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第二章 柴田勝豊家老・山路将監
柴田勝家と丹羽長秀
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織田信孝の家中を離れた山路兄弟は、六月下旬、清須会議のために尾張にやってきた柴田勝家と顔合わせした。
勝家は、山路将監正国を自身の養子勝豊の家老として、武勇にすぐれる山路久之丞一勝を物頭として、こちらも勝豊につけた。
こうして、かれら山路兄弟の柴田勝豊家臣としての新しい生活がはじまったのであった。
山崎の戦いで、信長の仇討ちの功を羽柴秀吉に奪われた柴田勝家は焦っていた。
勝家は、織田家中における自身の存在感が示せなくなるとはおもわなかったが、主導権を秀吉にとられまいかという疑念がぐるぐるとうずまいて、心の奥底に澱のようにたまっていった。
勝家がそう考えるに至るには、ある男の行動があった。
その男は長く柴田与党として織田家中にあって、二番手を自任し、柴田勝家を支えてくれていた。その男が柴田与党としての立場から離反したのである。
その男とは?
丹羽長秀――。
長秀は、勝家と同じく、織田家の譜代であり、十五歳の幼年のころからずっと信長に仕えてきた。長秀、勝家、滝川一益、明智光秀、羽柴秀吉の五人を「織田五大将」と、特別のくくりをする際にも、丹羽長秀の名前はかならず指折られる。それだけの重鎮である。
譜代の勝家や長秀は、途中で織田家に仕官した一益、光秀、秀吉を下に見ていたことは否定しえまい。
それゆえ、勝家は、長秀のことを同士以上の存在として頼りにしていたし、また長秀にとっても、勝家は心強い同僚、あるいは兄のように見ていたことは、自明であろう。
しかし、それもこれも織田信長という太陽、あるいは重石が存在していての関係だったのである。
長秀は思う。
信長亡きあと、どう自分を立てていくのか、あるいは、誰かに寄りかかってでも立っていかねばならない――、と。
そして、勝家のみるところ、長秀は、どうやら自分ではなく秀吉に寄りかかっていくほうへ舵を切ったのではないか? どうもそう疑いたくなる傾向を長秀は見せている。それが勝家を、清須会議招集へ駆りたてた。
長秀の去就と、秀吉の向後、それを確認したいとおもった。
そういう過程をへて、清須会議の発起人は柴田勝家となった。
本能寺の変が六月二日。
山崎合戦が六月十三日。
秀吉の中国大返しがあったからという理由付けがあるにしても、信長の仇討ちが短期間のうちに果たされたことは、勝家にとっては、不運であった。
なぜなら、秀吉は、みなが信長亡きあとの身の振り方に迷っているゴタゴタを利用して、ポスト信長政権の舵取りを自身が担っていくという、暗黙の諒解のようなものを短期間のうちに形成しつつあった。
とくにその流れを肌をもって感じたのが長秀であった。
長秀は秀吉に籠絡された。
長秀には長秀の考えがある。ために、勝家は忸怩たるおもいで長秀の出処進退を見守らなければならなかった。
しかし、勝家は長秀の気持ちをもういちど自分に引き戻したいともおもった。
それが清須会議で事態の回転を目指した勝家のもくろみである。
勝家は、山路将監正国を自身の養子勝豊の家老として、武勇にすぐれる山路久之丞一勝を物頭として、こちらも勝豊につけた。
こうして、かれら山路兄弟の柴田勝豊家臣としての新しい生活がはじまったのであった。
山崎の戦いで、信長の仇討ちの功を羽柴秀吉に奪われた柴田勝家は焦っていた。
勝家は、織田家中における自身の存在感が示せなくなるとはおもわなかったが、主導権を秀吉にとられまいかという疑念がぐるぐるとうずまいて、心の奥底に澱のようにたまっていった。
勝家がそう考えるに至るには、ある男の行動があった。
その男は長く柴田与党として織田家中にあって、二番手を自任し、柴田勝家を支えてくれていた。その男が柴田与党としての立場から離反したのである。
その男とは?
丹羽長秀――。
長秀は、勝家と同じく、織田家の譜代であり、十五歳の幼年のころからずっと信長に仕えてきた。長秀、勝家、滝川一益、明智光秀、羽柴秀吉の五人を「織田五大将」と、特別のくくりをする際にも、丹羽長秀の名前はかならず指折られる。それだけの重鎮である。
譜代の勝家や長秀は、途中で織田家に仕官した一益、光秀、秀吉を下に見ていたことは否定しえまい。
それゆえ、勝家は、長秀のことを同士以上の存在として頼りにしていたし、また長秀にとっても、勝家は心強い同僚、あるいは兄のように見ていたことは、自明であろう。
しかし、それもこれも織田信長という太陽、あるいは重石が存在していての関係だったのである。
長秀は思う。
信長亡きあと、どう自分を立てていくのか、あるいは、誰かに寄りかかってでも立っていかねばならない――、と。
そして、勝家のみるところ、長秀は、どうやら自分ではなく秀吉に寄りかかっていくほうへ舵を切ったのではないか? どうもそう疑いたくなる傾向を長秀は見せている。それが勝家を、清須会議招集へ駆りたてた。
長秀の去就と、秀吉の向後、それを確認したいとおもった。
そういう過程をへて、清須会議の発起人は柴田勝家となった。
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秀吉の中国大返しがあったからという理由付けがあるにしても、信長の仇討ちが短期間のうちに果たされたことは、勝家にとっては、不運であった。
なぜなら、秀吉は、みなが信長亡きあとの身の振り方に迷っているゴタゴタを利用して、ポスト信長政権の舵取りを自身が担っていくという、暗黙の諒解のようなものを短期間のうちに形成しつつあった。
とくにその流れを肌をもって感じたのが長秀であった。
長秀は秀吉に籠絡された。
長秀には長秀の考えがある。ために、勝家は忸怩たるおもいで長秀の出処進退を見守らなければならなかった。
しかし、勝家は長秀の気持ちをもういちど自分に引き戻したいともおもった。
それが清須会議で事態の回転を目指した勝家のもくろみである。
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