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山南・沖田 前編
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沖田「どうして逃げ切ってくれなかったのですか?俺、山南さん、敬さんにはどこまでも逃げて欲しかったんですよ。なのに何故…」
山南「わかってるくせに…いうなよ。それを許したら新撰組が困るだろ」
沖田「それでも俺は…」
山南「諦めろ」
沖田「だったら、わかってたんだったら、何故抜けたんですか」
山南「俺の居場所はもうあそこにはないんだよ…」
沖田「そ、そんな事」
山南「わかってるくせに…いうなよ」
沖田「俺、敬さんの気持ちわかります。俺は、そんな事いっちゃいけないから…」
山南「なら聞くが、総司、お前は俺がずっと逃げ続けたら…屯所に戻る事なくずっと俺を追いかけるかい?」
沖田「俺…」
山南「悪かった。お前には酷な問いだった…。」
沖田「ち…違う!」
山南「いいんだよ。わかってる。わかってるから、何もいうな、忘れてくれ…」
沖田「敬…さ…」
山南「昔の…試衛館の頃がいちばんよかったな…戻れるものなら…いや、よそうか」
沖田「今からでも逃げて…」
山南「言うな、総司。お前が来てくれて嬉しいよ。…歳だね?」
沖田「言われなくても志願しましたよ。敬さんにはずっと俺を見ていて欲しかったのに…」
山南「総司。お前には近藤先生や歳もいるだろ?!」
沖田「二人は特別ですよ。わかってるくせに…ずるいですよ。敬さん」
沖田「俺になにひとつしがらみがなかったら…敬さんについて行きたいですよ」
山南「…総司、お前には二人を置いていけない。そうだろ?」
沖田「…わかってますよ」
沖田「ねぇ、敬さん…」
山南「何だい…」
沖田「あの頃が…あの頃が一番楽しかった…」
山南「そうだな…」
山南「そんな顔するな、総司。お前は笑顔の方が似合うんだから」
沖田「………」
山南「懐かしいなぁ~道場で皆と汗を流した日々…」
山南「酒を呑み交わしながら、この先の将来について誰しも分け隔てなく討論しあった日々…余りにも昔になった…」
山南「総司、お前を初めて見た時、鳥肌が立ったよ。お前は別格だと。お前の傍だけ空気が違った」
沖田「………」
山南「誰にもない風、お前だけが身に纏っていた。そんなお前がふと見せる淋しさに俺はいつしか心奪われた」
沖田「やだな…買いかぶりすぎですよ」
山南「俺は感じたままを言った。初めてだがな」
沖田「嬉しくないですよ…」
山南「最後なんだから諦めろ。好きに、好きに言わせてくれ」
沖田「いやですよ」
山南「お前を見るだけであの頃を思い出せる…お前は道場で木刀をふるい、真剣ではただ強者を求め、子供らとは楽しく無邪気に遊ぶ…そんな無垢なお前がいちばん好きだな、俺は…」
沖田「敬さんもよく一緒に遊んでくれましたよ」
山南「そうだった、そうだった………総司…」
山南「己より弱者を十、二十人抜刀するよりもただ一人の猛者と抜刀したい…お前はもう、それさえ叶わなくなるんだな」
沖田「仕方ないです。でも齊藤さんが本気で遊んでくれたら叶うんですけどね」
山南「ははは…無理だな」
沖田「やっぱりそう思います?」
山南「必ず勝つ相手じゃないと己からは仕掛けないさ」
沖田「そんな事ないですよ。俺を倒す秘策持ってますよ、齊藤さんはね。俺にはわかるんです。なのにひた隠しにするんだから。その先を知りたい俺にそんな意地の悪いことを…俺はその先の高みをどうしても知りたいのに…」
山南「その先の高みか?!今でも十分天賦の才に恵まれてるじゃないか?」
沖田「何不思議なこと言うんですか…俺がその先があるってわかるのに信じてくれないだなんて…やっぱり…」
山南「総司…お前はどこまでも剣には純粋で貪欲だな」
沖田「俺にはそれしか生きる術がなかったんですから…仕方ないですよ………」
山南「そんな顔するな」
沖田「敬さんだから素直になれるんですよ」
山南「お前はいつも素直だよ」
沖田「やめてください。恥ずかしい…。いつも以上に素直ですよ…こんなに話出来るの、もう…最後なんですから…」
山南「そうだな。屯所までに語り尽くせばいいか…」
山南「総司、お前が俺を『敬さん』って呼ぶ時は、お互い非番で子供らと遊んでる時だけだよな。屯所ではただ一度たりともなかった…」
沖田「………」
山南「お前は俺を捕まえに来た筈なのに…相変わらず、純な奴だな…」
沖田「敬さんこそ、逃げないじゃないですか…どうなるか、わかってても…」
山南「これでも大好きだったさ…近藤先生、歳、新さん、源さん…名前を挙げるときりがない…総司と平助は特別だな…俺はお前が一番可愛かった」
沖田「………」
山南「居場所が無いと悟った以上、俺は何処に居ればいいと云うんだ?直訴しても俺の言葉は届かない。思想がたがってしまったらどうしようもない。どれだけ仲間を愛していようがな。そして俺は裏切れない。もう、これ以上心の痛みに耐えられんのだよ…許せ、総司…」
沖田「敬さん………」
山南「どうせなら刀を向き合って闘って果てたかった。叶うなら仲間に斬られてもいい。出来れば…お前と剣を交えたいものだが、やはり嫌か?」
沖田「嫌ですよ。無理なこと言わないでくださいな。俺にはそんな事…できるわけがない…」
山南「ははは…わかってる。お前と命のやり取りをお前が求めてないことぐらい…江戸に戻った所で何もありはしない…だから抜けて死罪になることを選んだんだ」
沖田「死罪………」
沖田「最初っから決めていたんですね」
山南「最後ぐらい、な」
沖田「そこまで腹くくってたなんて…俺にはもう、何もできやしない…悔しいな、本当、悔しいですよ、敬さん…」
山南「言うな…」
前編 了
山南「わかってるくせに…いうなよ。それを許したら新撰組が困るだろ」
沖田「それでも俺は…」
山南「諦めろ」
沖田「だったら、わかってたんだったら、何故抜けたんですか」
山南「俺の居場所はもうあそこにはないんだよ…」
沖田「そ、そんな事」
山南「わかってるくせに…いうなよ」
沖田「俺、敬さんの気持ちわかります。俺は、そんな事いっちゃいけないから…」
山南「なら聞くが、総司、お前は俺がずっと逃げ続けたら…屯所に戻る事なくずっと俺を追いかけるかい?」
沖田「俺…」
山南「悪かった。お前には酷な問いだった…。」
沖田「ち…違う!」
山南「いいんだよ。わかってる。わかってるから、何もいうな、忘れてくれ…」
沖田「敬…さ…」
山南「昔の…試衛館の頃がいちばんよかったな…戻れるものなら…いや、よそうか」
沖田「今からでも逃げて…」
山南「言うな、総司。お前が来てくれて嬉しいよ。…歳だね?」
沖田「言われなくても志願しましたよ。敬さんにはずっと俺を見ていて欲しかったのに…」
山南「総司。お前には近藤先生や歳もいるだろ?!」
沖田「二人は特別ですよ。わかってるくせに…ずるいですよ。敬さん」
沖田「俺になにひとつしがらみがなかったら…敬さんについて行きたいですよ」
山南「…総司、お前には二人を置いていけない。そうだろ?」
沖田「…わかってますよ」
沖田「ねぇ、敬さん…」
山南「何だい…」
沖田「あの頃が…あの頃が一番楽しかった…」
山南「そうだな…」
山南「そんな顔するな、総司。お前は笑顔の方が似合うんだから」
沖田「………」
山南「懐かしいなぁ~道場で皆と汗を流した日々…」
山南「酒を呑み交わしながら、この先の将来について誰しも分け隔てなく討論しあった日々…余りにも昔になった…」
