127 / 143
第十九章
愛と憎悪
しおりを挟む──
「──…陛下、これ以上は毒ですよ」
空気がシン──と静かになる、夜々中の刻、まだ起きているアシュラフ王へシアンが提言する。
「お休みにならないのですか?」
「……ああ」
王の前には酒のはいったアンフォラが置かれていた。
それを召使いにさせるでもなく、小さな酒器に自身で手酌している。
コポコポと注がれる真っ赤な酒は、まるで血のようだ。
許容値をこえても飲むのをとめないアシュラフを、側で控えるシアンが心配している。
そして沈黙をもてあそんだのか、ふいにアシュラフが問いを投げた。
「お前は…今日が何の日か知っているか」
「いいえ」
「…少しは考えるそぶりを見せろ、愚か者が」
今にも眠りにつきそうな小さな声だ。
「そうですね……。思い当たるふしがあるとすれば、ひとつだけ」
「ふっ……そうか、珍しい奴だ」
「私は長い間忘れていました。ただつい先日に、…ある人に伝えられました。それで思い出したのです」
「なるほどな…」
「──顔色がすぐれないようです。水をお飲みになりませんか?」
「ああ…わたせ」
ずいぶん酔いが回っている。
それが十分にわかるので、シアンはせめてと水を手渡した。
渡された水をとったアシュラフは面倒くさそうに口元へ運ぶ。
パリンッ──!
ところが、水をいれた器が指の間を滑り落ちて、石床の上で砕け散った。
「…ッッ…お怪我はありませんか?」
「ああ……」
「もうお休みになってください。寝台の用意は整っていますから」
シアンは義手の左腕に彼の手をのせ、後ろから肩を持った。
ふらふらしているアシュラフを恐る恐る支えて、椅子から寝台まで導いていくと
ちょうどたどり着いた時、彼は気を失ったかのように敷布に倒れ込む。
「陛下…っ」
「………、………、………」
「…すでにお眠りですね」
寝息が聞こえたので、ほっと安堵する。
眠る君主にそっと掛け布をして、乱された敷布を整えた。
何故こんなにも無防備なのか。
それはシアンにもわからない。
初めての拝謁でいだかれた疑念は何ひとつぬぐえていないのに、あれ以降のアシュラフは、シアンを問い詰めるようなことを一切してこない。
「…貴方は気付いておられるのですか?僕が何者なのかを」
「……」
「フ……まさか、そんな事」
そんな事が…あってたまるか
切なく瞼をふせて、寝台を離れる。
酒器の片付けは明日やらせればいいだろう。
シアンは奥の間を出て、寝所の入口となる通路の壁に背を預けた。
───カン、カン
「……?」
だが自分も眠ろうと、腰をおろそうとした時
扉に付いた銅製のリングが外から打ち鳴らされる。それは来訪の合図だった。
もちろん、客人が来る時間では無い。
「どなたですか?」
シアンは扉向こうに問いかけながら、さりげなく右手を腰のクルチ(三日月刀)に添えていた。
「酒の追加は頼んでおりませんよ」
「……私です、シアン・ベイオルク」
「……!」
「ここを開けなさい」
扉の傍には王宮警備兵が控えているはずだが、返ってきたのは女人の声。これは──
ギィィ・・・
「中へいれて」
扉を開けたそこには、水杯をのせた盆を持つハナム王妃がいた。
1
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる