった。


「……ッ……ん」


ゴクッ...


ゴク....ゴキュ....


 含んだ水を少しずつ、口で移す


 それに合わせてアシュラフの喉が鳴り、冷たい水を飲み下した。


「…っ、ハァ…ハァ…」

「……、もう、一度だ」

「…か…かしこまりまし た」

「水はもういい…!」

 水を飲ませたシアンが顔をあげようとすると、男の手がうなじをグイと押さえて引き戻した。

 水滴をまとった二人の唇はすぐに合わさり、舌を絡め始める。

 ああ……やはりだ

 声も視線も固く冷たいのに、舌の弾力はこんなにも柔らかく、包みこもうとしてくる。

「ハァッ…‥何故 ですか‥…陛下‥…」

「…っ…!!」

 甘い声色で抗議するシアン。

 アシュラフはより深く彼の唇を奪った。

 シアンが身体を支えるために手を突き出し、男の胸板を強く押しても構いやしない。

 逆にその手を掴み返して、寝台の上に彼を引き入れる。

 腕を引かれて倒れ込んだシアンは敷布の上で転がり、アシュラフと体勢が逆転した。


ドサッ...!


「…ッ‥‥ハァ‥…ハァ‥‥ハァ」


 仰向けとなったシアンは、すっかり上気した顔を隠そうと首を横に向ける。


 ハナム王妃と相対していた時の冷静さはとっくに剥ぎ取られた様子だ。今はただただ弱く、色めかしい。


 そんな彼を腕の中で見下ろすアシュラフは、苦しそうに眉間にシワを寄せて低く息を吐き出す。


「はぁ……!!」


 ぼんやりとした瞳はまだ…夢とうつつを交錯しているのかもしれない。




「………俺を」



「ハァ‥…っ…‥ァ」



「俺を……《 兄 》と、呼んでみろ…!!」



「‥‥‥‥‥!?」



 シアンもまた、その言葉を……

 幻聴であると疑った。







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