山南「総司、お前を初めて見た時、鳥肌が立ったよ。お前は別格だと。お前の傍だけ空気が違った」
沖田「………」
山南「誰にもない風、お前だけが身に纏っていた。そんなお前がふと見せる淋しさに俺はいつしか心奪われた」
沖田「やだな…買いかぶりすぎですよ」
山南「俺は感じたままを言った。初めてだがな」
沖田「嬉しくないですよ…」
山南「最後なんだから諦めろ。好きに、好きに言わせてくれ」
沖田「いやですよ」
山南「お前を見るだけであの頃を思い出せる…お前は道場で木刀をふるい、真剣ではただ強者を求め、子供らとは楽しく無邪気に遊ぶ…そんな無垢なお前がいちばん好きだな、俺は…」
沖田「敬さんもよく一緒に遊んでくれましたよ」
山南「そうだった、そうだった………総司…」
山南「己より弱者を十、二十人抜刀するよりもただ一人の猛者と抜刀したい…お前はもう、それさえ叶わなくなるんだな」
沖田「仕方ないです。でも齊藤さんが本気で遊んでくれたら叶うんですけどね」
山南「ははは…無理だな」
沖田「やっぱりそう思います?」
山南「必ず勝つ相手じゃないと己からは仕掛けないさ」
沖田「そんな事ないですよ。俺を倒す秘策持ってますよ、齊藤さんはね。俺にはわかるんです。なのにひた隠しにするんだから。その先を知りたい俺にそんな意地の悪いことを…俺はその先の高みをどうしても知りたいのに…」
山南「その先の高みか?!今でも十分天賦の才に恵まれてるじゃないか?」
沖田「何不思議なこと言うんですか…俺がその先があるってわかるのに信じてくれないだなんて…やっぱり…」
山南「総司…お前はどこまでも剣には純粋で貪欲だな」
沖田「俺にはそれしか生きる術がなかったんですから…仕方ないですよ………」
山南「そんな顔するな」
沖田「敬さんだから素直になれるんですよ」
山南「お前はいつも素直だよ」
沖田「やめてください。恥ずかしい…。いつも以上に素直ですよ…こんなに話出来るの、もう…最後なんですから…」
山南「そうだな。屯所までに語り尽くせばいいか…」
山南「総司、お前が俺を『敬さん』って呼ぶ時は、お互い非番で子供らと遊んでる時だけだよな。屯所ではただ一度たりともなかった…」
沖田「………」
山南「お前は俺を捕まえに来た筈なのに…相変わらず、純な奴だな…」
沖田「敬さんこそ、逃げないじゃないですか…どうなるか、わかってても…」
山南「これでも大好きだったさ…近藤先生、歳、新さん、源さん…名前を挙げるときりがない…総司と平助は特別だな…俺はお前が一番可愛かった」
沖田「………」
山南「居場所が無いと悟った以上、俺は何処に居ればいいと云うんだ?直訴しても俺の言葉は届かない。思想がたがってしまったらどうしようもない。どれだけ仲間を愛していようがな。そして俺は裏切れない。もう、これ以上心の痛みに耐えられんのだよ…許せ、総司…」
沖田「敬さん………」
山南「どうせなら刀を向き合って闘って果てたかった。叶うなら仲間に斬られてもいい。出来れば…お前と剣を交えたいものだが、やはり嫌か?」
沖田「嫌ですよ。無理なこと言わないでくださいな。俺にはそんな事…できるわけがない…」
山南「ははは…わかってる。お前と命のやり取りをお前が求めてないことぐらい…江戸に戻った所で何もありはしない…だから抜けて死罪になることを選んだんだ」
沖田「死罪………」
沖田「最初っから決めていたんですね」
山南「最後ぐらい、な」
沖田「そこまで腹くくってたなんて…俺にはもう、何もできやしない…悔しいな、本当、悔しいですよ、敬さん…」
山南「言うな…」
前編 了
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