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第二章
籠の鳥の境遇
しおりを挟む「オメル…君はもっと他人を警戒したほうがいい」
シアンは自身の容姿を褒められる経験が絶えずある。それは必ず下心と一緒であると決まりきっていた。
だがオメルのこれは違う。
彼のは純粋な憧れだ。これは、不味い。
「…っ…シアン?どうした?」
「僕は君が憧れるような人間じゃないよ。顔も身体も……、コレが人より優れているのは、コレが僕の商品だからだ」
「しょうひん…?」
「僕は自分の意思で、自分自身を売ってきた。これまでも、…そしてこれからも僕はコレを武器に生きていく。その為に整えている商品だ」
「あ…!」
シアンの言葉の意味を理解したオメルは両手でハッと口元を覆った。自分の失言に気付けないほど、兵団にいる彼は子供ではなかったというわけだ。
「僕の身体はね、そんなキラキラとした目で見詰めるものじゃないのだから……」
「あ、の…」
「──…そもそも君がこんな場所にいるのも、その警戒心の無さが原因じゃないのかい?」
「……!」
シアンの語気はなおも冷たかった。
オメルは一気に大人しくなる。
最後のひと言は余計だったかもしれない。そうわかっているが、シアンは敢えて厳しく言ったのだ。
向けられる好意は不快じゃない。
だが、駄目だ。
コレはそんなふうに讃えてはならないものだ。
「わかったかい?」
「う、う…ん…」
オメルの返事はしまりがなかった。
それもそうか。シアンの生き方を知って軽蔑したのだろう。
だからシアンは「他人をもっと警戒しろ」と告げたのだ。綺麗な物に、甘い誘いに、裏が無いとは限らない。
「……」
厳しめに諭されたオメルが泣き出すかもしれないので、シアンはとりあえず手近な椅子に座り、彼を見守ることにした。
「…っ」
「──…」
「で」
「…?」
「で~~~、…………も」
俯いたオメルが何か言っている。
「でも!シアンはキレイだ……!」
「───」
直後、顔を上げた瞬間に彼は大声で叫んだ。
シアンが呆れて言葉を返せないでいると、オメルの早口が炸裂する。
「理由なんてあってもなくてもシアンはキレイだろ!商品がどうとか意味わかんないよ!だってそれはっ…生きていくためのキミだけの武器なんなら、それでずうっと戦ってきたってことは、だから、つまり、すごく強い武器ってことで…!強くてキレイな武器なんだから、そのおかげで生きてるならもっと見せびらかして自慢していいんだ」
「???」
「オレの母ちゃんは商人に襲われたときっ…イヤだって抵抗して、それで殺されたけど……!そんな母ちゃんは格好いいけど、でも、でもさ、格好いいけど死んじゃったんだ。死んだらきっと、ダメなんだから……」
「……」
「死んだらダメだから……死んでないシアンは……強くて格好いいよ。オレは、憧れる……っ」
「……?」
可笑しな話だ。
オメルの話が真実なら、彼の母親は誇りを守って死んだ。確かに尊厳を守ったのだ。その魂は神の祝福とともに陽の国に受け入れられたろう。
それに比べ、自らのなんと穢れたことか。
「シアンはキレイだろ!?」
「んー…」
シアンはオメルの言葉を理解できなかったが、まだこれだけ喋るなら泣き出すことはなさそうだと、ひとまず抗弁するのをやめておいた。
──…
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