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第六章
復讐者の記録──弐
しおりを挟む『 ………、フゥー… 』
その後、自由になった腕で顔を隠し仰向けのまま動かない少年と──
そこから少し離れた部屋の角で、朱色の煙管から煙を吐き出すヤンがいた。
いきなり襲ってきた時とはまたもや態度を一変させて、円卓に肩肘を付いたヤンは静かに少年を見守っていた。
『 僕は…もう、死んだ身だ…… 』
『 …… 』
『 このようなマネをして生きる必要は無い…… 』
ヤンは、裸体を隠さず横たわったままの少年が、涙を流して泣いているに違いないと思っていた。
しかしそうではないらしい。
少なくとも、こうして呟めく彼の声に嗚咽は含まれていなかった。せっかく沢山喘がせて悦楽を擦り込んでやったというのに……元の通り、感情を殺された声に戻ってしまっている。
うるさい──
騒ぐ客達を前にボソリと呟いた、あの時の声と同じくらい……絶望を滲ませて
『 ──…お前は、死んでないよ 』
『 ……!? 』
『 お前は生きている。残念なコトにな 』
沈黙の後、ヤンがそう声をかけた。
投げ出された少年の足がピクリと反応する。
『 もとのお前が何処の誰でどんな境遇だろうがそんなもの娼館では無意味だ……忘れちまえ。お前が言うように死んでしまったと思えばいい 』
『 …… 』
『 だが " 今の " お前はここに生きている…。あの女将に拾われて俺と引き合わされたんだ。不運だったなあ 』
『 だからなんだ。死に損なった僕はっ……生きるのが、義務なのか? 』
『 いや権利だ 』
『 …ッ…? 』
相手の言葉が不可解で、少年は思わず目を開けた。
顔を隠していた腕を下ろしてヤンのいる斜め後ろを仰ぎ見る。
『 どういう……意味? 』
『 フゥーー……、クク、…やっと俺を見たか 』
煙管を顔の横に掲げたヤンは、少年と目を合わせて年長者の笑みを浮かべた。
『 お前は賢いガキだから教えてやるよ。キサラジャは国のため家のため──生きる義務を背負った人間で溢れている。ただ親から継いだ役目を従順にこなして真面目に働くだけの連中がな 』
『 それ……平民のこと……? 』
『 俺は貴族も国王も同じだと思うね 』
煙草盆のふちで灰を落としたヤンは、話しながらニヤリと口角を上げる。
『 だが賤人だけは……な、生きる義務がないのさ。どこで野垂れ死のうが誰にも看過されず、どう死ぬかは己の自由。俺に言わせればそれに気付かない無能どもが多すぎる 』
彼の表情は、何者にも屈しない。その自信に満ちている。
強がりではない。
ヤンは本心で、他の賤人はおろか平民や貴族達、そして国王までもを見下しているのだ。
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